研究者と他者とのコミュニケーションの
重要さと難しさ

2010年6月

気候変動問題等のいわゆる地球環境問題は、自然科学や社会科学の幅広い分野の研究対象となっている。日々、新たな研究成果や政策提言が世界中のさまざまなメディアを通じて発表される様は、まさに百花繚乱というにふさわしい。それらは世論を動かし、地球環境問題の解決に向けた国際交渉に大きな影響を与え、その結果もたらされる社会や政治の動向がまた新たな研究対象となる。研究者のコミュニティと一般社会とがこれほどダイナミックに相互作用しているテーマは、ほかにあまりないであろう。

そのような状況の中に身を置くものとして痛感するのは、研究者と他者とのコミュニケーションの重要さと難しさである。

たとえば、新たな造語・略語に関わる問題がある。世界中の多くの研究者は、問題解決のための新たな概念や制度を考案し、それを効果的に表現しようとして新たな言葉や略語を世に送り出す。それはともすると新語・略語の氾濫となり、研究者以外の人々のみならず研究者同士の間においてさえも、時に混乱をもたらす。カーボン・オフセット、カーボン・ニュートラル、コベネフィット等々、キーワードとして認知度が既にかなり高い言葉ですら、人によって解釈が異なり、議論が噛みあわなくなるケースがある。

また、研究者やそのコミュニティが一般社会や政策決定者に向けて発表したメッセージが、必ずしも正確に理解されないまま大きな影響力を持ってしまうこともある。たとえば、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC) は、2007年に発表した第4次評価報告書において、先進国の排出量を2020年までに25~40%削減することが必要と結論している」という認識を多くの人が持っているようであるが、これは誤解( 場合によっては曲解) である。IPCCは、政策についてニュートラルであることを基本姿勢としており、「25~40%削減」も、科学的知見に基づくいくつかのシナリオの一つとしてあくまでも客観的に示したのであって、「そうすべきである」と推奨しているわけではない。

こうした問題は、メッセージの受け手にも原因があるが、メッセージを発する側である研究者にも改善の必要があると思われる。単なる学術研究を超えた政策志向型の研究機関として、「研究成果の積極的なアウトリーチと具現化」を標榜するIGESは、特にこの点に気をつけるべきであろう。

Reference

  • IPCCインベントリータスクフォース技術支援ユニット(TSU):
    1999年にIGES内に設置されて以来、TSUは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のインベントリータスクフォース(TFI)の活動をサポートし、温室効果ガスの排出量及び吸収量の算出・報告手法に関わるガイドラインを策定・発行・普及促進している。

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