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  E-alert Interviews  第2回
アジアの経済統合にむけた効果的な環境政策・と制度の模索-環境法と戦略研究


ムスタファ・カマル・ゲイ
長期展望・政策統合プロジェクト 研究員





[略歴]
名古屋大学国際開発研究科修了(国際協力学博士)。ダカール大学(法学修士)。 2001年4月よりIGESに研究員として勤務。 主たる研究テーマは再生エネルギー開発のための投資、貿易と環境の政策統合、環境法における公益行動と代表訴訟。国連食糧農業機関(FAO)、UNCTAD投資・技術・企業開発部などを経て現職。


--- カマルさんは、資金供給やエネルギー、また、貿易などの幅広い知見をお持ちですが、そもそも研究者になったきっかけは何ですか。

カマル:
勿論、自分で研究者になりたいと思ったということもありますが、実はまったくの偶然でもあります。いろいろな分野で研究をしてきたので、「環境」の研究者になったきっかけを聞かれているわけではないですよね。私は、学ぶこと、問題に対する解決方法を探すためのアプローチを見つけることに興味があります。科学、もしくは知識というものは、意思決定をするための第一歩です。私は、これが研究の役割だと思っています。つまり、社会が情報を得た上での決定(informed decision)をするための知識を生み出す、ということが、研究の役割なのです。次々に勉強を続けていくうちに、気づいたら博士号を持っていて、気づいたら研究者だったのですよ!

--- セネガル出身のカマルさんが、なぜアジア太平洋地域の研究をしているのか、多くの人が興味を持っているかもしれません。何がきっかけで日本にいらしたのですか。

カマル:
これに関しては、私が日本に来る前にしていたことに関係しています。私はロースクール(法科大学)に通っていたのですが、そこで国際経済法(国際金融と貿易システムの法制度などを扱う)を勉強していました。修士論文を書こうしていた頃、1989年12月にちょうどリベリアの内戦が勃発しました。当時の動向が私にとっては衝撃的で、その時に、単に経済的観点からではなく、平和維持のメカニズムなど別の観点から国際法を掘り下げてみようと思ったのです。そこで、リベリアの平和維持とECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)の役割について修士論文を書くことに決めました。

image: Dr. Kamal
開発を包括的に捉えた時の政治的安定性という問題を掘り下げてみた時に、経済発展というものの重要性に気づかされました。リベリアと、私の出身国であるセネガルを比較してみると、セネガルの方が政治的安定性はあるものの、「開発」と「人間の基本的ニーズを満たす」という点で、多くの問題があることに気づきました。安定性だけでは、開発を確実にすることはできなかったのです。勿論、政治的安定性は必要です。しかし、雇用を促進し、巨大な投資をするためには、経済発展や大きな市場も必要です。こうして、私は経済的側面に大変興味を持ち始めました。アフリカには金銭的・人的資源が限られた小さな国々が多く集まっています。このようなアフリカには、地域的な経済統合が政策として非常に重要だと思ったのです。

アフリカと、ASEAN(東南アジア諸国連合)も含めたほかの地域における地域統合の比較研究をしてみた結果、東南アジアが途上国の中では経済統合の成功モデルの一つだと思ったので、この地域の研究を大学でも進めていこうと決めました。

もともとは、ジュネーブにある高等国際問題研究所に行く予定だったのですが、日本から奨学金がおりたということと、東南アジアにより近いという理由で、日本に来ることにしました。国際開発プログラムにおいては日本でパイオニアである横浜国立大学か名古屋大学に行くことを薦められました。名古屋大学の方から最初に受け入れの連絡が来たので、名古屋大学に来ることを決めました。名古屋大学では、もう一度修士過程に入ることを決め、分野は開発学を選びました。

---西アフリカのモデルとして、東南アジアの経済統合の研究をするために日本でいらしたわけですが、東南アジアが西アフリカから学べることもあると思いますか。

カマル:
勿論、お互い学ぶところがあると思います。東南アジアよりも西アフリカの方が制度的な統合は進んでいると思いますし、WAEMU(西アフリカ通貨同盟)は、西アフリカの制度としてよい例だと思います。資金・通貨調整といったことも含め、西アフリカで行われていることがASEANに役立つことはたくさんあると思います。

アジアの途上国における自由貿易の役割
--- アジアでの経験を踏まえ、途上国における自由貿易の役割をどのようにお考えですか。

カマル:
image: Dr. Kamal
アジア諸国における貿易構造は、通常互いに補い合い成り立っています。日本と、新たに発展してきているASEAN諸国や中国との間では、特にこれがあてはまります。このような補完的構造は、特定の産業がより発展した国々(日本等)から、まさにこれから追いつこうとしている国々(NIESやASEAN等)に移行している労働の地域的分担といった、いわゆる雁行形態に関係しています。このパターンは、東南アジアにとっては有益だったと思いますし、補完的貿易パターンを生み出すシステムを作り上げたと思います。しかし、例えば農業における保護貿易政策などもまだ存在しますし、地域全体に自由貿易のきちんとしたパターンがあるわけではありません。国際貿易は、国の比較優位性に基づき成り立っています。この比較優位性の現状を反映するシステムがなくては、フェアなゲームとは言えません。政府が保護貿易政策をとる理由は多くありますが、この保護貿易政策が発展や効率性、また、福祉に対して悪影響と歪みを及ぼすことも多くあります。
---話は変わりますが、研究で一番楽しくて興味深いことは何ですか。

