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E-alert Interviews 第9回 (August 2008)
オリンピックを迎える中国の今:
日中環境協力の架け橋を目指して


小柳秀明
IGES北京事務所所長

1977年環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事。1997年にJICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣され、2000年には中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。2001年日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任。2003年にJICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。2004年、JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。2006年4月より財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長。同年7月から現職。

「第4回東京‐北京フォーラム」の分科会・環境対話「地球温暖化への対応と日中の環境協力」(2008年9月16日)にパネリストとして出席予定。
詳細:第4回東京‐北京フォーラム公式サイト


インタビュー[前編]実施日:2008年7月8日
≫後編はこちら


オリンピックに向けた中国の環境改善への取り組み

----北京市は、環境に配慮した「グリーンオリンピック」を目指し、具体的な20項目の環境目標を打ち立てて取り組んでいると伺いました。

小柳:

北京は2000年のオリンピック開催地に立候補し、シドニーに敗れましたが、敗因の一つに、北京の環境問題への懸念も含まれていたようです。そのため、2008年オリンピック開催地への立候補に向けて、1998年頃から北京市は環境対策に力を入れ始めました。開催申請にあたっては環境に配慮した「グリーンオリンピック」を約束し、20の「環境目標」を打ち上げ、オリンピック開催までの10年間で、環境対策のために122億ドルを投入したそうです。


----その環境対策の効果は、具体的に現れているのでしょうか?

小柳:
北京市のオリンピック環境対策

(1)北京へ導入する天然ガスパイプラインの完成
(2)石炭燃焼ボイラーの改良
(3)地域暖房の普及
(4)交通インフラの改善と新しい主要道路の建設
(5)公共交通システムの改善とクリーン燃料の使用
(6)自動車排出ガス規制の強化
(7)工事中の粉塵発生防止対策などの改善
(8)飲用水源ダムの保護と水質改善
(9)運河の水質改善と水量増加
(10)節水農業の発展、農業由来の粉塵発生を減少
(11)下水道の整備
(12)有害廃棄物処理の強化
(13)都市ごみ無害化工場の建設
(14)汚染のひどい工場の閉鎖
(15)工場の移転
(16)緑化率を40%以上にする
(17)グリーンベルトの建設など
(18)自然保護区の保護と強化
(19)オゾン層破壊物質の削減
(20)オリンピック会場施設の環境配慮

中国の主要エネルギー源は石炭ですが、この公約を実現するため、北京市ではエネルギー源のほぼすべてを天然ガスなどのクリーンエネルギーに替えました。北京から1,000km以上離れた陝西省から天然ガスのパイプラインを引いてきて、道路の下に敷設しているんです。また、民生用だけではなく、市内の主な産業用ボイラー(約16,300台)の90%以上が天然ガスなどのクリーンエネルギーに替わりました。これによって、大気汚染の大きな原因となっていた石炭燃焼による二酸化硫黄や粒子状物質が削減されたわけです。

それから、市内の大きな工場は市外に移転し、交通対策として環状道路を整備したり、地下鉄もどんどん増やしていますね。このように多角的な環境対策をとることで、全体的な環境を良くしていこうとしているわけです。

オリンピックで一番気になる環境問題 -大気汚染-

小柳:
大気汚染は一番身近で敏感に感じる環境問題ですが、中国では、大気汚染の程度を1から500までの大気汚染指数で指標化し、「優」「良」「重度」といったわかりやすい表示に再分類し、結果と予報を一般向けに公開しています。10年前と今の北京市内の大気の状態を比べてみると、10年前は「優」「良」(汚染度が低く良好な状態)の日は年間100日しかありませんでしたが、2007年には246日にまで増えました。当時に比べると2.5倍ぐらいですね。データの信憑性も議論されていますが、それにしても随分良くなってきているわけです。

それでも、年間の100日以上はまだ満足できない日がありますから、オリンピック期間の16日間がどうなるかは正直言ってわかりません。たまたま天気も空気も良い状態になるかどうかは賭けですね。それと、夏場は光化学オキシダントが最も発生しやすい季節ですが、これは運動選手に最も大きな影響を与えます。中国では光化学オキシダントは正式にモニタリングされていないのですが、北京市も内心気にしているようです。

