IGESコメンタリー

中国、G20を機に構造改革に深く取り組む決意を表明-パリ協定批准の国内的意味合い

2016年10月

今回、G20が中国で初めて開催されたが、中国としてこの機会を対外的に十分意義付けるとともに、国内的な側面からいかに有効に活用しようとしたか、構造改革への取り組みおよびパリ協定批准に焦点を当て、その意味合いを考えてみたい。

  1. 最近、パリ協定について年内発効の見通しを伝える記事が多くなっているが、報道のとおり、9月4、5日の両日、中国で初めてのG20が、風光明媚な古都、杭州で行われた。杭州は、習近平主席にとってかつての勤務地であり、また、米中関係にとっても北京、上海と並ぶゆかりの地である。そのG20開幕のまさに前日の3日に、米中両国によるパリ協定批准の共同発表が行われた。中国は、開催国の立場から、米中協調の雰囲気を内外に広めるとともに、国際的な耳目を引く機会を国内政策への取り組みにも積極的に活用したと言える。即ち、国際的には米中両国がパリ協定発効に向けて事実上の牽引役として重要な役割を果たしたことを強く印象付けるとともに、国内的に見れば、習主席自ら陣頭指揮に立ち、構造改革推進への強い決意を表明した場でもあったものと受け止めている。

    報道によれば、習主席は5日のG20閉幕の辞において計5点に絞って発言したが、その第2点目の中では、「我々は構造改革を強力に推し進めていくことを決定し、優先分野及び指導原則を制定した」と述べる一方で、パリ協定については最後の第5点目の中で、「できる限り早期の発効を推し進めていく」と発言している。また、同じ9月の国連総会に出席した李克強総理は、その演説の中で、今後の中国の発展にとって供給側の構造改革が急務であることを複数回強調していること、また、改革を進めるべき主要な分野として税制等の他に国有企業(SOE)にも言及していることは、それぞれ留意に値するものと思われる。

  2. 中国を見る場合、次の三者、即ち、気候変動の緩和策、大気汚染の対策、供給側の構造改革について、その政策の方向性は相互に関わり合っていると考えられる。例えば、北京市に隣接する河北省の場合、PM2.5等の大気汚染が深刻であるのは、石炭を多量に消費する鉄鋼、電力など高汚染・高エネルギー型産業が同省に移転・集中しているためと指摘される(「中国環境汚染の政治経済学」、知足章宏、2015年)。鉄鋼産業はその主要なものは大半が国有企業と見られるが、多くの過剰生産能力を抱えた中で、そのような部門の国有企業を対象とした構造改革を進めることは、大気汚染対策のみならず、石炭が各種エネルギー源の中で単位熱量当たり最もCO2排出が多いことを考え合わせると、CO2排出抑制の観点から見ても好ましいということになる。

    また、成長率の減速傾向が伝えられる中にあって、中国での経済改革は正念場にさしかかっており、産業構造の高度化の推進は本年から始まった第13次5ヶ計画でも最優先課題の一つに取り上げられている。明年には5年ぶりの党大会の開催も控えており、改革について前向きな方向性をしっかりと根付かせておきたいところであろう。更に、一般的に条約を批准する権能はほぼ2ヶ月毎に開かれている全国人民代表大会(立法機関)の常務委員会にあるが、今回、同常務委員会によってパリ協定の批准がなされたのはG20開幕のまさに直前の段階であり、換言すれば、この機会に向けて、国内の関係機関が調整の上、周到に準備を進めた形跡が窺われる。

  3. しかし、一国の発展を推し進めていく上での構造改革の有用性には異論がないとしても、中国の場合、それは国有企業に抜本的な体質改善を迫るものであり、また、労働者の相当数の削減も見込まれ、更には、環境問題に関わる地域住民の権利意識が高まりを見せていく中で、当局が仮にもひとたび舵取りを誤れば抗議活動等を通じて社会不安を招来しかねない。その改革の実施には果断にも細心の留意が必要とされることになろう。

  4. 今回発表されたG20首脳宣言を見ると、供給側の構造改革に租税政策の手段が有効であるとの観点から、「国際租税研究センター(an international tax policy research center)」を中国に設けるとされている(パラ19*)。因みに、腐敗対策の箇所でも、国際的な協力を進めるため、中国に関連の「研究センター」を設けるとの中国のイニシャティブを歓迎するとされており(パラ22*)、中国としては、資金提供の分野のみならず、センター発足を通じた形でその専門性やノウハウの吸収にもそれぞれ関心を寄せていることが看取される。

    また、今回の首脳宣言の全体的なトーンについて、特定の語句の頻出度を2014北京APEC(この時も習近平主席が議長役)や昨年の2015アンタルヤG20でのそれぞれの首脳宣言と比較してみると、今回の首脳宣言は中国の国内状況を色濃く反映したものと見ることができる。因みに、①2014北京APEC、②2015アンタルヤG20、③2016杭州G20、の順に各首脳宣言での特定語句の言及回数(英文ベース、宣言本文部分のみ)を初歩的に調べてみたところ、例えば、「構造改革(structural reform)」は3-1-9、「過剰生産能力(excess capacity)」は0-0-4、「腐敗(corruption)」は7-4-11となり、いずれも今回の頻出度が結構高くなっている。このことは、中国政府にとって優先度の高い構造改革や腐敗対策の取り組みをいくらかでも前に進めるために、今回、本宣言での記載を国内に向けてのむしろ追い風となることを期待して積極的に扱った面もあるものと考えられる。

  5. いずれにしても、5年ぶりに開幕される 党大会を明年に控え、今後、中国は人事や政策面で益々重要かつ微妙な時期に入っていくものと見られ、その動向について十分に注視していく必要がある。特に、次期党大会後の2021年には建党百周年を迎えることになるが、それは「中国の夢」実現に向けて、習近平主席が2049年の建国百周年とともに「二つの百年」として最も重視しているところであり、国を挙げての一大記念行事となることが見込まれる。

脚注

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