新たな段階に進む ADP:
2015 年合意の全体像と個別約束のあり方について

2014年5月 (Climate Edge 20号より)

2020年以降の新たな国際気候変動枠組みを検討するダーバンプラットフォーム作業部会(ADP)は、6月4日から開催される会合において新たな段階に入ることになる。つまり、これまでは「非公式協議」という形をとっていたが、6月会合からは「コンタクト・グループ」と呼ばれるより公式な交渉の場での議論が行われる。このコンタクト・グループは、特定の議題に関し、締約国会合(COP)の本会合等で採択する決議に向けた提案を行うために設置されるものである。また、議論する中身に関しては、本年12月に開催されるCOP20までに2015年合意の構成要素を検討することになっており、先月、ADP共同議長がこれまでに各国から出された様々な意見を集約したペーパーを提示した。ただし、この集約ペーパーはこれまでの多様な意見を分類、羅列したのみであり、今後、意見収斂をどのように図っていくのかは明らかでなく、交渉の難航も予想される。ここでは、現在議論されている多様なテーマの中から、2015年合意の全体像に関する議論と、2015年合意の中における個別の約束のあり方についての議論について紹介する。(*1)

2015年合意の全体像に関する議論

2015年合意が議定書となるのか、別の法的文書となるのか、あるいは何らかの法的効力を有する合意文書となるのかは予断を許すものではないが、ADPの設立経緯を踏まえると、多くの国が議定書を想定していると言える。他方、2015年合意に向けた国際交渉には、2015年までという時間的制約がある。そこで、2015年合意を一つのパッケージとして考え、その中核に議定書を置き、そこには将来の状況変化にも耐えうる基本的要素のみを書き込むことで議定書自体は簡素なものとし、その詳細や運用ルールについては(法的拘束力のない)COP決定等の柔軟に修正できるもので規定するという考え方がある。この考え方は、先進国を中心に一定の支持を得ているが、何をどこまで中核文書に盛り込み、何をCOP決定で規定するかの振り分け作業は、2015年に向けた今後の課題となる。

例えば、先進国の多くは、緩和(排出削減)と適応に関する取り組み強化の方向性・考え方を中核文書に盛り込みつつ、その運用細則は、実施手段(資金支援、技術移転、能力開発)と共にCOP決定で規定することを目指している。他方、途上国は実施手段についても緩和と適応と同列に扱うこと、つまりその強化に関する記述を中核文書に盛り込むことを求めている。2015年合意では途上国に対しこれまで以上の取り組み強化を求めることになるため、それに伴う支援の強化もこれまで以上に求められると想定される。実施手段の強化を求めている。こうした要求をどこまで認めて、2015年合意にどのように位置づけるのか、また、どのような書きぶりであれば妥協点となりうるのかについての検討が必要となる。

2015年合意での個別の約束のあり方

ADP設立に関する決定文書には、2015年合意の下での個別の約束が、どのような法的性質のものとなるかについての言及がない。合意自体が法的拘束力を持たない場合は、その下での約束や規定も法的拘束力を持たない。他方、合意自身が法的拘束力を持った場合でも、例えば、特定の行動を行う・行わないことを法的に義務付けることを示す「shall」ではなく、「should」とした場合は、厳密な意味で法的な義務を課さないことになる。この点に関して、2014年2月に提出された米国提案では、2015年合意における緩和約束の法形式について3つのオプションが示された(表参照)。(*2)

table1

第一のオプションは、合意文書と共に、その下で約束されたことにも国際的な法的拘束力があるというものである。具体例としては、京都議定書における排出削減目標が挙げられる。第二のオプションは、合意で規定される約束に国際的な法的拘束力がないというものである。米国提案には明示されていないが、このオプションは、合意文書に国際的な法的拘束力がある場合(オプション2-a)と法的拘束力がない場合(オプション2-b)が想定される。オプション2-aの例としては、UNFCCC第4条2項(a)に定められる削減努力目標(排出量の水準を1990年代終わりまでに従前の水準に戻すこと)が挙げられる。オプション2-bの例としてはCOP決定であるカンクン合意の下での緩和プレッジが挙げられる。第三のオプションは、排出削減の約束に対する国際的拘束力はないが、国内措置が国内法上担保されるというものである。つまり、国際的に法的拘束力が無い場合に国内法で法的拘束力を持たせる発想で、実施方法は各国の任意となる。第三のオプションも、合意文書の国際的な法的拘束力がある場合(オプション3-a)と、ない場合(オプション3-b)が想定される。オプション3-aの具体的なイメージとしては、議定書では具体的な排出削減約束の中身を明記せず、その国内実施のための立法措置を要求することが考えられる。こうした国内での立法措置あるいは行政措置の整備を要求することに法的拘束力を持たせる例として、バーゼル条約(第4条4項)や砂漠化防止条約(第5条(e))がある。他方、オプション3-bの具体的なイメージとしては、政治宣言やCOP決定など法的拘束力のない合意文書の中で削減約束を規定しつつ、その実施措置についても国内法上担保されるよう求めることになる。

また、削減約束の法形式に関しては、米国は先進国も途上国も同じ土俵に立つことを前提としているが、中国やインドから成る交渉グループである気候変動に関する同志途上国グループは、先進国の削減約束は法的拘束力のあるものであり、途上国のそれは自主的なものであるべきと主張するなど、別の視点からの争点もある。

いずれにせよ、こうしたオプションは、GHG排出削減約束の野心度を引き上げたり、国内での確実な実施や、幅広い参加の確保などといった観点から多角的に検討される必要がある。削減約束の法形式は、その約束が確実に実行されることの一要素に過ぎず、測定・報告・検証(MRV)制度やその手続き、アカウンティング・ルールを含めた透明性の確保や支援のあり方なども含めて包括的に議論されことが求められる。今後のADPの議論の動向をフォローする際にも、このような観点から観察・検討していくことが重要である。

*1:本稿は、『平成25年度 技術開発・移転等、気候変動対策に係る国際交渉関連調査業務(環境省)』の成果に基づく

*2:U.S. Submission on Elements of the 2015 Agreement Introduction

ページの先頭へ戻る