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  E-alert Interviews  第3回
COP/MOP1での京都議定書の行方


渡邉 理絵
気候政策プロジェクト 研究員



[略歴]
東京大学法学政治学研究課修了(法学修士)。1998年よりIGESに勤務。気候政策プロジェクトでは主に欧州気候政策と法的枠組みを担当する。研究テーマはEU及び日本の気候政策形成過程、京都メカニズム、気候変動をめぐる国際体制の法的問題(遵守、リオ条約間の協力)等。



--- 渡邉さんがそもそも研究者になったきっかけは何ですか?

渡邉:
今思えば、私は子供のころから世の中で当たり前と思われていることに対して疑問を持つことが多く、質問ばかりしていました。成長するにつれ自分の質問に対し納得のいく答えを与えてくれる人がほとんどおらず、人は意外に理由が明確でなくても物事を当たり前のこととして受け入れているのだな、ということに気づきました。

後から考えてみれば、60年代、70年代は世の中が大きく変わっていく時で、既存のシステムを子供ながらに窮屈に感じていた私には何もかもが疑問だったのかもしれません。結局、自分の疑問には自分で答えを見つけるしかない、と思うにいたり、色々なことを調べるようになりました。答えが見つかったときは本当に嬉しかったものです。世の中のシステムに内包されて当たり前となっていることへの疑問とそれに対する答えを見つけた時の満足感が、私が研究者という道を選んだきっかけだと思います。



--- 現在IGESの気候政策プロジェクトで渡邊さんが携わっている研究について教えてください。

「日本とドイツの気候政策過程の比較」研究について
渡邉:
気候変動枠組条約の中で、「附属書I国」と呼ばれる先進国は、温室効果ガス排出量を抑制する義務を負っているのですが、抑制に成功している国は極めて少ないのが現状です。ドイツはその数少ない国のひとつです。しかし、ドイツが排出量削減に成功したのは1990年代初めの東西ドイツ統一により、旧東独州の工場・建物等のエネルギー効率を上げたことに起因しており、削減努力なしに成功したという意見も聞かれます。

現在のところ、ドイツの排出量削減において、東独州のエネルギー効率改善による部分は50%程度で、残りの50%はその後導入された政策によるものであるということが、ドイツのある研究所の調査により分かってきています。もともと日本が近代化を図るときに、様々な制度をドイツから輸入してきたため、日本とドイツは、制度的にも、また産業界と政府の関係や、重工業に依存している先進国という意味で産業構造なども似ています。それなのに、どうしてドイツは効果的な政策を導入でき、日本はできなかったのか、という疑問が浮かんできますよね。
2005年11月の「日独気候政策シンポジウム」にてドイツの排出権取引制度について発表する渡邉研究員。(2005年11月1日、東京)


日独の削減実績の差はどこからくるのか

私は、政策決定過程の違いが原因であるという仮定をたてて、この両国の政策形成過程の比較研究を実施しています。もしそうだとすれば、そこから日本が学べる部分もあると思いますし、もともと構造が類似しているので学んだことを取り入れるのも比較的容易だろうと思ったのです。これまでの研究で、後者の50%の部分に寄与した政策投入を可能にした要因として、98年の連邦選挙で政権が交代し、緑の党が政権参画を果たしたという内政面の要因と、京都議定書ではEUが欧州共同体として8%の削減目標を負い、それを達成するためにEUレベルで気候政策を形成し、それがドイツの政策形成に影響を及ぼしたという外部要因が同定されました。


「日本の京都議定書上の目標達成に向けたクレジット取得方法」について

渡邉:
EUの気候政策に関する研究の一貫として、昨年度は、環境省の委託事業で日本の京都議定書上の目標達成に向けたクレジット取得方法に関する調査を、ドイツの研究所と共同で実施しました。

京都メカニズム活用のために
日本は京都議定書上6% の削減目標を負っていますが、今年5月に採択された京都議定書目標達成計画によれば、このうち1.6%を京都メカニズムの利用により調達する予定です。既にEU構成国や企業は、クレジットの政府買取制度を構築したり、EU域内排出枠取引制度の中でCDMやJIプロジェクトから発生したクレジットを使用できるようにするなど、クレジットの獲得に乗り出しています。一方、日本は未だ政府買取制度も、国内の排出量取引制度も構築していません。そこで、このプロジェクトでは、JI、CDM、国際排出量取引、グリーン購入制度、国内排出量取引制度の構築と他国の制度との連携という5つのオプションを、環境保全効果、価格、取引費用、政治的受容性、ポテンシャルの大きさ、長期的な効果の6つの基準で評価し、日本が京都議定書上の目標を達成するためにクレジットを獲得する上で最適な方法を検討しました。


