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第15回 [2010年11月]
明日香壽川 (気候変動グループ ディレクター)

第14回 [2010年8月]
マグナス・ベングソン (IGES持続可能な消費と生産グループ ディレクター)

第13回 [2010年2月]
小林正典 (IGESプログラム・マネージメント・オフィス コーディネーター)

第12回 [2009年9月]
幸田シャーミン (ジャーナリスト、IGES理事)

第11回 [2009年2月]
ピーター・キング(IGESバンコク事務所・主任アドバイザー)

第10回 [2008年11月]
ラジェンドラ・パチャウリ(TERI所長)、ラビンダー・マリク(TERI日本事務所)

第9回 [2008年8月]
小柳秀明(IGES北京事務所所長)

第8回 [2008年2月]
平石尹彦(IGES理事・上級コンサルタント)

第7回 [2007年7月]
浜中裕徳(IGES理事長)

第6回 [2007年3月]
片岡八束(IGES研究員)

第5回 [2006年7月]
アンチャ・スリニヴァサン(IGES上席研究員)

第4回 [2006年3月]
プジャ・ソーニー
(IGES研究員)

第3回 [2005年11月]
渡邉理絵(IGES研究員)

第2回 [2005年6月]
ムスタファ・カマル・ゲイ
(IGES研究員)

第1回 [2005年1月]
森島昭夫(IGES理事長)





E-alert Interviews 第14回 (August 2010)
秩序ある持続可能性への移行を目指して

マグナス ベングソン
持続可能な消費と生産グループ
ディレクター

スウェーデンのチャルマース工科大学にて博士号取得(環境システム分析)。同大学では、ライフサイクルアセスメント(LCA)、環境評価、ステークホルダー協議プロセス及び環境争点に関する方法論開発に取り組む。スウェーデンの環境NGO団体では、持続可能性に関する討論会や公共セミナーの企画等の啓蒙活動を行ってきた。また、JST博士研究員として東京大学にて水需要シナリオ分析や地球規模の水評価に焦点を当てた研究に従事。2007年4月よりIGESに勤務。



 

自然を身近に感じながら育った少年時代
---- 歴史、生産工学、環境システム分析など様々な分野の専門知識をお持ちですが、これまでの経歴や、なぜ環境問題に関わるようになったのかを教えて下さい。どのような出来事や体験がきっかけとなったのでしょうか?


ベングソン:
故郷のスウェーデンではいつも身近に自然があり、幼い頃から自然と深く関わり、親しみながら育ちました。1970年~80年代にはテレビや新聞で環境問題がよく取り上げられるようになり、私の出身地である西部沿岸地域が酸性雨の深刻な影響を最も受けた地域の1つであったことから、特に酸性雨に大きな関心を持つようになりました。また、祖父とよくサケやカニを捕りに行った入り江の近くに大きな木材パルプ工場が建設され、その結果、付近の生態系がすっかり変わってしまい、大半の魚がわずか数年で消滅してしまったことがありました。さらに、ある年の夏には、祖母とよくアンズタケを捕りに行っていた古いトウヒの森が伐採され、美しい緑のコケの絨毯が泥だらけの戦場のように変わってしまい、皆にとって大切な場所が突然破壊されてしまったように感じました。こうした人為的な環境破壊の影響を直接受けたことが、環境問題に感心を持つきっかけになったのだと思います。

しかし、大学では環境関連の学科は専攻せず、修士課程を修了する頃になって、環境に対する自分の思いを仕事に結び付けたいと思うようになりました。卒業後しばらくは環境NGOで働き、その後再び大学に戻って環境システム分析の博士号を取得しました。そして次第に、環境問題をより大局的な持続可能性の観点で捉えるようになりました。つまり、環境問題は技術的な対応で簡単に解決できるささいな欠陥ではなく、現代文明がもたらした結果であると考えたのです。


