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渡邉理絵(IGES研究員)

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ムスタファ・カマル・ゲイ
(IGES研究員)

第1回 [2005年1月]
森島昭夫(IGES理事長)





  E-alert Interviews  第5回
気候変動への適応:先進国と途上国の協調を目指して


アンチャ スリニヴァサン
気候政策プロジェクト 上席研究員・プロジェクトリーダー代行





[略歴]

英国ケンブリッジ大学博士課程修了(自然科学)。これまで国連大学佐藤栄作賞やインド政府首相感謝状など、農業学及び環境の分野で多くの受賞歴があり、「Who's Who in the World」や「Who's Who in Science and Engineering」等にも登録されている。またUNEP発行の「Global Environmental Outlook」分担執筆や、地球環境ファシリティー(GEF)や国連ミレニアム生態系アセスメント等の国際的取組みに専門家として貢献している。



--- これまでの研究経歴についてお聞かせください

アンチャ:
私は、インドのアンドラ・プラデシュ州にある海沿いの小さな村に生まれました。実家が農家だったので、自然と農業に深い関心をいだくようになりました。農業学の学部課程終了後は大学院で農業経営学を専攻し、耕作方法、技術利用、気候との相関関係(農業気象学など)、副専攻として農業統計学を学びました。その後、博士号を目指してケンブリッジ大学に入学し、モデリングによる作物と気候との相関関係の研究に取り組みました。私の研究目標は、気温や光量などの外的要因と、炭素同化量などの内的要因の変化による作物の反応の変化をナタネを使って観察し、その反応をモデリングする最適な方法を探ることでした。私たちは栽培箱を使って、気温や光量の変化によって作物が示す反応を観察し、その一次データをもとに、さまざまな環境条件をコンピュータで作り出すモデリング技術の開発に成功しました。

博士号を取得後、インドの国際半乾燥地熱帯作物研究所(ICRISAT)の研究プロジェクトに参加しました。ここでも気候と作物、主にマメ科作物の相関関係を調べました。私の専門は特にヒヨコマメの耐寒性に関する研究でしたが、北インドでは、低温ストレスによる農作物の収穫量の減少が大きな問題であり、またこの問題は、インドの他にバングラデシュ、パキスタン、ミャンマー、またスーダンやエチオピアなどの高地国でも生じていました。私はやがて、そうした広範な地域でマメ科作物を栽培するためには戦略的調査が必要だと考えるようになり、その調査の延長で来日しました。

--- 日本への移住を決めた理由は何でしょうか?

アンチャ:
image: Dr. Ancha
ケンブリッジ大学で博士号を目指して研究生活を送っていたころ、日本人の客員教授に招待されたのがきっかけです。ICRISATでの勤務を終えて来日し、農林水産省関連の仕事をしました。最初は札幌、その次は沖縄に赴任し、また札幌に戻りました。当時の主要な研究テーマは、マメ科作物の生殖生長に対する気温の影響で、たとえば気温が2度上昇、もしくは降水量が10パーセント減少するごとに植物がどう反応するかを調べました。私たちの研究では、GIS(地理情報システム)や、収集データを用いたリモートセンシングなどの空間情報技術を使用しました。またこうした経験に基づいて、精密農業(プレシジョン・アグリカルチャ)という概念を構築しました。これは、さまざまな土壌や収穫条件に適した農業の導入によって、環境に負荷を与えることなく生産性を最適化するためのものです。興味のある方は私が編集した書籍『Handbook of Precision Agriculture: Principles and Applications』(Haworth Press, Inc.)を参照してください。

--- 世界中で仕事をされてきたわけですが、日本で研究活動を続けている理由は何ですか?

アンチャ:
当初は2年のつもりが、IGESでの4年間を含めて13年も日本で暮らしています。来日当初勤めた研究所では、所長の依頼を受けて勤務を2年間延長し、その後も数度、契約を延長しました。他の研究所からのオファーもありましたが、当時の仕事には興味とやりがいを感じていましたから、日本にとどまりました。来日して最初の半年は言葉の問題などで苦労しましたが、やがて仕事上のネットワークも広がり、家族にも日本人の友人がたくさんできました。


---- 日本の研究者や研究方法にはどのような特徴があると思いますか?

アンチャ:
日本の研究方法は、インドや欧米とはかなり異なっていると思います。基本的な違いのひとつは、これは文化の違いによるものだと思いますが、若手研究者が先輩研究者の研究や研究所の方針に異議を唱えにくい点です。若手は内緒でやりたいことをやるか、あるいは黙って指示に従うかのどちらかです。もちろん、他人の研究に反論しないからといって、有能でないわけではありません。

第二に、日本では器械に頼る部分が多く、また結果よりも手順を重視しますが、器械に縛られた考え方には限界があると思います。研究者は、器械や手順が指示する通りに研究を進めなくてはならず、せっかく優れた頭脳を持っていても、それでは常識やルールにとらわれない自由な思考や挑戦ができません。日本に来るまでは、このようなやり方を経験したことはありませんでした。

---- 研究方法における基本的な相違点を考慮すると、国内外の研究者がうまく協調するにはどうすればいいと思いますか?

