IGESコメンタリー

今回の中国・政府活動報告を環境 / 社会の切り口から見通す
国際的な発言力強化の狙いは国内の雇用面から一定の制約も

2017年4月

3月に恒例の中国・全国人民代表大会が開催され、政府活動報告が採択されて閉幕したが、その報告について環境や社会の分野から読み込んだ場合、どういうことが言えるのか、若干の考察を試みた。なお、本文中の太字はいずれも筆者によるもの。

まず、本題に入る前に、本2017年は中国にとってどのような年と言えるだろうか。昨年から始まった第13次5ヶ年計画の単に二年目ということではない。それは、本年秋には5年に一度の共産党の党大会が開かれ、「核心」とされた習近平総書記にとって二期目に入ることが見込まれること。そして、その二期目の間には、「二つの百年」の一つである建党百周年を2021年に迎える点にこそ歴史的な意義があると言える。

  1. それでは、今回採択された政府活動報告について、環境や社会面に足場を置いた場合、全般的にどのような意味合いが考えられるだろうか。

    まず、GDPの本年の目標値を「6.5%前後」(昨年の同目標値は6.5~7.0%で、同実績値は6.7%)にやや落とすなど総じて安定成長を目指す中で、「本年は雇用情勢が厳しさを増すため、雇用優先戦略を堅持し、より積極的な雇用政策を行う必要がある」との記述を始めとして、特に雇用・民生に重点を置いていくものと見られる。党大会を今秋に控えていることもあって、国内社会の安定が例年にも増して重要との認識を深めているものと推察される。

    そして、本年の「重点活動任務」としては計9項目を列挙しており、環境分野は直接にはその7番目の順番となっている。しかし、汚染対策の対象となる「企業」やそこで働く「労働者」にも広げて着目すれば、環境政策に関連する項目としては、経済改革の面で過剰生産能力削減の一番目、国有企業改革の二番目、経済構造高度化の四番目、また、雇用政策の面で民生の三番目、インフラ建設の八番目をそれぞれ挙げることができる。すなわち、「重点活動任務」計9項目のうち、関連した部分は5項目にも及ぶことになる。言い換えれば、環境政策の成否については、今後の構造調整、国有企業、雇用政策等の行方にも関わることとなり、それらの推移についても十分に留意することが必要となる。

    なお、昨年の外交を回顧する短い部分において、杭州でのG20サミット開催等と並んで、「パリ協定の発効を促した」との一文(のみ)が盛り込まれている。

  2. 次に、同様の切り口から、今回の政府活動報告での「重点活動任務」の内容をより具体的にみていこう。

    (1)直接の環境政策については、「生態環境の保護・対策」を扱った部分であり、前述したとおり、計9項目中の7番目に上げられている(昨年は計8項目中の6番目であった)。本報告中での「環境汚染が依然として厳しい情勢」、「一部の地域で深刻なスモッグが頻繁に発生」といった認識をもとに、汚染対策、特にPM2.5等の大気汚染対策を重視した内容となっている。

    例えば、(ア)生活用石炭については、総合対策を実施し、300万世帯以上で電気・ガスによる石炭代替へ・市街地での小型石炭ボイラーの廃棄、(イ)企業等の汚染源対策については、全面的に推進し、重点業種汚染対策キャンペーンの実施・オンライン監視の改善、(ウ)自動車については、旧型車の処分・クリーンエネルギー車の利用奨励、等がそれぞれ記述されている。

    汚染対策としての水質、土壌についてはそれぞれ簡潔に触れられているだけであるが、ゴミ分別処理の普及が盛り込まれている。また、生態系の保護については、「持続可能な発展を守る緑の長城を築く」との文言で結んでいる。

    (2)また、汚染源対策としての企業に着目すれば、具体的な程度は不明であるが、以下の経済政策との関わり合いが考えられる。

    (ア)まずは、過剰生産能力の削減であり、この問題については国際的な関心も強い中で、一番目の任務に上げられている。本報告中では、「供給側構造改革の推進を主軸(中国語:主線)とすることを堅持する」、「一部の産業の生産能力過剰が深刻」、「効果が現れ始めた」との記述や、「クリーンエネルギーの発展、環境保護、企業の合併・破産、旧式生能能力の廃棄従業員の再配置をしっかり行う」といったくだりが注目される。

