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Climate Updates

「2013年比26%削減」は本当に「国際的に遜色ない水準」か?

2015年6月22日

1. はじめに

2015年12月にフランス・パリで開催される国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)において2020年以降の国際枠組みに合意すべく、締約国は2015年のできるだけ早い時期に2020年以降の温室効果ガス(GHG)排出削減目標案(INDC)をUNFCCC事務局に提出するよう要請されている。EUや米国は3月末に削減目標を提出している(*1,*2)、 一方、日本はエネルギーミックスの議論が続いていたことから未だに提出していない。しかし、6月2日に開催された温暖化対策推進本部の会合において、削減目標案を「2030年に2013年比26%(2005年比25.4%)」とすることが了承され(*3)、6月7-8日にドイツ・エルマウにて開催されたG7サミットにおいて表明された(*4)。パブリックコメントを経て最終決定される段取りであるが、この数字がそのまま正式な目標として提出される公算が高い。

この会合の中で、日本の目標案は、「削減率やGDP当たり・1人当たりの排出量等を総合的に勘案すると、国際的にも遜色のない野心的な水準」とされているが(*5)、その根拠は曖昧である。本稿では、日本の削減目標案を米国およびEUのそれと条件を合わせて比較することにより、その野心度がどの観点から「国際的に遜色ない」ものかについて検討する。第2節では日米欧の削減目標(案)の定義の違いについて解説する。第3節では条件を揃えた上で、日米欧の削減目標(案)について、排出量ベースの主要な指標に基づき比較する。総GHG排出量だけでなく、一人当たりおよびGDP当たり排出量の削減率についても比較している。最後に第4節にて、日本の削減目標案がどの観点から「国際的にも遜色ない」のかについて結論を述べる。

2.日本、米国およびEUの削減目標:基準年も目標年も排出源のバウンダリーも異なる

日米欧の2020年以降のGHG排出削減目標の概要を表1に示す。日米欧の削減目標は、基準年や目標年が異なるだけでなく、排出・吸収源のバウンダリーすら異なることが分かる。土地利用、土地利用変化および林業(LULUCF)について、日本は京都議定書の運用ルールを定めたマラケシュ合意(*6)において特例的(*7)に高く認められた吸収量を踏襲し、2030年において2013年排出量の2.6% に相当する量の吸収を見込んでいる。またEUについては、2020年目標(1990年比20%削減)ではLULUCFを含まないが2030年目標ではLULUCFを含むとしており(注1)、両目標を単純に並べて比較することができなくなっている。

表1:日米欧の2020年以降のGHG排出削減目標の概要

国・地域 基準年 目標年 削減レベル LULUCF*の扱い
基準年 目標年
日本(案) 2013 2030 26% 除く 含む
米国 2005 2025 26-28% 含む 含む
EU 1990 2030 40% 含む(?) 含む

*土地利用、土地利用変化および林業

3.基準年、目標年、排出源のバウンダリーを揃えた場合の日米欧目標の比較

では、基準年、目標年ならびにLULUCFの扱い等の条件を揃えた場合、日米欧の目標はどの程度になるのか?ここではそれぞれの国・地域で採用している条件に他の国・地域も合わせた場合の排出削減レベルを試算した(注2)。米国については、削減目標幅の平均値である27%削減を採用した。

その試算結果を図1に示す。米国の条件に合わせた場合、日米欧の排出量は2025年に2005年比-9%、-27%、-24%となり、日本の排出量は米国やEUのそれよりはるかに見劣りする。EUの条件に合わせた場合、日米欧の排出量は2030年に1990年比-14%、-27%、-40%となり、またも日本の排出量は米国やEUのそれに比べ大きく見劣りする。さらに、日本の条件に合わせた場合、差こそ縮まるものの、日米欧の排出量は2030年に2013年比-26%、-39%、-28%となり、日本の目標案は依然としてEUの削減レベルを約2ポイント下回る。ただし、2013年を基準年とした場合、1990年から2013年までの日本の排出量の増加(日本:11%増、米国:6%増、EU:21%減)(注3)がある種の下駄となって、その効果から日本の削減率がEUのそれに近づいた点も指摘しておくべきであろう。また、米国の2030年時点での排出量見通しについては2020-2025年の削減速度が2030年まで維持されるか現時点では不透明であるが(*8)、2025年時点で既に2013年比-30%に到達することが見込まれることから、2030年における日本の目標案-28%よりは削減率が高いと評価される。

これら結果から、少なくとも米欧との総量ベースでの比較においては、日本の削減目標案が「国際的にも遜色ない」ものであるとは言えないことが示唆される。

図1:削減目標の定義を揃えた場合の日米欧における2020年以降の温室効果ガス排出削減目標

*26-28%削減幅の平均値を使用。 **2020年目標および2025年目標を結んだ直線上の値。

次に、日本の削減目標案について総GHG排出量でなく一人当たりの排出量やGDP当たりの排出量の観点から米欧と比較した。まず、一人当たりの排出量(注3)の実績値および排出削減目標に基づく見通しを図2に示す(注4)。2030年の日本の排出レベルは、EUよりは高いが米国よりは低く止まることが示唆される。日本は1994年頃にEUに抜かれて以降、一人当たり排出量で徐々に差を広げられており、2030年時点ではEUより3割以上排出量が多くなる見込みである。一方、日本の排出レベルは米国と比較すると依然半分程度と低く、今後は急速に追い上げられるものの、2030年時点でも米国の3分の2程度である。2013年比での削減レベルで見ると、日本とEUはそれぞれ2030年時点で2013年比-19%および-24%、米国は2025年時点では2013年比-26%となり、日本の削減率は一番低くなる。

