韓国の新政権の「国民幸福政策」

2013年1月

2012年12月19日、韓国の第18代大統領にセヌリ党(*1)の朴槿恵(パククンヘ )氏が当選した(*2)。韓国は大統領制の国である。国民による直接選挙で選出された大統領は、5年単任制で任命される。韓国大統領は政府の構成のための人事権に強力な権限を握り、トップダウン(top-down)方式による政策決定の構造を持っている。これまでも各政権の特色によって、主な政策が再改編されてきた。

IGESでの研究テーマとの関連で新政権のエネルギー及び気候変動についての政策公約を見た。選挙戦での野党との違いは、結局のところ、「脱原発か/そうではないか」に帰結した。つまり、野党が脱原発を提示したのに対し、朴氏側は原発政策について「原発のストレステストを実施し、安全性を確保しながら運用する」として原発を主要電源として引き続き活用する意向を明らかにした。一方、「再生可能エネルギーについては資源マップを作成して普及目標の達成の戦略を立てると共に、温室効果ガスの削減については国際社会に公約した目標を達成する」と宣言している。

選挙の結果が確定した直後、朴氏は第18代大統領選挙のマニフェストとして「国民幸福時代」を築くと力を込めて語った。さらに、次期政府の名称を「国民幸福政府」(仮称)とし、これには国政運営のパラダイムを国から国民に、経済成長に伴う国家発展の果実が個人の生活と幸福につながらなければならないという意味を込めていると述べた。

現在の李明博政権は「低炭素グリーン成長」という、環境保護と経済発展のウィン・ウィン戦略を国家ビジョンとし、これは人類が進むべき健全なる発展のあり方であり、さらに、生活の質を高め、幸福につながると主張した。新朴政権の「国政運営の5大キーワード(*3)」をみると、福祉政策を通して国民の幸福政策を実現させようとしている。しかし、早くもその政策の効果をどのように図ることができるのかと、一研究員として疑問が浮かんだ。李明博政権の「低炭素グリーン成長政策」を評価する今であるが、5年後、国民幸福ポリシーをどのように定量的または定性的に分析することができるのだろうか?

幸福を経済学の手法でアプローチした研究は20世紀後半以降から盛んになっている。抽象的なテーマであり、また、個人や文化の違いから、研究手法や結果分析にはまだ議論の余地があるものの、その必要性は高まっている。通常、ある国を表す指標として用いられるGDPは国民の福祉や厚生水準を示すのには限界があると広く指摘されている。国際社会は、個人の幸せや生活の向上及び持続可能性を社会発展の尺度とすべきであり、したがって、GDPなどの経済中心的な発展の概念を脱し、経済・社会・環境・持続可能性を包括する新たな指標の必要性に共感しているのである。幸せな国、ブータンのGNH(Gross National Happiness) (*4) 政策は具体的なヒントになるかもしれない。

韓国の新政権の幸福政策に対する抱負に期待を寄せるとともに、李明博政権が経済と環境の調和を主張して政策を一面グリーンに染めたが、「国家発展と国民幸福」の約束を掲げた新政権の色は何色になるだろう?と、『幸福度をはかる経済学』(*5) を手に取りながら一人つぶやいた。

脚注

  1. 執権与党、党名は「新しい世界と新しい国」を意味する
  2. 全国最終投票率75.8%のうち得票率51.6%で,第18代大統領に就任。就任任期は2013年2月25日から2018年2月24日。 大韓民国憲政史上初の女性大統領である。朴氏は大韓民国第5~9代大統領朴正煕の長女。
  3. 国政運営の5大キーワード:「和解ㆍ蕩平人事による国民大統合」「相生ㆍ共生による経済民主化」「 強いセキュリティと信頼外交」「安定lmlの中の変化と改革」「カスタム福祉を通じた国民幸福時代」
  4. ヒマラヤ東部の人口70万人の国。4代国王は、国家統治の基本として 「国民幸福論」を打ち出している。そして、これを総国民幸福(GNH)という指標で測定している。この指標は、社会の経済的な発展と一人一人の感情的・霊的生活の質の調和を示す。国民の97%が幸せなこの国の政治の精神は、国連のミレニアム開発目標の9番目の項目に常任国の満場一致で採択された。
  5. フライ・S・ブルーノ『幸福度をはかる経済学』(NTT出版、2012年)

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