アンチャ:
第一に、異文化間での意見交換が必要です。外国人と日本人が互いに意見を言い合えば、お互い刺激にもなるし、研究にも良い影響をもたらすでしょう。第二に、文化の異なる相手を尊重し「自分の方が優れている」と思わないことです。それぞれのシステムを尊重し、長所を認めるべきです。利用できるあらゆる方法の最も良い部分を使うことで、効率的な研究システムを生み出すことができるのです。


---- IGESでの現在の研究について教えてください

アンチャ:
私は現在、IGES気候政策プロジェクトに所属し、その中で2つの興味深い研究に参加しています。将来に向けた研究「2013年以降の気候政策枠組み」と、現在のための研究「気候変動への適応方法」です。

2013年以降の気候変動枠組みに関する非公式対話
アンチャ:
image: Dr. Ancha
IGES気候政策プロジェクトは、2005年6月、2013年以降の将来枠組みについて多様な関係者間の対話を実施する「2013年以降の気候変動枠組みに関する非公式対話」を開始しました。ステークホルダーとの一連の対話を通して、将来の気候政策枠組みに対するアジア諸国の懸念、関心、優先事項を明らかにするのが目的です。

2005年度に行った対話の総括報告書を公表したところ、多数の好反応が返ってきました。このような地域レベルでの将来気候政策枠組みに関する問題に取り組む研究は、アジアの研究機関では初めての試みであり、このプロジェクトに関わることを誇りに思いますし、昨年この対話を開催できたことを心から嬉しく思います。 アジアの懸念を調査したことは革新的なことですが、さらに重要なのは、将来の気候政策枠組みをめぐる先進国と途上国間の意見の相違を調整することです。この挑戦には、今後3~4年以上にわたって継続的に取り組む必要があるでしょう。

2005年度に行った一連の対話は国レベルでしたが、今年度は東アジア、東南アジア等の準地域レベルにて行う予定です。「エネルギー安全保障と開発ニーズ」「クリーン開発メカニズム(CDM)」「技術開発と技術移転」「適応」の4つのテーマの下、2013年以降の気候政策枠組みの中で、これらの問題にどのように取り組むべきか、アジアの視点から考えます。アジアの途上国の要求と先進国の関心を結びつけることが、重要な論点となるでしょう。これは非常に困難な作業ですが、多くの人々がこの研究への協力について興味を持っており、好意的です。財源が許せばさらに3~4年継続して対話を行うつもりです。

気候変動への適応 ― 途上国と先進国の協調を探る
アンチャ:
私自身の研究テーマは、気候変動への適応と途上国との協調をめぐる諸問題ですが、もちろん気候変動への適応は途上国だけではなく、先進国にとっても重要です。したがって私の研究の第一目的は、途上国と先進国が気候変動への対処という共通の目標に沿って協力できるようにすることです。これは、適応問題と同様、CO2削減に関しても同様です。

途上国の多くは気候変動に適応することができず、さらなる支援を必要としています。私は自分の研究を通じて、より持続可能な気候変動への適応方法や、特にCDMなど先進国と途上国の協調を促進する手法を利用した温室効果ガス排出の削減や相応の緩和責任を果たす方策など、アジア太平洋地域の発展のための具体策を提示していきたいと考えています。気候変動への適応政策における調整と協力を実現するために、橋渡し役としてできるだけのことをしたいと思っています。
--- IGESの研究は今後どのような方向を目指すべきだと思いますか?

アンチャ:
image: Dr. Ancha
IGESの活動理念は素晴らしいものですが、どうやってそれを最善の方法で達成するのか、そしてどこまで普及できるのかが課題です。この点から言えば、我々はもっと積極的に研究の方向性を設定するべきでしょう。

私たちはアジア太平洋地域に焦点を絞って人類が直面している難問と取り組んでいますが、その研究の多くは現在起きている問題についてであり、20年後、50年後の環境問題を具体的に考える研究はごくわずかです。私たちは、この地域が将来的に直面する問題を想定して、さまざまな対処法を考えなくてはなりません。例えば「50年後に低炭素社会を実現するには、制度、技術、政治面でどのような変化が必要か」といった問題を重視し、取り組む必要があるのです。

もちろん、環境問題の現状に対する研究も必要ですが、戦略的研究機関であるIGESにとって、未来を見据えた研究、つまり、環境政策における予防戦略的な研究を行うことが重要なのです。現在の問題に取り組みながら、未来に向けた研究を行う ― それが、私の考えるIGESのあるべき姿であり、その実践に向けて取り組んで行きたいと思っています。

---- どうもありがとうございました。




参考資料:
- IGES気候政策プロジェクト
- 報告書:アジアから見た将来気候政策枠組み -Asian Perspectives on Climate Regime Beyond 2012:Concerns, Interests and Priorities
- プレスリリース:アジアにおける「2013年以降の気候変動枠組みに関する非公式対話2006」を開始
- 書籍:Handbook of Precision Agriculture: Principles and Applications(Haworth press Inc.出版)

インタビュアー:サム・アダムソン、矢島恵 (情報発信・アウトリーチプログラム)

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