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E-alert Interviews 第6回 (March 2007)
アジアの水資源管理:
ローカルな活動が普遍的な提言につながる


片岡 八束
IGES淡水資源管理プロジェクト研究員

神戸大学大学院国際協力研究科修了(法学修士)。財団法人地球環境センター勤務を経て、2001年より現職。前職では開発途上国の環境担当行政官への技術研修や排水処理のケーススタディなど、主にアジア地域における環境技術協力に携わる。主な研究テーマは国際環境法の立法過程と水資源管理。


--- なぜ環境や持続可能な開発に携わる研究者になったのですか?

片岡:
私の場合は、初めから環境問題に関心があったというわけではありませんでした。初めての就職先が自治体の環境保全の経験などをもとに国際協力に取り組んでいる地球環境センター(GEC)で、そこで過去の日本の環境問題の経験を学んだり、途上国向けの研修などを行う中で、開発や環境に興味を持つようになりました。毎年10数カ国20~30人程海外から研修生を受入れるのですが、各国の事情、経済や社会、また各個人の業務などの違いによって、環境問題に対する考え方も取り組み方も違うところも見えてきて、そうしたところへの興味も培われました。

また修士課程では、気候変動に関する締約国会議(COP)の組織的な側面に注目し、国際環境法の立法過程について研究しました。そこで、気候変動に拘らず、もっと広い視野を持って国際的な環境問題に取り組みたいと思い、2001年にIGESの長期展望・政策統合(LTP)プロジェクトに入りました。

持続可能な開発に対する様々な考え方や国際的な潮流などに触れていたい
片岡:
2004年には、淡水資源管理プロジェクトの立ち上げに関わり、現在、同プロジェクトで地下水に関する研究を行うとともに、分野横断的な研究プロジェクトとしてアジア太平洋環境開発フォーラム(APFED)にも関わっています。

APFEDメンバーはアジア太平洋地域の有識者で構成されていますが、環境問題だけではなく、様々な側面から、国際的なアジェンダを踏まえながら議論が交わされます。そこに関わることによって、自分でもマクロ的な視野やセンスを磨くことができます。もちろん、ひとつの分野に特化する研究は非常に重要かつ必要ですが、同時に、持続可能な開発に対する様々な考え方や国際的な潮流などに触れていたいと思います。そうした点で、水問題だけに特化せずにAPFEDの活動にも関わっていることは、研究者としてもメリットがあると感じています。



2006年3月に出したポリシー・ブリーフでは、地下水問題を取り上げました。アジア各都市のケーススタディを基に、産業セクターにおける水利用の合理化に向け、節水活動奨励のための減税や排水処理への課税などの経済的手段の導入を提言しています。


--- 現在は水問題についてどのような問題意識を持って取り組んでいますか?

片岡:
水問題は、色々な側面から捉えられる問題ですが、総合的に捉えてしまうと今度は点が見えなくなってしまいます。たとえば工業用水の問題ばかり見ていると、全体の取水バランスが崩れ、取水バランスにとらわれすぎると、個々の問題が見えなくなってしまう。全体を見なければならないけれど、個々の問題を良く理解しないと全体の話ができないところもあって、そこに水問題に関する研究の面白さがあります。

今は水の中でも特に地下水に取り組んでいます。国際的には河川などの表流水がハイライトされがちですが、実際には地下水もまだまだ多く使われています。地下水は基本的に水質・温度も安定していて、取水コストも低く、水の中でも非常に使いやすい資源です。例えば、地下水の過剰摂取で地盤沈下などの問題が起こっている地域の水確保を検討するときに、この使いやすい地下水資源の性質を一番生かせる方法で、かつ社会のニーズを満たすような分配はどうしたらよいのかを考慮し、バランスを取りながら検討するところなど、やりがいのある課題だと思います。

「優良事例」を見せることで、現在同じ問題を抱えている国や、今後問題になる国が対策を立てる際に役立ててもらえれば
片岡:
我々が今研究対象としているバンコクや天津では、日本の東京や大阪と同じような成長過程や地下水利用の道を通ってきています。人口が増え、産業・経済が発展していく中で、地下水の取水量が多くなり、地盤沈下といった問題が生じます。そこで、地下水の使用を抑えようとしますが、日本の都市や天津は、他の水資源からの供給を確保しつつ、厳しい取水量の規制することで、地下水の過剰くみ上げによる問題を緩和してきましたが、バンコクの場合は、水需要の急激な伸びに加え、インフラ整備などが追いつかず代替水源からの水供給が思うように進まず、なかなか地下水揚水規制の効果が上がりませんでした。ここ数年の間に、水道からの水供給が確保されるとともに、地下水の使用料金を徐々に高く設定することで、バンコクでも地下水使用量が減ってきました。当たり前のことですが、それぞれの社会が持つ固有の事情で、政策の効果もかなり違ってくるわけです。

こうした各国の例を比較して、どのような状況でどのような政策が効果があったか、どのような限界があるのかなど、具体的な事例を見せることで、現在同じ問題を抱えている国や、今後問題になる国が対策を立てる際に役立ててもらえればいいなと思っています。

APFEDショーケースプログラム

アジア太平洋環境開発フォーラム(APFED)支援業務の一環として、ショーケースプロジェクト「APFEDショーケース・プログラム」を本年度より開始しました。このプログラムは、アジア太平洋地域の持続可能な開発の実現を目指すプロジェクトについて、その革新的なアイディアなどに対して最大3万ドルの資金を供与し、支援するものです。このプログラムで得られた事例は、APFEDデータベースを通じ、一般にも公開される予定です。
片岡:
すでに今年の募集は締切り、全部で106件もの応募が集まりました。様々なプロポーザルに目を通す過程で、アジアでは多岐にわたる問題意識やそれに対する取組みがあるのだなとあらためて感じているところです。この中から、今年は13件の案件がショーケースプロジェクトとして選定され、今後、実施されることになります。単に実施をするだけでなく、そこから得られた経験や知見を上手く活用できるような形にしていくことで、このプログラムが、広く役立つようになればいいと思っています。この取り組みは来年度も実施されます。


---- 水問題についてアジアとしての共通点について研究を通じて何か感じますか?

