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気候資金の鍵を握る民間資金の導入に向けて
-緑の気候基金(GCF)における民間資金への期待と課題-
(2012年12月7日)
緑の気候基金(GCF)における民間資金への期待
現在行われている国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第18回締約国会議(COP18)のアジェンダの一つである、緑の気候基金(GCF)において、資金をどのように調達するかは多くの国の関心事項である。GCFへの資金源としては、近年の金融危機等により、各国ともGCF資金の拠出に対して慎重な立場を取らざるを得ず、公的資金による低炭素開発への投入が限られるため、民間資金からの投資への期待が大きい。COP18の議論に向けて2012年10月に最終報告書が出された長期資金のための作業計画の文書では、途上国における気候変動緩和及び適応に向けた対策を実施するためには民間セクターの参加が必要であることを強調し、GCFの理事会に対し民間セクター参加の強化を要求している。また、銀行、年金基金、保険会社などの民間の機関投資家は既に低炭素関連プロジェクト資金の重要な資金源になっていることから、途上国への更なる投資を促進していく投資主体としてポテンシャルが高く、期待が大きいと指摘されている。このように民間資金の重要性が指摘される一方、その導入において多くの課題がある。そこで本コメンタリーでは、民間資金に焦点を当て、低炭素投資における民間資金の課題と、その課題克服に果たしうるGCFのあり方について考える。
Author
気候変動グループ LCS-RNet
民間資金導入における課題
COP18の交渉と同時に開催されているサイドイベント(*1)では、GCFにおける民間資金の可能性、特に長期資金のための作業計画でも指摘されているように、長期資金の拠出源として期待が高い銀行や年金基金、保険会社の役割と、彼らのGCFへの資金源としての可能性と課題に関する議論が行われていた。発展途上国における低炭素投資の多くは、今後、開発が進む再生可能エネルギー、電力や交通インフラ、オフィスビルや公共施設などの建築物といった、元本回収期間が長く、長期型投資が必要な分野である。このような長期型投資が必要な分野において、民間資金を呼び込む際の障壁として、第一に、低炭素投資に対する各国の助成制度や政策が当該プロジェクトの長期返済期間の変更に至る確率が高いため、将来見通しが不確実であり、投資リスクが高いこと、第二に、金融危機後に強化された長期投資に対する金融規制の問題などが挙げられる。

第一の障壁に関しては、再生可能エネルギープロジェクトは、固定価格買取制度(FIT)やカーボンクレジットにより内部収益率(IRR)などで示される投資リターンを高め、低炭素投資への魅力を強化することができる一方で、FIT制度や炭素市場は、長期的な視点において不確実性が高いことなどが挙げられる。スペインでは、FITの導入後、固定買取価格を引き下げる政令を定め、更には買取対象設備の年間上限枠を設定するなど、政策を大きく変更した。更に、政権交代により再生可能エネルギーへの助成金が一時停止するなど、投資家は当初の投資回収予定を大きく変更せざるを得なくなった。カーボンクレジットに関しては、炭素市場のルールなどによりその価格を含め需給が左右されるといった不確実性の問題や、COP18の争点ともなっている京都議定書の第二約束期間の終了期間や第二約束期間への余剰排出枠の繰越しといった国際交渉での決定内容により、長期市場形態が左右されるため、長期的見通しが立てにくいといった問題がある。そのため、これらの問題は、低炭素化に向けた開発への資金投入や普及において大きな障壁となってくる。

第二の障壁は、近年の金融規制の強化による長期投資における課題である。2008年、2009年の世界的な金融危機を教訓として、国際的に業務を展開している銀行に対し、管理強化を求める新たな規制であるバーゼル(Basel) III(*2)が、2012年末から段階的に導入され、2019年から全面的に適用される。Basel IIIは、投資や融資などの損失を被る恐れがあるリスク資産に対して、普通株と内部留保などからなる自己資本を一定割合以上保有するよう義務づけるものであるため、Basel IIIが実施されれば長期投資を行うことが難しくなる金融機関が増える可能性が高い。つまり、銀行は、投資又は融資先の普通株等の最低保有水準を2.0%から4.5%に引き上げると共に、将来のストレス期に耐え得るように2.5%の資本保全バッファーを保有することが求められ、合計で普通株等の所要水準は7.0%以上に引き上げられることになる。このような規制により、長期的なリスク資産となる低炭素プロジェクトに対する投資が減少する可能性がある。