    そして、より具体的には、本年の生産能力の削減目標値として、鉄鋼の場合は昨年からさらに5千万トン前後、石炭の場合は昨年からさらに1.5億トン以上とされている。ここで留意しておきたいのは、国際社会の関心も強い中で、中国政府は引き続き過剰生産能力の削減を推し進めていく方針と見られるが、昨年の削減の実績値は今回の報告において鉄鋼6.5千万トン以上、石炭2.9億トン以上と記述されており、本年目標値はその実績値よりいずれも低めに設定されている。特に、石炭の生産能力の削減目標値はその実績値の半分に止まっている点であり、こうした数値に着目すると、現場では生産能力の更なる削減が設備廃棄、人員整理・再配置等の点で従前に比してより困難な状況に直面している可能性も考えられ、今後の推移が益々注目される。

    また、トランプ大統領がアメリカ第一主義を標榜する中、中国がいわばその間隙を突く形で環境問題等を通じて国際社会での影響力強化を図る発言等は今後もしばしば耳にするとしても、工場廃棄の点に着目すれば、その実質的な意味での影響力強化の余地は国内の雇用面から一定の制約を受けざるを得ないものと推察される。

    (イ)次に、二番目の任務として、「国有企業・国有資産改革の推進を加速する」が上げられており、特に、国有企業の体質改善と質・効率向上を持続的に押し進めるとされている。鉄鋼、石油、電力などの高エネルギー型産業、その多くは国有企業であるが、大気汚染への影響が特に深刻とされる(なお、この点で、北京市や天津市に隣接する河北省は全国的にも大気汚染が深刻と伝えられるが、4月2日付人民日報は、共産党・政府がその河北省に深センや上海浦東に次ぐ大規模な新都市「雄安新区」の設立を決定した旨報じており、その場所の選定や決定のタイミングが特に注目される)。

    また、昨年の政府活動報告では、「本年と明年(即ち、本執筆時における昨年と本年)」の二年間を国有企業について改革によって発展を促進するとされているが、この二年間の改革の点については今回明示的に言及されておらず、積年の体質を改善するための作業の進捗状況ははっきりしない。

    (ウ)更に、産業構造の高度化が四番目の任務として上げられており、「急務は経済のパターンの転換・高度化の加速」、「調整のペースが上がった」との認識の下で、「質・効率・競争力の向上、イノベーション能力の向上、新興産業や先進的製造業の発展、『中国ブランド(中国語:品牌)』の製造」等の諸点が言及されている。

    (3)更に、そうした「企業」で働く労働者・従業員に着目すれば、同様に具体的な影響の程度は不明であるが、失業・雇用政策との関わり合いが考えられる。前述したように、「今年は雇用情勢が厳しさを増すため、雇用優先戦略を堅持し、より積極的な雇用政策を行う必要あり」とのくだりに加え、「国の安全と社会の安定、社会治安問題の解消へ」、「人民大衆がこぞって関心を寄せている際立った問題(中国語:普遍関心的突出問題)の解決に力を入れる」等の表現が注目される。

    (ア)民生改善と雇用対策については、任務の八番目に上げられている。 特に、3月15日の内外記者会見において、李克強総理は、「就業は最大の民生」、「大規模な集団的(中国語:群体性)失業について、発生するはずもなければ、発生を認めてもならない」等、社会の安定確保を図る強い意思を印象付けた。また、大卒新卒者は本年795万人に達し過去最高の見通しであり、また、都市部での新規就業者数は1100万人で昨年比100万人増と見積もられている。雇用担当の部門は、構造調整を進める中での失業者への対策と、過去最高規模での大学新卒の就職とで舵取りの難しさは二重に増すことになる。

    (イ)インフラ建設については、任務の三番目に上げられており、「持続的に向上した」との記述が見られる。内需刺激・投資拡大策として、例えば、本年の鉄道建設の目標値は8千億元(昨年の目標値同額以上)、道路建設の目標値は1兆8千億元(同1兆6.5千億元)とそれぞれされており、就業機会の更なる増加が見込まれる。そして、これは中国政府が内外に向けて推し進めている「一帯一路」の展開にも大きく寄与するものと考えられる。

  3. なお、習近平総書記が昨年秋の党の六中全会で「核心」としての地位を正式に得てから、今回は最初の政府活動報告の採択であった。党、政府の役割にそれぞれ違いはあっても、今回の政府活動報告では習近平総書記(ないし同志)と核心を直接結び付けた言い回しはざっと見ただけでも計6回に及び、やや関心を引いた。そのことは、習近平総書記の現在の指導部内での力関係を示唆している可能性もあり、一つ留意しておきたい点と思う。

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