国際応用システム分析研究所(IIASA)での
研究から得たもの

2012年10月

東日本大震災と福島第一原発事故を受けて、私は日本の代替エネルギーシナリオを作成するという研究に携わっていた。日本のエネルギー供給ミックスに原子力エネルギーが含まれている場合とそうでない場合のトレードオフ、及びそれに伴う日本の温室効果ガス排出量への影響を推定することが求められる中、日本のエネルギーシステム評価に適した経済ツールを求めて、2011年9月にオーストリア・国際応用システム分析研究所(IIASA)(*1)を訪れた。IIASAは地球規模の気候変動緩和という観点から複雑なエネルギーシステム分析を行っている国際的に著名な研究機関であり、私はIIASAが1990年代初めに開発したMESSAGEモデル(エネルギー供給戦略・環境影響モデル)に着目したのである。MESSAGEモデルは、エネルギーシステム分析の最先端ツールで、エネルギーの供給、需要、マクロ経済的要因、様々な環境的制約等を考慮し、エネルギー需給の最適化を提示するものである。

MESSAGEモデルの概念や基本的な機能全般から、日本の内外でエネルギー政策研究を行うという目的に最も適したモデルという印象を受けた。IIASAから詳細なモデル説明があり、IGESとIIASAはMESSAGEモデルを用いた共同研究の実施を決定した。そして、2012年の前半に「アジアにおける水とエネルギーの連関:長期エネルギーシナリオ評価と題した本格的な研究案を作成した。両者は、共同研究の下、知見の共有を図るとともに、アジアのエネルギー部門における政策研究でMESSAGEモデルを活用していくことになった。また、IIASAが長期エネルギーシナリオにおける水利用可能性の影響を評価するMESSAGEモデルの改訂版を開発することで合意している。

この共同研究の一環として、2012年の夏に、私は客員研究員としてIIASAに3カ月間滞在した。MESSAGEモデルの運用やモジュール追加のためのプログラムコードの習得、MESSAGEモデル用の水・エネルギー連関に関する係数の開発が主な研究課題であった。IIASAスタッフの手厚い支援を受けながら、まずMESSAGEモデルの構造、コード、運用などの基本的情報を学んだ。モデルの機能や理論を徐々に理解し、一ヵ月後には、独自のコードでテストシナリオの評価を実施できるようになった。滞在2ヵ月目には、MESSAGEモデルに組み込まれている様々なエネルギー供給技術に対する水係数を開発し、ベースラインシナリオを検証するための初期値を収集した。また、既存のMESSAGEモデルでは、世界各国を11地域にグループ化しているが、特定の地域を対象に柔軟に使用できるようにより詳細な地域区分を行う作業も並行して進めた。滞在が終わる頃には、MESSAGEモデ ルの習得、水・エネルギー連関に関する評価ツールの開発、より詳細な地域区分の初期段階完了という目標を達成することができた。

IIASAでの研究を通じて、私はエネルギー部門の定量的研究に関して多くの経験を積むことができただけでなく、自分自身の研究を国際標準に照らして評価する機会を得ることができた。若くてやる気のある研究者をIIASAのような研究機関に派遣するというIGESの取り組みによって、結果的に研究の質が向上し、IGESに恩恵がもたらされることを願っている。

Reference

  1. IGESはIIASA日本委員会の事務局を務めている。

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