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パリ協定の下での透明性枠組みのあり方についての議論が開始

2016年6月23日

パリ協定は、温暖化による気温上昇を産業革命前に比べて2℃よりも十分低く抑え、さらには1.5℃以下に向けた努力を追求するという長期目標を打ち立て、全ての国が排出削減行動をとり、段階的にその取り組みを強化していくことを目指している。各国の行動や支援の透明性を高めていくことにより、お互いの努力具合をチェックしあうことが可能となり、より意欲的な取り組みに向けた相互作用が生み出されることが期待される。ここでカギとなるのは、比較可能性である。現在提出されている国別約束草案(intended nationally determined contributions: INDCs)は、その中身が多様であり、各国の努力具合の比較を困難にしている。そのため、相互チェックを通じた野心度引き上げに向けたモメンタムを作り出すためには、比較可能性を担保するような共通ルールを構築する必要がある。実際、比較可能性はNDCsのアカウンティング・ルールの基本原則のひとつとなっている(*1)。その一方で、パリ協定では、報告の内容や頻度、レビュー対象についての柔軟性の確保も謳われている。これは、定期的な報告を行う経験やそのための能力・体制が十分でない国への配慮である。つまり、野心向上メカニズムの視点から見ると、透明性枠組みを構築する上での最大の課題は、いかにして適切なレベルの柔軟性を組み込むかである。別の言い方をすると、異なる国情や能力を考慮した柔軟性を認めつつ、いかに比較可能性を確保するかということになる。

先月ボンで開催された、パリ協定の発効及び実施に向けた準備作業を行うパリ協定準備特別作業部会(APA)の第一回会合では、透明性枠組みに関する各国の最初の意見交換が行われた。この中で、特に対立が目立ったのが柔軟性のあり方であった。

先進国の歴史的責任を主張する同志途上国グループ(Like-Minded Developing Countries group: LMDC)は、先進国と途上国という二分論に基づいて、透明性枠組みの下での報告内容や頻度、提出情報の検証方法について差異を設けることを求めた。特に、6月23日のAPA非公式協議の場での中国とAPA共同議長とのやり取りは、LMDCの立場を明確に示している。中国は、各国の排出削減に関して提出される情報は「(先進国や途上国といった)国の属性に基づいて差異化されるべき」と主張した。これに対し、APA共同議長から「今後、ある途上国が絶対量の排出削減目標を採用することになった場合、いかなるアカウンティング・ルールや原則が適用されるべきか?」との問いかけがなされた(*2)。 これに対し、中国は「先進国と途上国が同じ形式のNDCを提出したとしても、提出する情報は差異化されるべきである。これは、差異化はNDCの形式のみに依拠するのではなく、異なる能力を反映することの方がより重要であるからだ」と述べた(*3)。また、インドは能力を測るモノサシとして、人間開発指標(HDI)を使うべきとしている。これは、GDPなどの経済指標と比べ、HDIの方が先進国と途上国との差がより明示的となるからだと思われる(*4)。つまり、透明性枠組みの下での報告内容や検証プロセスは、先進国と途上国の間で差異化され、柔軟性は途上国に対し先進国よりも緩いプロセスを求めるという形で与えられる、ということになる。このような考え方は、サウジアラビア、マレーシア等の他のLMDCの国々からも異口同音に出された。

これに対し、米国やEUは、透明性枠組みの下では先進国と途上国との間での差異化を設けるべきではなく、柔軟性は能力の面で本当に必要とする国にのみに与えられるべきと発言した。さらに、排出量の時系列データの収集や定期的な報告に関しては「実施による学習」が重要であると指摘し、柔軟性の付与は、異なる能力を固定するためのものではなく、能力に応じて経験値を引き上げるためのものであると主張した。

他方、途上国の中からも、先進国と途上国という二分論とは異なる差異化の考え方も出されている。例えば、AILAC(Independent Alliance of Latin America and the Caribbean)の中心メンバーであるコロンビアは、提出される情報の内容は異なるNDCsの形式(絶対量排出削減目標、BAU比削減目標等)に合わせて違うものとするべきと主張している。

このような透明性枠組みのあり方を巡る先進国、LMDC、AILACの間の意見の相違は、COP21以前にも見られた対立を彷彿とさせる。その根底には、誰がどのような義務・責任・負担を負うのかという「共通だが差異ある責任及び各国の能力」原則の解釈・適用を巡る異なる考え方がある。しかし、パリ協定が目指す今世紀後半までの脱炭素化(実質、排出ゼロ)は社会の大転換を否応がなくもたらす。そのような大転換が不可避であれば、負担や努力の分担という視点だけではなく、むしろ大転換の中でどのようにチャンスを掴み、便益を確保するのかといった発想が必要となる。冒頭、透明性枠組みの中で比較可能性がカギと述べたが、各国の取り組みについての透明性・比較可能性を高めるだけでなく、そうした取り組みによってもたらされる便益(例えば再生可能エネルギーの投資拡大による雇用の拡大や大気汚染の改善等)についても情報交換することにより、各国のより積極的な取り組みを引き出すことに貢献できる可能性がある。新たな発想に基づく、透明性枠組みの構築が期待される。

  • 透明性、正確性、網羅性、比較可能性、一貫性、環境十全性、二重計上の回避がNDCsのアカウンティング原則となっている。パリ協定4条13項、及び決定1/CP.21パラグラフ31。
  • パリ協定4条4項では、途上国も、国情に照らしつつ、今後、経済全体をカバーする排出削減・抑制目標に移行することが奨励されている。
  • 2016年6月23日のAPA非公式協議での中国代表団の発言。筆者メモ。
  • 2016年6月22日のAPA非公式協議でのインド代表団の発言。筆者メモ。

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