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■気候変動に係る将来枠組みについての非公式対話をバンコクで開催
「エネルギー安全保障と2013年以降の気候変動枠組みに係る非公式対話」
2008年8月13日

財団法人地球環境戦略研究機関(IGES、神奈川県葉山町 理事長 浜中裕徳)は、2008年8月7-8日、タイ・バンコクにおいて、気候変動に係る将来枠組みについてアジアの途上国との議論を深めるため、「エネルギー安全保障と2013年以降の気候変動枠組みに係る非公式対話」を、アジア工科大学(AIT)(タイ)及び啓明大学校(韓国)と共催しました。本対話には、アジア諸国(日本、タイ、韓国、中国、フィリピン、インドネシア、インド、シンガポール)の政策担当者、産業界、有識者をはじめ、先進国(ドイツ、カナダ、オーストラリア、スウェーデン、オランダ、英国、米国)、国連開発計画(UNDP)や国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)といった国際機関の開発援助関係者等約70名が参加し、活発かつ率直な意見交換をしました。

この非公式対話はIGESが2005年度から実施しているもので*1、京都議定書後の気候変動に係る国際枠組みについてのアジアにおける議論を深め、将来枠組みの形成にアジアの視点を反映させようという取り組みです。前年と同様、本対話は2つの目標―(1)アジア太平洋における将来の気候変動対策についての革新的かつ建設的な考えを促進すること、(2)同地域の国々の懸念と開発に対する期待を十分反映した枠組みの構築に貢献することから成り立っています。

4年目となる本年度は、高まるエネルギー安全保障への懸念に対し、将来気候変動枠組みがどのように取り組めるのかについて、5つの視点―(1)エネルギー効率とエネルギー多様化、(2)将来枠組みにおけるセクター別アプローチ、(3)途上国における取組みを促進するための環境作り、(4)バイオエネルギー、(5)バリ行動計画―から議論をおこないました。なお、本対話は、「エネルギー安全保障と気候変動:課題、戦略、オプション」と題してIGESとAITが共催した国際会議の一環として実施しました。本対話の概要については、別添資料をご参照ください。

次回の非公式対話は、本年10月に京都で行ないます。これら一連の対話の結果を踏まえ、先進国とアジア途上国の双方の視点を反映しつつ、2009年の国連気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)までに合意が可能と思われる将来枠組みの選択肢を取りまとめます。その成果を、本年12月にポーランドで開催されるCOP14でのサイドイベントをはじめ、気候政策枠組みに係る議論の場で積極的に提示し、国際枠組みの交渉に反映させることを目指します。


*1 これまでの対話の成果は、報告書「Asian Perspectives on Climate Regime Beyond 2012: Concerns, Interests and Priorities(アジアから見た将来気候政策枠組み:懸念、関心、優先事項)」、報告書「Asian Aspirations for Climate Regime Beyond 2012(気候変動に関する将来枠組みへのアジアの期待)」、報告書「The Climate Regime Beyond 2012: Reconciling Asian Developmental Priorities and Global Climate Interests(2013年以降の気候変動枠組み:アジアの優先事項と地球規模の利益の調和)」としてまとめられました。

対話の概要につきましては、こちらをご参照ください。

【本件に関する問合せ先】
(財)地球環境戦略研究機関(IGES)
気候政策プロジェクト サブマネージャー 田村堅太郎

IGES 広報担当:城戸めぐみ
Email: iges@iges.or.jp
〒240-0115 神奈川県三浦郡葉山町上山口2108-11
Tel: 046-855-3734 / Fax: 046-855-3709



資料

「エネルギー安全保障と2013年以降の気候変動枠組みに係る非公式対話」概要

1. 開催概要

開催日時: 2008年8月7-8日
開催場所: バンコク・ソフィテルホテル (Sofitel Centara Grand Bangkok)
実施主体: (財)地球環境戦略研究機関(IGES)
タイ・アジア工科大学(Asian Institute of Technology: AIT)
韓国・啓明大学校 (Keimyung University)

2. 対話の概要

(1) 基調講演

ラム・シュレシュタ(Ram Shrestha)AIT教授より基調講演が行われた。同氏は、エネルギー安全保障の定義が途上国と先進国により異なる点について説明し、ほとんどのアジアの国々はエネルギー安全保障に非常に脆弱であり、開発パラダイムの抜本的変化がない限りアジアからの温室効果ガス(GHG)排出は増え続けると述べた。気候対策とエネルギー政策の整合を取ることが緊急の課題であると述べ、炭素税政策だけでは温室効果ガス排出に対し限定的な影響しかもたらさないであろうと主張した。