カマル:
私がIGESで行っている研究で特に楽しいのは、再生可能エネルギーのための資金メカニズムの問題と、貿易政策と自由化が持続可能な開発の目的に確実に貢献できるよう取り組むことです。これらは、貿易政策の環境的側面とも言い換えられます。貿易の自由化は、発展そのものにも繋がりますし、貧困問題の緩和や経済発展といった重要な側面でもあります。とは言え、貿易が取り返しのつかないネガティブな影響を環境に与えないようにしなければなりません。

---それでは、研究でもっとも難しいと思うことは何ですか。

カマル:
貿易に関連した環境持続性を例に挙げてみます。IGESがこれまで機関全体で環境政策に取り組んできた研究成果をアジア太平洋地域にとって重要な事柄に適応させることが、大きな挑戦だと思います。この地域の多くの国で行っている地域経済統合と貿易の自由化といったプロセスは、発展にとって重要ですが、環境に多大な影響を及ぼす可能性もあります。経済統合の存在と矛盾しないような、効果的な環境制度・政策とはどのようなものかを考える必要があります。ですから、「環境」という枠を越え、環境に重要な影響を及ぼす貿易や投資政策といった他の分野にも目を向けつつ、環境政策の分析レベルを調整することが重要なのです。

---さて、IGESの外での話もお聞かせください。セネガル、名古屋(愛知県)、葉山(神奈川県)と住んでみて、いかがですか。

カマル:
名古屋はあまり大きな都市ではないので、住むには馴染みやすいですね。あまり混雑したところは好きではないです。住んだり仕事をしたりする場所は、静かなところがいいですね。東京には住みたいと思いません。出かけても移動するだけで疲れてしまいますから!

image: Dr. Kamal
途上国と先進国に住むという意味で、セネガルと日本を比較すると、さまざまな意味で発展に関連する側面や問題が見えてきます。セネガルでは、多くの人が基本的なニーズの問題に直面しています。政府などの公的制度がすべての国民にサービスを供給できないとしても、社会的なシステムがそれを補っています。例えば、セネガルではホームレスを目にすることは殆どありません。仕事や定期的な収入がない人はたくさんいますが、社会連帯があるので、生き残ることができるのです。

一方、日本は多くの機会に恵まれた場所だと思います。しかし、どういうわけか「排除」もありますし、社会構造に柔軟性がないのです。すべての人に機会が与えられていますが、その機会を取り逃がすと、排除されてしまうのです。日本には貧困に苦しむ人はいないのだと思いますが、自分自身を社会や経済構造に組み込めないと、「排除」という現象が起きます。国として手段が用意されているにもかかわらず、ホームレスや、自分自身の面倒を見られない人が多くいるのです。この対比は、国と社会構造のキャパシティーの違いなのだと思います。日本のような国に社会保険があったとしても、家族という「安全ネット」があるとは限りません。勿論、途上国は先進国から学ぶことがたくさんありますが、この点に関しては、先進国は社会を改革し、途上国に残っている「一体性」のある社会的メカニズムを振り返ってみる必要があると思います。

---今後、IGESでの研究で何を成し遂げたいと思いますか。

カマル:
アジアにおいて、環境的に持続可能な経済統合という分野の研究で、私たちが大きな貢献をできればと思っています。IGESの中でもっと強いパートナーシップを築くこともできるでしょうし、韓国、中国、インド、また、東南アジアの国々の機関とも戦略的パートナーシップを築き始めています。このような国々との政策研究ネットワークを強めていくことは、一つの成果となるのではないでしょうか。

長期展望・政策統合プロジェクト(LTP)に関して言えば、重要課題に関する研究にフォーカスすべきではありますが、新たな課題や今後重要性が高くなる課題にも取り組んでいかなければならないと思います。研究者は、一つの研究分野に固執する必要はないと思うのです。もっと柔軟であるべきだと思います。私の場合は、ロースクールで勉強し、平和維持に取り組み、そして地域統合という観点から東南アジアにおける外国直接投資を掘り下げて研究しています。しかし、開発という観点全体における環境を取り扱うことが重要だとも思っています。だからこそ、私はIGESに来たのです。さまざまな分野で仕事をしてみて、すべては関連していると思うのです。例えば「法律の視点」といった、ひとつだけの視点からこのような問題を見るだけでは、政策研究者とは呼べません。経済や環境の側面からの視点も取り入れるべきだと思います。

---最後になりましたが、あなたにとって、戦略研究とは何ですか。

カマル:
IGESでは、「政策研究」と「戦略研究」の違いについていつも議論をします。IGESで行っているような戦略研究の役割は、取り組む問題に対してのオプションを探し出すことです。私が考えている政策研究とは、さまざまなオプションを評価し、そのどれが最も効率的で実現可能なのか、そして、環境配慮の観点からだけではなく、他の社会的プライオリティーとの兼ね合いを考慮した上で、どれが最も適したオプションなのかを探し出すことです。

戦略研究はまた、問題を予測することです。例えば、LTPはアジアの経済統合に取り組んでいますが、これは経済統合が既に起きている現象だからではありません。むしろ、この先15年、20年とアジアで起こるであろうプロセスだからなのです。その現象を予測し、その現象が起きた時にどのような環境政策・制度が必要なのかを、私たちは見極めようとしているのです。

どうもありがとうございました。
 





参考資料:
- Financing Sustainable Development: Trends and Emerging Policy Approaches in Asia and the Pacific by Kamal Gueye in IRES. Abstract available on https://pub.iges.or.jp/modules/envirolib/view.php?docid=2019

インタビュアー:ローリ・グールディング(事務局研究支援課)、小山玲子(情報発信・アウトリーチプログラム)

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