北京オリンピック会場「鳥の巣」の前で
北京市及び周辺都市では、光化学オキシダントの原因物質である炭化水素類の排出削減に向けて、排出源の一つであるガソリンスタンドの改造を大々的に行い、6月にはほぼ全ての改良工事が完了しました。また、自動車の排ガスも、オキシダントや粒子状物質による大気汚染の原因となりますが、7月1日からオリンピックに向けた特別交通規制がスタートしました。2段階の措置がとられ、第1段階(7月1日~9月20日)では、環境対策が十分にとられていない車両(「黄色ラベル車」と呼ばれています)の市内走行が禁止され、また第2段階として、7月20日から9月20日までは、ナンバープレートによる規制を実施し、偶数日は偶数番号、奇数日は奇数番号の車のみが市内を走行できます。その他、大型車の走行制限、市外からの車の走行制限も行われています。非常強硬手段とも言える強権発動ですね。市民生活に与える影響は大きいと思います。

北京市の環境対策は60点。

---- 北京市のオリンピックに向けた環境対策に点数を付けるとしたら、何点ですか?

小柳:
100点満点で80点ぐらいはあげたいと思っていましたが、実際のところ60~70点ですね。最後に工場や土木工事の一時停止や、強硬交通規制に頼らざるを得なくなったところが中国らしい。こういう措置だったら、どんなに大気汚染がひどいところでも対応可能ですからね。しかし持続可能な措置ではありません。オリンピックが終わったらまたひどくなる(笑)。


---- 小柳さんが中国の環境問題に関わるようになったきっかけを教えてください。

「来月からすぐにでも中国に行きます」


小柳:
1977年以来、私は環境庁(当時)の職員として働いていましたが、1997年春に、JICAの専門家として中国へ赴任しないかという話をいただきました。それまで中国へは行ったこともなかったのですが、一晩寝て決めてしまい、1997年9月から赴任しました。 その時の返事が、「来月からすぐにでも中国に行きます」。このエピソードは人民日報にも紹介されました。

中国という国は、苦手になるか、のめり込むかの二通りに分かれると思うのですが、どういうわけか、私の場合は人生のさいころの振り加減で、そのまま居つくほうに出てしまいました(笑)。

最初の3年半は、JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズⅡのシニアアドバイザーを務めました。プロジェクト終了に伴い、一旦環境省に戻りましたが、2003年から再びJICAの専門家として中国に赴任しました。故橋本総理が提案した「21世紀に向けた日中環境協力構想」の中に、三つの都市の大気環境の改善を中心に行う「環境モデル都市構想の推進」という協力事業があり、その技術協力の専門家として派遣されたのですが、この仕事は本当に大変でした。

2度目の挑戦


小柳:
1997年に赴任した際は、5人から7人の日本人専門家がいる大きなプロジェクトで、中国側に日本語の話せるカウンターパートもいましたし、北京という恵まれた環境の中での仕事でした。しかし、2度目の派遣は個別派遣専門家としての挑戦であり、全く足場のない無いところから、何から着手すればよいのか悩みながらのスタートでした。大きなプロジェクトと違い、個別専門家は予算が少ないため、地方に赴いて仕事を立ち上げるにも、通訳も雇えず、コミュニケーションではかなり苦労しました。胃の痛み止めの注射を打ちながら仕事をしたこともありましたが、そんな中で、少しずつ人間関係・信頼関係を作っていきました。中国での人のつながりの大切さを実感しました。

 その後、それまでの仕事を抱えたまま、日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズⅢのリーダーに異動しました。業務量も増え、当時は地方へ年間30回以上出張していました。1回の出張を4日間として、120日間は中国の国内出張をしていたことになります。


---- その後、2006年の4月からIGESに赴任されましたが・・・。

小柳:
IGES北京事務所開設を記念し日中友好環境保全センター所長と
日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズⅢが2006年3月に終了しましたが、せっかくここまで中国との縁を持ったので、関連する仕事がしたいと考えていました。

ちょうどその頃、日本政府と中国政府間の大規模なCDM事業協力の可能性が模索されていました。IGESが間に入っていたのですが、この政府間協力事業には、中国側と交渉し、舵取りができる専門家が必要とされていたこともあり、私がその役を務めることになりました。

当時はまだIGES北京事務所はありませんでしたが、今後中国との協力を強化していく上で拠点が必要と考え、日中友好環境保全センター内に北京事務所(日中協力プロジェクトオフィス)を設置することとしました。