上記のような場合、従来型の銀行による融資が縮小する恐れがあるため、このような規制を補う公的支援を、GCFを通じて行う必要があると共に、信託基金を通して資本市場から資金調達するといった、他の投資主体の導入を検討する必要がある。例えば、年金基金のような機関投資家は、投資ポートフォリオの構成として、多くの場合、長期的に安全で変動の少ない国債に90%、エクイティに8%、不動産やインフラ債などに2-3%という割合での投資を行なっている。このような年金基金のポートフォリオのうち、5%を気候変動関連の投資に結び付けることができれば、(国際労働組合総連合(ITUC)試算によれば)2015年には3,010億ドルの投資を確保できると見積もられており、今後の動向に期待が高まっている。再生可能エネルギーは、様々な課題があるものの、長期的に持続可能なエネルギーインフラとして技術の向上や量産が進み、安定的に資金回収ができるようになれば、化石燃料の代替としての可能性が高まり、長期的視点においてコスト及びリスク減が期待できる分野でもある。将来的な高騰が見込まれる化石燃料の価格とは連動しない再生可能エネルギーの投資額を増やすことによって、低炭素投資への投資率を調整し、リスクを緩和する必要があることも事実である。

公的資金と民間資金の相互協力体制を強化するGCFの制度設計の必要性
以上のことから、民間セクターによる途上国への低炭素投資を活性化するために、投資リスクを軽減する公的資金による(受け入れ国である途上国政府や事業者への包括的な政策支援や能力開発などに対する)支援体制と、GCFを通じ低炭素投資を考慮した(プロジェクト遂行・管理のための能力開発、リスクの高い初期費用投資などに対する)支援体制を整備することなどが必要になってくる。例えば、GCFの公的資金の役割として、再生可能エネルギーや低炭素インフラなどへの低炭素投資における、投資対象国の政策リスクや事業遂行能力リスク、技術リスク、操業リスクなどに対する保証制度を付与するといった協調融資を提供することなどが求められる。また、途上国が計画通りにプロジェクトを遂行できるように、プロジェクトリスクを軽減するための能力開発や初期費用など、事前の環境整備のための費用の供給や先行投資を実施することなどが重要である。更に、途上国での投資を行う場合、デューデリジェンス(投資など取引の際に、対象企業や金融商品に対する資産の調査)のための費用がかかるため、相手国の金融機関との協力体制を構築することが必要になってくる。そのため、GCFを通じて、先進国の民間金融機関や機関投資家と、途上国の民間金融機関又は公的資金を結び付けることが期待される。 このように、GCFがどのような仕組みで設計されるかについては、今後のCOPの交渉やGCF理事会などを通じて決定していくことになるが、低炭素投資を活性化する仕組みを構築できるか否かは、各国政府や国際機関だけでなく、民間セクターにとっても新たな事業への投資対象となり得るか否かを見極めるという点において大いに注目される。そのため、民間セクターにとっては、今後の動向を追っていくことでビジネスチャンスに結び付く可能性もある。一方、研究者としては、交渉の動向や方向性を示すと共に、政府と民間セクターのニーズ分析を行うことで双方に情報を発信し、更に、民間セクターの参入において、途上国における社会・環境面等を配慮した政策及び持続可能な社会構築へ向けた提案を行っていくことが重要になってくる。


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 *1: COP期間中、多くの各国政府、国際機関、NGOなどが、気候変動政策やCOPに関連する研究及び成果発表としてサイドイベントを開催している。

 *2: バーゼルIIIは、国際的に業務を展開している銀行の健全性を維持するための新たな自己資本規制として、2010年9月に主要国の金融監督当局で構成するバーゼル銀行監督委員会により公表された。本規制は、1988年に銀行の自己資本比率に関する規制であるバーゼル合意(BIS規制)の新たな規制強化策である。

*** このコメンタリーの内容は執筆者の見解であり、IGES の見解を述べたものではありません。

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