「京都議定書の遵守問題」について

渡邉:
京都議定書ができた後に、実際に運用するための細かい運用則が2001年6月のボン合意と、2001年11月のマラケシュ合意で決められたのですが、ボン合意、マラケシュ合意採択時に大きな問題となったのが、「遵守手続・メカニズムの法的拘束力の有無」でした。

京都議定書は、いくつかの義務を締約国に課しています。その義務が履行されない場合にどのような措置(罰)をどのように課すのかを定めるのが「遵守手続」です。この履行できなかった場合の措置(これを不遵守の帰結といいますが)の中に、法的拘束力がある帰結を含むのかどうかが、ボン合意、マラケシュ合意採択の際に議論になりました。多くの国は、法的拘束力のある帰結を含むべきだと主張しましたが、日本・ロシア・カナダは、法的拘束力のある帰結を含むべきではないと主張したのです。

日本の主張:法的拘束力の有無が焦点に
2001年3月に米国が京都議定書から離脱すると宣言したことを受けて、京都議定書発効には日本とロシアの批准が必要となり、両国の交渉力が非常に大きくなりました。日本とロシアが最後まで法的拘束力のある帰結を含むべきではないと主張し続けたため、遵守部分については、不遵守を判断する遵守委員会の構成や帰結の内容を定めた上で、帰結の法的拘束力の有無については京都議定書発効後に開催される京都議定書締約国会合で決定するという形で、合意しました。COP/MoP1でもっとももめると言われている論点の一つがこの遵守問題なのです。

そこで、帰結に法的拘束力がある場合とない場合でどこが違うのか、なぜ日本は法的拘束力のある帰結の導入に反対したのかについて2002年に調査研究を行い、2003年に報告書を出しました。 そして現在は、先の調査結果に基づいて、来る11月のCOP/MoP1で日本がとるべきオプションの検討や2005年5月にサウジアラビアが提出した遵守手続きの改定案の分析などを行なっています。

サウジアラビアの改定案は、まさにこの帰結の法的拘束力を問題としています。要は、議定書上の義務が守れなかった場合に課される措置を履行できなかった場合に法的責任を問われるのかどうかという問題です。もちろん法的責任と政治的責任では、法的責任の方が責任の度合いが重いわけですが、国内法と異なり、国際法では執行を確保する方法がないので、どちらでも実質的には変わりません。但し、法的拘束力の有無により遵守手続の採択方法は変わります。法的拘束力を有する遵守手続は、議定書の改正により採択されなければならず、改正には議定書締約国の4分の3の同意が必要となります。一方、法的拘束力がないということになれば、締約国会合で採択できます。

京都メカニズムが使えなくなる!?
また遵守手続きは京都メカニズムの使用にも影響を及ぼします。京都メカニズム活用の資格審査は、遵守委員会の執行部が行ないます。したがってCOP/MOP1で遵守手続きが採択できない場合には、遵守委員会も立ち上がらず、京都メカニズムの利用に問題が生じる恐れがあります。日本は、遵守手続きを早期に採択しなければならない、けれども法的拘束力のある遵守手続きは困る、というわけで、この2つの相反する問題に対処するための答えを見つけなければならないのです。


「気候変動の将来レジームの法学的観点からの構築」について

渡邉:
これまでお話しした3つの研究テーマが政策形成過程や政策科学の観点で分析を行うのに対し、このテーマでは法学的観点から研究を行っています。


目標値の設定根拠の重要性
京都議定書の交渉を振り返ってみると、第一約束期間の間に日本はマイナス6%、米国マイナス7%、EUマイナス8%などと温室効果ガス削減目標が決められていますが、実はこの目標は正当性のある根拠に基づいて決められたわけではなく、交渉の中で政治的に決められたのです。例えばアメリカは京都会議前には0%を主張していたわけですが、終わってみれば7%削減に合意しました。米国が議定書から離脱した要因の一つとして、国内の納得を得られるラインよりもはるかに高い目標にコミットしてしまった点があげられます。しかも目標が正当な根拠に基づいて定められたわけではないのですから、国内の利害関係者を説得しようもないわけです。日本でも、既にエネルギー効率性が高い日本がなぜ6%の削減目標を負わなければならないのか、という疑問そして不満がしばしば聞かれます。