片岡:
アジア全体で水問題が深刻であると言われていますが、水の何が問題かで様相は異なります。例えば南アジアのように賦存量が少ない地域もあれば、東南アジアでは賦存量はあったとしても、雨季にたくさん降って乾季には干上がるため、季節変動にどう対応していくかということが大きな課題となります。一方、広大な国土の中国では、川があるところとないところ、雨が降るところ降らないところとで、同じ国内でも直面している水問題が全く異なります。また、地域の利水状況によっても水の使い方が大きく変わってきます。このように、一概にアジアの水問題を語ることはできませんし、研究もその対象によって様相がかなり違ってきます。

アジア全体で見ると、今のところ、やはり乾燥地帯の水問題をどうするのかということが焦点になっているとは思います。例えば、インドや中国など、農業地帯で乾燥しているところでは、地下水を引き上げすぎてもう使えず、塩害が起こったりしているところもあります。ただ、政策的には、水があるのに水が足りないといったアジアモンスーン的な問題への対応も大きな課題のひとつだと感じています。

アジア独特の利用形態…近代的で組織的なものを無理に当てはめようとしてもできないことも
片岡:
特に東南アジアのモンスーン地域などは、農業国で、水に親しんでいる文化があり、また、季節パターンも似通っていることから、研究者としてではなくあくまで日本人としてですが、やはり共通点を感じます。そのような環境の中で培われてきた水利用形態にも共通のものがあります。水利(水利用の権利)にしても、独特のものがあり、そこに近代的で組織的なものを無理に当てはめようとしてもできないということも結構ありますね。アジア地域の中で、伝統的な利用形態や組織をシェアし、お互い学びあって少しずつ改善していくことが重要だと感じています。


--- 研究をしてきて、楽しいと思えるのはどんなときですか?

片岡:
2006年11月 ベトナムでの研究ミーティングにて発表を行う片岡研究員
研究者だけでなく産業界、行政担当者など様々な関係者と対話をすること、そして、その対話を通じて新たな解決策を見出していくことは、研究の醍醐味のひとつだと思います。

特に水に関する研究では、まず自分の足元を知ること-私の場合は日本が経験してきたことについて、じっくり勉強すること-が大事であるという点を学びました。もちろん、日本の経験はそのままでは他国で役に立つものではなりませんが、そうした知識をベースに他の地域に対して意見を投げかけるということが重要だと思っています。

各国間では、当然ながら社会システムや、文化、地理条件、気候条件などことごとく異なります。そうした中で、お互いの方策のどこが違うのか、あるいは共通なのかを探っていく過程はたいへん面白いものです。

例えば、中国と日本とではスケール感が異なります。日本では、県をまたがる長大な取水計画であっても、中国ではむしろたいしたことはない事業と捉えられることもあります。あるいは、発想そのものが違うこともあります。そうした意見交換を通じて、お互いにブレークスルーが得られることがあるわけです。

ローカルな活動があってこそ、普遍的な提言につながる
片岡:
ケーススタディはあまり役に立たないとも言われますが、単に事例を提示したり、上澄みをすくいとるのではなく、議論を活性化するためのベースとしての重要な役割があると感じています。また、ケーススタディでは、その土地に適した解決策を作って渡すことがゴールではなく、その研究過程で解決策を一般化していくことが大切です。

そうした意味で、ローカルな活動があってこそ、普遍的な提言につながるものだと感じています。ローカルな解決策を立案することはある意味簡単ですが、個々の問題を超え、全体的なレベルでの提言としていかに普遍化するのか、というところが難しいといえるでしょう。

汚かったものが努力によってきれいになっていくことを体感したことが研究の原点に
片岡:
思い返してみれば、かつて公害で名高かった大阪周辺で幼少時代を過ごし、公害を体感したことが思った以上に自分に影響を与えているかもしれません。光化学スモッグや汚れた河川からの悪臭など日常生活で公害を体験しましたが、公害対策が進むにつれ、空気はだんだんときれいになり、川がきれいになっていくという過程をはからずも見て育ちました。また、仕事を始めてからは、まだまだ問題はあるとはいえ、東南アジアの環境が改善されたり、人々の環境保全への意識が高まっていくのを目の当たりにしてきました。このように培われた「やればできる」というポジティブな考えが研究の原動力になっているような気がします。

今の日本の子供たちは日本が公害で苦しんでいた時代を知りません。したがって、汚かったものがきれいになっていくというプロセスを見ていないことが少し残念です。

確かに地球全体では環境は悪い方向に向かっており、環境問題に対して何をやってももう無理という風潮もあります。しかしながら一方で、努力や工夫したところは確実に変わっているのです。そうした努力や工夫を広め、よくしていこうという意志を持つことが大切だと感じています。研究は悪い面のみをフォーカスしがちですが、両面を見ていく必要があり、また私たち研究者にはそれを世の中に伝えていく使命もあると思っています。

---- どうもありがとうございました。




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