---- 今取り組んでいる事業について教えてください。

小柳:
あれもこれもと手を拡げて、色々な活動に首を突っ込んでいますが、上述のCDM事業協力の他、今重点的に取り組んでいる事業は水環境分野の協力です。


これからは水環境問題への取り組みが重要
小柳:
廃水処理場予定地にて。のどかな中国農村地域の風景だが、この河川も生活排水でひどく汚染されている。
そもそも、飲料水の保全問題をはじめ、水環境分野への協力は非常に重要なのですが、ODA(「対中国経済協力計画」)では、地球規模の環境問題、及び日本にも影響のある問題を優先的に対象とすることとされています。水問題は、基本的に中国国内の特定地域での問題なので、地球規模の問題にもなりにくいし、日本への直接的な影響もないということで、協力の優先順位は高くなかったのですが、私は以前からずっと水環境分野における協力は重要だと認識していました。そういう想いもあり、機会有るごとに、官邸を含め様々な関係方面に向け、水環境分野の協力に関するニーズ・重要性を積極的に流しました。

その効果があったかどうかはわかりませんが、去月4月に温家宝総理が来日した際に、環境保護協力強化に関する共同声明が出され、その筆頭に水分野の協力が挙げられました。この協力は、その後1年かけて具体化され、今年の5月に胡錦涛主席が来日した際に同意された、「中国の農村地域等における分散型排水処理の共同実施の覚書」にまで発展しました。最終的に、中国の水環境問題における日中協力は、首脳レベルで合意されるに至ったわけです。

この協力事業は現在、IGESが日本側実施機関の中心として動いています。その任務の重さを考えると重圧ではありますが、成功するも失敗するもIGES次第と思うと力が入りますし、意義も感じます。


---- IGES北京事務所の今後の活動についてお聞かせ下さい。

小柳:
今後も、CDMや水分野での調査・研究協力を実施するほか、循環型社会づくりや温暖化対策、環境汚染対策、コベネフィット協力といった様々な日中の環境分野の協力に参加し、アドバイスを行う活動にも力を入れていきます。日中環境協力が共通の方向を向いていくように調整・誘導する役割は非常に重要だと認識しています。

IGES北京事務所が出来て2年あまりしか経っていませんが、短期間に随分多くの人(日中双方)に知られるようになったと思います。

人とのつながり - 日中環境協力のフォーカルポイント

---- これまで中国で取り組まれてきた環境問題分野も多岐にわたりますよね。

小柳:
そうですね。大気、水、廃棄物のほか、今は温暖化もやっています。自然保護以外の分野はこれまで大体関わってきました。でも今は日中環境協力の便利屋さんですね(笑)。

私は、中国との協力に携わったこの11年の間に、JICA、環境省、JICA、IGESと所属が変わってきているので、実は中国の人から見ると、私がどの組織の人だかよく分からないようです。でも、中国では、組織というよりも人とのつながりが大事ですし、私はずっと日中の環境協力に取り組んで来ていますから、どこに所属していても本当のところ、やっていることにあまり大きな変化はありません。何かあった時にはまず、「シャオリュー(小柳)に相談してみよう」と話が来るのはありがたいし嬉しいですね。相談してもらうことによって情報も得られますし、新しい動きも分かる、と同時に情報発信する場ともなります。それはIGESにとってもメリットですから。


---- 今後のIGESへの期待をお聞かせ下さい。

小柳:
IGESは、政策研究を行う機関ですが、研究を行うと同時に、それを実現するためのプロセスにも自ら入り込んでいくことが大切です。人に発信し、話を聞いてもらう上で、アウトリーチ活動も重要です。IGESならではの付加価値を持った情報発信を行っていくことで、その評価も高まります。今の世の中の変化はすごく早い。スピード感を持って対応していかなければなりません。どんなに良い提言を行おうとも、発信のタイミングが遅れてしまったら価値も下がってしまいます。先見性を持って政策動向を見据え、その都度実情にあった提言を発信していくことが必要と考えています。

---- ありがとうございました。謝謝。


小柳:
不客気(どういたしまして)。



Resources

- 日経エコロミーコラム 「環境問題のデパート・中国の素顔」(隔週月曜連載)
- EICネットライブラリ シリーズ「中国発」
- 人民日報社 人民網日本語版 2006年7月25日「環境専門家・小柳秀明氏に聞く」


インタビュアー:矢島恵、山口さえ (情報発信・アウトリーチプログラム)


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