図2:一人当たりGHG排出量(LULUCF除く)の実績値および将来見通し

*2020年目標および2025年目標を結んだ直線上の値。

GDP当たりGHG排出量(注3)の実績値および将来見通しを図3に示す(注5)。1990年時点での日本の排出レベルは欧米のそれよりはるかに低かった。その後、EUと米国は2013年までに排出レベルを1990年比で4割以上減少させたが、日本は1割程度の削減に止まっている。その結果、2013年時点では日欧がほぼ同レベルで並んでおり、米国は依然その1.5倍以上の排出レベルとなっている。2030年の日本の排出レベルは一人当たり排出量と同様に、EUよりは1割程度高いが米国よりは低く止まることが示唆され、「国際的に遜色ない」と言える(注6)。

図3:GDP当たりGHG排出量(LULUCF除く)の実績値および将来見通し

*2020年目標および2025年目標を結んだ直線上の値。

4.おわりに

本稿では日本の削減目標案について、米欧の目標と条件を揃えて比較することにより、どの点において「国際的にも遜色ない」ものかについて検討した。総排出量ベースでは、日米欧いずれの削減目標の定義を用いても日本の削減率は米欧より見劣りする結果が示された。しかし、一人当たり排出量やGDP当たり排出量で比較した場合、2030年における日本の排出レベルは、EUよりはやや高くなるものの、米国よりは依然としてかなり低く止まることが示唆された。

一方で、COP21に向けて各国が提出する2020年以降の削減目標を合計しても、産業革命以降の地球温暖化を2℃以内に抑えるために必要な削減量には足りない可能性が高く、日米欧を含む全ての国が野心度を絶えず引き上げていくことが求められる。日本については、5月にクライメート・アップデートにて取り上げた温暖化対策目標の「格付け機関」、Climate Action Trackerの分析によると、2030年に少なくとも1990年比26%以上の削減をしないと、衡平性の観点からも「不十分」の評価が下されるとのことである(*9)。また、筆者らが先日リリースした、排出削減シナリオの比較分析研究の結果からも、日本の削減目標は2℃目標達成に向けた貢献としては不十分だと結論づけられる。今年末のパリ合意およびそれ以降の国際交渉プロセスにおいては、日本が2030年削減目標を引き上げ、環境先進国としてのリーダーシップを再び発揮すること、そして第4次環境基本計画に記された2050年80%削減目標達成に向けた明確な道筋をつけることが期待される。

*本稿の執筆に当たり、有益なコメントを頂きました塚本直也氏、田村堅太郎氏、梅宮知佐氏に感謝の意を表します。

  • (注1)LULUCFの算定方法や、基準年排出量にLULUCFを含むかについては、UNFCCCへの提出文書では明らかにされていない。
  • (注2)EUの2030年目標については、基準年、目標年共にLULUCFを含むとした。2013年までの排出量実績は各国・地域のインベントリー報告書を参考にした(*10,11,12)。日本およびEUの2025年排出量見通しは2020年目標と2030年の目標を結んだ直線上に、また米国の2030年排出量見通しは2020年目標と2025年目標を結んだ直線上にそれぞれあると仮定した。LULUCF分野でのCO2吸収量見通しは、米国と日本についてはUNFCCC事務局提出の隔年報告書を(米国は高位見通しと低位見通しの平均値を採用)、EUについては欧州委員会のシナリオ分析報告書(*13)をそれぞれ参考にした。
  • (注3)いずれもLULUCFを除く。
  • (注4)人口の実績値(1990-2010年)および将来予測(2011-2030年、中位出生率ケース)は国連のWorld Population Prospects: The 2012 Revision(*14)を参考にした。
  • (注5)2012年までのGDP実績値はOECD National Accounts of OECD Countries(*15)を、2030年までのGDP成長率はIEAのWorld Energy Outlook (WEO) 2014(*16)を参考にした。
  • (注6)政府資料 では2030年時点でも日本の方がEUより排出レベルが低くとどまる見通しとなっているが、これは日本についてのみ削減目標案の前提となるGDP成長率目標(年平均1.7%)を使用しているからであり、本稿では米欧同様にIEA WEO 2014の想定(日本は年平均1.1%)に揃えていることから、排出レベルがEUに追い抜かれる結果となっている。
  • The United States, 2015. Intended Nationally Determined Contribution. (2015年6月4日)
  • EU, 2015. Intended Nationally Determined Contribution of the EU and its Member States. http://www4.unfccc.int/submissions/INDC/Published%20Documents/Latvia/1/LV-03-06-EU%20INDC.pdf(2015年6月4日)
  • 地球温暖化対策推進本部, 2015. 「資料1-2 日本の約束草案(政府原案)」. 地球温暖化対策推進本部第29回会合, 2015年6月2日. https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/kaisai/dai29/siryou1-2.pdf(2015年6月4日)
  • 外務省, 2015. 「G7エルマウ・サミット(概要)」, http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_001243.html(2015年6月9日)
  • 地球温暖化対策推進本部, 2015. 「資料1-1 日本の約束草案(要綱・政府原案)について」. 地球温暖化対策推進本部第29回会合, 2015年6月2日. https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/kaisai/dai29/siryou1-1.pdf(2015年6月4日)
  • UNFCCC, 2001. FCCC/CP/2001/13/Add.1 Report of the Conference of the Parties on its seventh session, held at Marrakesh from 29 October to 10 November 2001. Addendum. Part two: Action taken by the Conference of the Parties. Volume I.
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