各国の共通理解を得るために
気候変動枠組条約第3条は、様々な義務を定める上での原理原則を規定しています。この研究プロジェクトは、前述の例を踏まえ、この原則をきちんと分析し、各国の共通理解となる規範を提供することにより、2013年以降の将来枠組みで課された目標や義務に正当性を付与することを目的としています。気候変動枠組条約の原則の中には、例えば「共通だが差異ある責任」や「衡平性」などがありますが、原則の解釈自体が国によって異なります。そうすると原則が目標や義務を定める上での拠り所としての役割を果たせなくなってしまうので、各国の原則に対する理解や実施を分析し、各国の共通理解を得るような原則の解釈を、導き出そうとしているわけです。
---研究をしてきて、楽しいと思えるのはどんなときですか?

渡邉:
どんな研究を始めるときも、何かに対して疑問があって、それに対して仮定を立てます。その仮定があっているにしろ間違っているにしろ、結論が出たときは楽しいですね。私の研究は、特に政策形成過程を扱うので、過程を再構成するために、政策決定に関わった人たちにインタビューをさせて頂くことが多いのですが、インタビューの中でインタビュー相手の人柄に触れたりするのも楽しいですね。

---逆に、研究をする上で辛い部分や難しい点はどんなところでしょうか。

渡邉:
研究した内容を「政策決定」に結びつけるのが一番難しいと思います。例えば、疑問に対する答えを見つけるところまではできても、それを実際の政策に反映させるとなると、それぞれ政策決定者の思惑もある中、すぐに実現できなかったり、または、導き出した答えが必ずしも政策決定者にとって歓迎すべきものではないこともあります。研究と政策決定者の求めるものが必ずしも合致しないということが、難しいと感じます。

---この先IGESでどのような研究をしたいと思っていますか?

渡邉:
日独の気候政策形成過程の比較を通じて、この分野の日本の問題点を明らかにした上で、日本の政策形成過程について具体的な改善案を提示していきたいです。

そして、同じ手法に基づいて他の国々 ―難しいかもしれませんが、特にアジア諸国― のケースについて分析できればと思います。先進国を対象とした分析枠組がどの程度アジア各国に適用できるのかわかりませんが、いずれは取り組んでみたいと考えています。


また、EUのように、国を超えた地域レベルの統治のアジアへの適用可能性についての研究にも、興味を持っています。ただ、EUで地域レベルの統治の枠組が生まれたのは、各構成国が、地域レベルでの統合を進めることにより、単一の市場を構築することに経済的なメリットを見出したことに起因するところが大きいので、アジアのように各国の経済情勢等がかなり違う地域で、果たしてEUのような共同体が構築できるのか、今はまだ見えていません。日独比較研究の中でEUについての研究も扱っているので、EUに対する分析をもっと深めることによって、アジア共同体についても、足がかりのようなものが見えてくれば嬉しいです。

---それでは最後になりますが、あなたにとって戦略研究とは何ですか?

渡邉:
私が考える戦略研究とは、客観的な検証を経た上で、かつ政策提言につながる研究だと思います。 IGESでも、戦略研究とは何か、ということがしばしば議論されており、中には、戦略研究=既存の研究の上澄みを採って政策提言を行う研究という意見もあります。しかしながら、独自の研究をしっかり行なってこそ、オリジナリティが生まれるのであり、また、その研究を基盤研究で終らせずに政策提言につなげることが、「戦略研究」だと思います。そして、私が目指しているのもそのような研究です。

どうもありがとうございました。
 




関連リンク:
- 平成16年度環境省委託事業:国内排出量取引推進事業
>> 報告書「日本の京都議定書目標達成に連携指令が及ぼす影響 -中東欧諸国からのクレディット取得のオプション調査事業」
- 気候政策プロジェクト

インタビュアー:小山玲子、矢島恵  編集:城戸めぐみ、ティモシー・スカイ

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