(2) オープニング・セッション
浜中裕徳IGES理事長より挨拶があり、その中で、2009年12月にコペンハーゲンで合意されることになっている次期気候変動枠組みのあり方は、アジアにおける持続可能な発展に多大なる影響を与えると述べた。また、全ての国が次期枠組みに対して自ら問題意識を持ち(sense of ownership)、エネルギー安全保障と気候変動問題に同時に貢献できるような積極的な行動をとることの重要性を指摘した。
アンチャ・スリニヴァサンIGES気候政策プロジェクト上席研究員/マネージャーは、過去3年にわたるIGES非公式対話の結果を要約し、2013年以降の気候変動枠組みに係るほとんどの提案がアジアにおけるエネルギー安全保障への懸念を十分に考慮したものではないと述べた。こうした懸念を無視することは次期枠組みの成功を脅かしかねないこと、国家及び自治体レベルのエネルギー計画に気候変動対策を織り込むための運営上のサポートが次期枠組みに必要となることを説明した。


(3)エネルギー効率とエネルギー多様化
将来の枠組みは、アジアの発展途上国におけるエネルギーアクセスの向上と気候安定化目標とを融合させるための戦略を促進し、天然資源の保有状況(例:インドの低品質炭)に応じた低炭素技術を適用できるように国家の能力を増強するものでなければならない。炭素回収・貯蓄技術(CCS)の普及に向けた資金メカニズムの設立及びユニラテラルCDMはエネルギー安全保障を気候変動枠組みに組み込むための有効な手段となりうる。
エネルギー効率化及び再生可能エネルギープロジェクトがより多くアジアで実施されるように、市場メカニズムは修正されなければならない。先進国の更なる排出量の削減をより明確に示すことが、エネルギー効率化及び再生可能エネルギーに関するユニラテラルCDMプロジェクトの促進に不可欠である。さらに、低炭素型でエネルギー供給が保証された社会をアジアで実現するためには、最終消費段階でのエネルギー効率化に係る障壁が取り除かれるべきであり、それには政策立案者の啓発、資金調達の条件を整えることが必要である。
現在の枠組みにおいては、エネルギー効率化・再生可能エネルギーに関する小規模プロジェクトを促進する市場ベースのアプローチは前進をみていない。ゆえに、こうしたプロジェクトの承認プロセスをさらに簡素化することが必要である。市場アプローチは環境インパクトよりも主にコストを制御するためのものであるゆえ、将来枠組みに十分な安全策を盛り込むことが不可欠である。エネルギー安全保障への取り組みが気候保護の目的に反しないように内部相互補助(分野をまたがる補助金制度)を再考するべきであり、市場の歪曲性も取り除かれるべきである。再生可能エネルギー利用割合基準(renewable portfolio standards)を新興途上国の民間セクターに拡大することも必要である。
高炭素(炭素効率の低い)生産手法への補助金を段階的に廃止するための革新的な財政オプションなど、エネルギー効率化及び再生可能エネルギー促進のための方策が将来枠組みの検討において必要である。カーボンファイナンス拡充に向けた改正と柔軟なCDM方法論の確立が必要不可欠である。
金銭的エネルギー効率(GDP当たりのエネルギー消費量)ではなく、物理的エネルギー効率(物理的アウトプット1単位あたりのエネルギー消費量)に基づいて各国のエネルギー効率を比較することが必要である。革新的な市場メカニズムによって、炭素価格を適度に高く設定することが必要である。


(4) セクター別アプローチ
本セッションでは、セクター別アプローチについてステークホルダー間で共通した理解・認識が得られていないことが議論の進展の妨げとなったが、セクター別アプローチに対する途上国のより効率的な参加を促すインセンティブや、本アプローチへの取組みに係る定量的かつ成果の報告・検証が可能な枠組みを構築することについての重要性が認識された。
セクター別の削減ポテンシャルを予測し、ボトムアップ式の算定方法を用いて国別の温室効果ガスの削減目標を策定するとした日本によるセクター別アプローチの提案については、多くの注目を集めた。一部の参加者からは、この手法は途上国への技術移転を促進するものとした意見があった一方、歴史的な排出の状況を考慮していないため、UNFCCC下で定められた“共通だが差異のある責任”の精神に反するとした意見も見受けられた。
クリーン開発と気候に係るアジア太平洋パートナーシップ(APP)等の協定との連携が、セクター別の技術導入の際に相乗効果を促すものとして紹介された。APPは京都議定書の代替ではなく補完する協定として位置づけられている。また、気候変動に係る現米国大統領候補の方針として、今後多国間での取組みを重視することが予想されることから、APPはUNFCCCへの補完的役割としての重要性を増していくものと思われる。
本セッションの参加者からは、近年プログラム型CDMが認められたにもかかわらず、既存の気候変動枠組みでは運輸セクターにおけるCDMの活用が不十分であるとの指摘があった。今後の制度設計においては、運輸セクター全体における排出量削減に係る合意を段階的に取り付ける必要性がある。
中国の鉄鋼セクターへのセクター別アプローチの応用に係る分析から、GHG集約度目標を定めたセクター別CDM及び技術ベースCDMが、絶対排出量目標を定めたCDM及び政策ベースのCDMよりも実施可能性があるとの見解が得られた。