インフラ長寿命化への投資―アジアの持続可能な消費と生産に向けた重要な要因

---- 今年4月に発足したIGES持続可能な消費と生産(SCP)グループのディレクターに就任されましたが、現在の活動や今後の研究予定について教えて下さい。


ベングソン:
SCPグループは正式には発足したばかりですが、基本的にはIGES廃棄物・資源プロジェクトがこれまで3年間取り組んできたことを引き継いでおり、継続したプロジェクトも多くあります。人員や資金といったリソースが大幅に増えなければ、新たなテーマに取り組み、研究活動を急速に拡大することはできません。現在進行中の研究に、アジア太平洋地域の6ヵ国から研究パートナーが参加する3R(資源利用の最小化、製品の再利用、リサイクル)に関する政策研究プロジェクトがありますが、SCPグループではこの3ヵ年プロジェクトの調整役を務めています。このプロジェクトは2009年11月に発足した「アジア3R推進フォーラム」と連携しているため明確な研究ターゲットがあり、研究成果を政府関係者や主要ステークホルダーに直接発表する場も設けられています。

この「アジア3R推進フォーラム」での取り組みから派生し、アジア開発銀行(ADB)による支援の下で、3ヵ国を対象に建築部門におけるエネルギー効率化の推進・阻害要因を分析するプロジェクトを現在進めています。プロジェクトの目標は、高エネルギー効率の住宅建設を増やすために国・地域別の提言を策定することです。現在、長寿命インフラ建設に向けて大規模投資が行われていますが、これはアジアにおける持続可能な消費と生産を実現する上で不可欠な要素です。私はかなり前からこのテーマに注目していたので、ADBも同様の関心を持ち、研究プロジェクトを支援してくれることになりとても嬉しく思っています。
 


大胆かつ抜本的な経済の再構築が必要
---- 持続可能な消費と生産(SCP)は近年注目を集めているテーマですが、アジア太平洋地域においてSCPはどのような役割を果たせるでしょうか?


ベングソン:
 
第2回持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2010)
(2010年7月 横浜)
SCPは政策分野としてはまだ確立しておらず、特にアジアではそのコンセプトが十分理解されていません。資源効率やグリーン成長などへの関心は高まっていますが、これらの主な目的は経済成長であり、補足的に環境対策が取られているだけです。しかし、資源制約や生態系への高まる圧力、そして気候システムが温室効果ガスの増加にどこまで耐えられるのか、また同時に貧困撲滅や人口増加の問題にも緊急に対応しなければならないことを考慮すると、大胆で抜本的な経済の再構築が必要なのは明らかです。

私たちの目の前にある選択肢は、秩序ある持続可能性への移行を目指すのか、または、世界的な消費の削減へと追い込まれるまでただじっと待つのか、のどちらかです。秩序ある持続可能性への移行を実現するのは大変難しいことですが、後者の方がはるかに大きな痛みを伴うことは間違いありません。特に貧困層への打撃は大きく、社会対立や武力衝突の拡大、大量飢餓といった想像を絶する人的被害につながる恐れがあります。そのような恐ろしい未来を回避するために力を尽くすのが私たちの責務であり、SCPの究極の目標であると思います。

---- 「アジア太平洋」は経済発展の度合い、天然資源の豊かさ、価値観・ライフスタイルも大きく異なる多様性に富む地域です。この地域でSCPの地域協力を推進するためにはどのような課題があるでしょうか?

ベングソン:
持続可能な消費と生産に関するアジア太平洋ラウンドテーブル
(2010年6月 スリランカ・コロンボ)
「持続不可能な消費」には2つの側面があります。1つは富裕層による資源の過剰消費が資源の枯渇や環境劣化を招くこと、もう1つは貧困層による過少消費です。いずれの消費パターンも持続不可能ですが、アジア太平洋地域では両方の傾向が見受けられ、同じ国または同じ都市の中で起きているケースもあります。国際会議では先進国がSCPへの移行に主導的役割を果たすべきと繰り返し指摘されてきましたが、具体的にどのようなリーダーシップが求められているのかははっきりとしていません。世界で数少ない豊かな国に住む私たちは、どうすればSCPの世界的な実現に最大限貢献できるのか?日本に拠点を置く地域シンクタンクとして、IGESはこの問いをSCP研究の足がかりにできると思います。

