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適応基金を巡る議論  -運用化から2年が経過して-
(2012年12月12日)
適応基金の運用開始から約2年が経過し、これまで25の適応事業を支援してきたが、これまでどのような成果を上げ、また課題を抱えているのだろうか。

近年の適応基金に関する議論は、特に支援方法や財源調達に関するものが多い。支援方法については、他機関に先んじて、世界銀行等の国際機関を通じた事業の実施(インダイレクト・アクセス)のみならず、途上国機関による直接的な事業の実施(ダイレクト・アクセス)も開始したが、これがうまくいくかという議論である。また、財源調達については、適応基金の財源であるクリーン開発メカニズム(CDM)の認証排出削減量(CER)価格の下落傾向が止まらない事等を背景にした、資金獲得戦略に関する問題である (*1)。

以上の点も取り上げつつ、COP18のサイドイベントにおいて発表・議論された内容、またその交渉結果を基に、適応基金の成果と課題について紹介する。
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気候変動グループ
NGOによる適応基金の事業評価
COP18の会場では、適応基金に関するサイドイベントが、適応基金自身及びGerman WatchというNGOによって開かれた(*2)。German Watchの途上国の8つのメンバー団体は、実際に適応基金が支援している事業に対し現地で実施機関との対話等を通して関与しているが、サイドイベントでは、メンバー団体による評価結果が発表された。German Watchは、これらの評価は適応基金が支援する事業全てが含まれているわけではないものの、全体的には事業は現地において歓迎されていると報告した。ここでは発表された事業のうち3事例を紹介する。

今回のサイドイベントで特に注目されたのが、塩害対策のための堤防修復等、脆弱な沿岸地域を支援しているセネガルのケースである。適応基金によるインダイレクト・アクセスの初めてのケースだからである。セネガルのNGOは、事業の効果継続のための現地オーナーシップ醸成の必要性等の課題は見られるものの、住民の稲作が可能になった等の成果がみられ、セネガルのケースは成功事例であることを強調した。

次に、ニカラグアの洪水や干ばつ対策のための事業を紹介する(国連開発計画(UNDP)によるダイレクト・アクセス)。これに関し、現地のNGOは、事業によって国家・地方政府間の調査が図られ、水文学的調査も実施され、成果が出てきていると説明した。一方で、気候変動や適応に関する住民の理解不足、行政側(環境省)に事業実施に対する意思がなかった事、情報公開が不十分であったこと等の課題も指摘された。またNGOは、国家レベルで適応問題について議論する場所がないため、その議論の場としての「国家気候変動委員会」の設立が必要であると、会場に参加していたニカラグアの環境省職員に対して直接メッセージを投げかけた場面もみられた。

ホンジュラスの事例で印象的だったのは、案件に住民移転のパイロット事業を含めている点である。事業は今後実施される予定だが、住民移転は、特に農業や漁業等の自然資源に生計手段を依存している途上国の住民にとっては、その生計手段の喪失にもつながるリスクがあること等から、過去何十年にも渡り、開発事業の実施において非常に大きな課題として認識されてきた。ホンジュラスをはじめ今後適応事業が住民移転を伴う場合、移転後の住民の生活も考慮した適切な対策が必要になるだろう。

適応基金の資金源多様化
また、各発表者が共通してあげていた課題の一つに、今後の資金額の増大がある。適応基金は小規模の支援を実施しており、そのインパクトが地域に限定されることが多いため、同種の事業の他地域での実施や、より大規模の適応対策実施のための資金規模の拡大が求められた。この適応基金の資金問題については、適応基金自身によるサイドイベントでも発表があった。適応基金はその収入をCDMの収入の2%、また各国政府の拠出に依存してきたが、サイドイベントでは、新たな資金獲得策としてUNFCCCへのCER売却(*3) と適応基金のホームページ上での個人寄付受付け(*4)の開始について説明があった。

適応基金の資金源獲得の強化策については、COP18 でも議論され、その結果従来の資金源に加え、初期割当量(AAU)の国際移転(初回移転時のみ適用)、共同実施(JI)によるクレジット(ERU)発行収入の2%についても、適応基金の財源とすることが決定した(FCCC/KP/CMP/2012/L.9)。2008~12年のCERとERUの発行実績を比較すると、CER の約10億t-CO2-eq(*5)に対しERUは約2.6億t-CO2-eq(*6)と、ERUはCDMの約4分の1の規模である。またAAUについては、2008~11年の間に約8.6億t-CO2-eqが国際移転されておりCERの年間発行量とほぼ同量の発行量である。従って過去の傾向を踏まえれば、適応基金にはこれまでのCER収入のおよそ2倍強の資金がクレジット収入として予測される。ただし、第二約束期間では日本、カナダ、ニュージーランド、ロシアの4カ国が参加せず、京都議定書の下でのクレジット市場の全体規模が小さくなるため、実際にはこれよりも少額となるだろう。

今後の適応支援に向けて
本稿では適応基金に焦点をあてて論じたが、適応支援を実施しているのは適応基金だけではない。適応分野については、特別気候変動基金(SCCF)、後発開発途上国基金(LDCF)、気候投資基金(CIF)等の既存基金が既に支援を実施している。そして、2020年までに先進国が動員する事になっている年間約1,000億ドルの大部分を担うことになるGCFも適応支援を実施する。また、世界銀行(*7) 等の開発目的に設立された国際機関や、日本の国際協力機構(JICA)等各国の二国間援助機関も適応支援を実施している。このような適応関連の基金の状態は管理費用の重複を意味するため、特に国際機関については、基金の整理統合に関する議論も必要ではないだろうか。余計な管理費用を省き、その分適応対策のために資金を充当すべきであることは論を俟たない。

最後に、COP18では、NGOによる適応基金の効果に関する発表はあったものの、交渉では、むしろ先進国も途上国も資金を巡る「額」の議論に注目が集まった。適応策を取るためには、確かに額も重要である。しかし、その効果についてはあまりにも議論されていない。適応の効果測定は、開発事業による効果との関係性を整理する必要がある等、その評価方法の確立には相当の議論を要すると思われるが、今後は効果についても議論されるべきではないだろうか。
*1: 第16回適応基金理事会の議事要旨
*2: German Watchは、適応基金の事業プロセスにおけるステークホルダーの参加の確保、適応関連資金の監視、途上国NGOの能力構築の実施を目的に掲げ、今から約2年前に適応基金に関与するNGOネットワークを立ち上げた。
*3: 適応基金によれば、COP18の開催によって排出されるGHGをオフセットとして、6,000トンのCERをUNFCCC事務局に販売するもので、販売価格は1.05ユーロ/トンである。また、1ユーロあたり107.11円(2012年12月1日時点での為替レート)であるため、計6,300ユーロ(約67万円)と小額である。このようなUNFCCCへの販売は例外的に今回限りの手段としつつも、適応基金理事会の意向によっては、今後も実施するとのことである。
*4: United Nations Foundation
http://www.unfoundation.org/how-to-help/donate/adaptation-fund.html
*5: IGES. ‘IGES CDM モニタリング・発行データベース’
*6: UNFCCC. 2012. ‘Annual report of the Joint Implementation Supervisory Committee to the Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Kyoto Protocol’
http://unfccc.int/resource/docs/2012/cmp8/eng/04.pdf
*7: 2012年度、世界銀行は適応に対し46億ドルの支援を実施した。
http://climatechange.worldbank.org/


*** このコメンタリーの内容は執筆者の見解であり、IGES の見解を述べたものではありません。

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