(5)途上国における取組みを促進するための環境作り
現在、アジアの主要な新興途上国において気候変動に係る削減策及び適応策が実践され始めているが、未だ資金、技術、能力といった分野において障壁が存在している。将来枠組みの成功は、国レベル及び国際レベルにおいてこれらの障壁を乗り越えられるかによる。
参加者からは、将来枠組み内においては、国レベルでは開発できないカーボンニュートラル技術の開発、移転及び適用に資する技術基金の設立等のインセンティブを作り出すべきであるとした意見が出された。
将来枠組みでは、公的・民間の両部門による投資の増加、資金源の多様化に加え、モニタリング・報告制度・検証による効率的な資金の運用を可能とするメカニズムを策定すべきであるとした意見が出された。特に温室効果ガスの高排出強度セクターについては、再生可能エネルギー案件や低炭素及びカーボンニュートラル技術の導入手段として、国別或いは国際的な炭素税の導入も検討すべきであり、導入の際はエネルギー税との兼ね合いを考慮する必要がある。また、一部の参加者からは、域内のエネルギーやインフラに対する新たな投資は既存の温暖化対策と整合を図るべきであるとの意見が出された。
将来枠組みでは、域内・外のベスト・プラクティスや、新技術の情報共有を可能にする関連機関のネットワーク及びパートナーシップに基づいた能力開発を重視すべきである。アジアにおけるクリーンエネルギー問題に貢献する中小企業の規模拡大についても議論がなされた。
将来枠組みでは、知的財産権(IPR)により低炭素技術の移転が阻害されないような環境を作り出す必要がある。アジア各国は、どの段階でIPRが障害或いはインセンティブになるのかを把握する必要があり、将来枠組みでは技術移転の効率性を評価するための定量的手法の導入を検討すべきである。


(6)バイオエネルギー
バイオ燃料は、アジアにおけるエネルギー安全保障及び農村開発に必要であるが、これらバイオ燃料及びバイオエネルギーの持続可能な生産には課題が残っている。将来枠組みでは、食糧安全保障及び持続可能性が脅かされないプロジェクトのみを促進すべきであると同時に、様々な研究により生産が持続可能であるとされている第2世代のバイオ燃料生産に係る資金的・技術的なインセンティブを強化すべきである。
参加者からは、現時点においてバイオ燃料及びバイオマスを使用したエネルギー問題の解決策に係るCDM方法論の少なさについて指摘があった。将来枠組みにおける追加的な方法論の策定の重要性についての認識が得られた。
森林減少・劣化に由来する排出の削減(REDD)はバリ行動計画の主要な要素であり、参加者からは、REDDスキームは森林減少の程度により、アジア各国に多様な示唆を与えるものであるとの指摘がなされた。森林減少が主要な懸念事項ではない中国では、バイオ燃料生産への土地配分とREDDとの間で争いは見られなかったが、この種の対立は伐採された土地をバイオ燃料の生産に使用しているインドネシアで顕著に見られた。また、参加者からは、REDDに対する欧州の見解が将来枠組みにおけるCDM市場に大きな影響を与えるであろうという意見が出された。
参加者の一部からは、バイオ燃料の原料が食用農作物や林産物である場合は、燃料の生産・使用に伴う温室効果ガス排出量に係るライフサイクル・アセスメントを将来枠組みで義務付けるべきであるといった意見が出された。
参加者からは、バイオ燃料及びバイオエネルギーによる解決法は、収入の増加及びエネルギー供給により生活水準や対処能力を向上させることが可能であるため、農村コミュニティの気候変動への適応能力を間接的に向上させうるとの意見が出された。


(7)バリ行動計画
2013年以降の気候変動枠組みにおいて、オーストラリアは、先進国に対しては引き続き京都議定書と同様のトップダウン方式による目標の設定を、他方主要途上国に対しては排出削減のための自主的な約束を支持すると述べた。参加者からは、人口、人口増加率、国内総生産(GDP)のような一般的な指標によって、先進国間の削減目標や行動計画の比較が可能になるであろうとの意見が出された。
中国からの参加者は、セクター別アプローチに係るバリ行動計画の記載がボトムアップ方式の目標設定を支持しているかのような誤解を与えているとの懸念を表明し、セクター別アプローチはボトムアップによる目標設定のためではなく、技術移転を促進するためのものであると理解されるべきであるとの意見を述べた。
韓国の参加者は、国内の適切な緩和行動(NAMA)が2013年以降の枠組みにおいて重要な要素となると述べた。NAMAを途上国において実行するためには、市場メカニズムの大幅な改革及びインセンティブ(再生可能エネルギープロジェクトから発生した認証排出削減量(CER)に対する異なる乗率の設定など)が必要であると述べた。
インドネシアからの参加者は、先進国による更なる排出削減(2020年までに先進国において1990年比25%から40%の排出削減)を脚注のみで規定しているバリ行動計画の決定的な弱点について触れた。また、バリ行動計画においては、「先進国」と「途上国」という記載ではなく、これまでどおり附属書I国と非附属書I国という用語が用いられるべきであると述べた。
タイからの参加者は、バリ行動計画の長所は、長期的なグローバル目標を設定し、その目標達成に向けて全ての国が協力し合うことを謳っている点にあると述べた。また、バリ行動計画の主な欠点は、先進国から途上国への技術移転、資金供与、能力開発について具体的なメカニズムが確立できなかった点であるとした。

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