先進国では、企業が利益を上げて大量失業が生まれないように、消費者にもっとモノを買うよう促す経済システムが作りあげられてきました。本当にそれらのモノが必要なのか、それが福祉・幸福の向上に役立っているのかということはほとんど考慮されてきませんでした。また、消費の増加が環境へ及ぼす影響についてもあまり注意が払われていません。ある意味、環境保護や人類の長期的な繁栄よりも、経済システムの存続が優先されているのです。社会の破滅をももたらす世界的な生態系の崩壊を回避するには、途上国が先進国と同じような成長依存型の経済に陥らないための方策を見つけることが不可欠です。



これまでの文化的価値観にも疑問を呈す
---- IGESは先般、SCPに焦点を当てたIGES白書III「アジア太平洋における持続可能な消費と生産:資源制約を乗り越えてアジアは豊かさを実現できるか」を発表しました。この白書に込められた最も大切なメッセージ(または最もユニークな点)は何でしょうか?


ベングソン:
IGES白書III
「アジア太平洋における持続可能な消費と生産:資源制約を乗り越えてアジアは豊かさを実現できるか」
>> ダウンロード
白書にはSCPに向けたアジェンダが多様かつ綿密に描かれています。IGESの全研究部門が同白書の作成に関わったことで、多くの研究員がSCPへの理解をさらに深めることができたと思います。これまで特にSCPの観点を研究に取り入れてこなかった一部の研究者にとって、白書は新たな経験となりました。SCPグループにとっても、他の研究部門との連携が容易となり、IGES全体でSCPへの意識向上を図ることにより研究部門間の連携という礎を築くことができました。

白書の大きなテーマの1つは「消費者の役割」ですが、これまでの政策は、持続可能な消費を促そうとする余り、個人や消費者として何ができるか(または何をすべきか)という点に焦点を当ててきました。「消費者が独立した立場で合理的計算に基づいて消費決定を行う」という考え方は、個人の自由という観点からも魅力的だと思います。しかし、消費者に責任ある購買行動を取るよう求めることは、強力な流れに逆らいながら大河を泳げと言っているようなものです。消費は単なる個人行動の結果や消費者の好みの現れではなく、文化的・社会的風潮にも大きく左右されているからです。私たちの文化では、消費レベルが高まるのは好ましいことと考えられています。このような文化的価値観に疑問を呈し、「より良い生活」へのイメージを改めない限り、SCPの移行に向けた取り組みが大きな成果を生むことはないでしょう。




コミュニケーションスキルを磨くことが大切
---- 若手研究者や環境政策に係わる学生にとって、どのような経験や姿勢が重要と思いますか?


ベングソン:
これまで学生たちは、世界はきれいに区分けされているものと学んできたと思います。しかし実際はそうではありません。現実の世界では、様々な因果関係やフィードバック・ループ(フィードバックを繰り返すこと)が複雑に絡み合っているのです。高等教育では多くの分析ツールを使うための基礎的スキルを習得できますが、現実の複雑な状況でそれらの分析ツールを組み合わせて使う方法は教えてくれません。教授や仲間と環境問題やその解決策について議論することで得られるのは基礎知識です。環境問題や持続可能な開発をより総合的に理解するには、実際の環境プロジェクトに参加し、様々なステークホルダーと深く議論することが重要であると思います。

現行の教育システムはコミュニケーション能力の育成に優れているとは言えません。これは懸念すべきことです。というのも、環境保護活動は他者に影響を与えることだからです。従って、環境政策の分野を目指している学生はコミュニケーションスキルを磨く必要があります。多様な意見に丁寧に耳を傾け、それぞれの主張を理解するだけでなく、自らが説得力のある議論を展開できなければなりません。分析や数学的モデリングに専念する学生も同様で、広範な読者に向けて効果的な論文を書き、分かりやすく説明する必要があるからです。多くの研究者、特に自然科学者やエンジニアたちは、質の高い研究を行えばそれに基づいて適切な決定が下され、持続可能な成果がもたらされるだろうと単純に考える傾向にあります。しかし、環境保護や持続可能な開発には人間的な側面が大きく影響するのです。若手研究者や学生は、その点を認識し、技術面だけでなく、複雑な社会問題にも対処できる術を身につけるよう心掛けるべきでしょう。

---- ありがとうございました。



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