来る南アフリカ・ダーバンでの国連気候変動枠組条約締約国会議(COP17)においては、京都議定書後のメカニズムに、一つでも多くの国が参加し、法的拘束力を持った合意がなされることが期待されています。この度、国際環境開発研究所(IIED)気候変動グループのシニア・フェロー、サリームル・ハック氏に気候変動に関する数々の疑問に答えていただきました。ハック氏は、今まで気候変動枠組条約において後発開発途上国(LDC)の交渉能力や取り組みを指導してきました。また、2011年10月27日から28日までタイのバンコックで開催されるアジア太平洋気候変動適応フォーラムにおいても、中心的な役割を果たす一人です。
サリームル・ハック
1980年代半ばにバングラデシュ高等研究センター(BCAS)を設立し、代表を務める。2001年に国際環境開発研究所(IIED http://www.iied.org/)に入所。IPCCの第4次評価報告書の適応と緩和チャプターの主著者。現在、バングラデシュ独立大学で国際気候変動開発センターの設置準備に携わる。センターは、IIED、独立大学(IUB)、バングラデシュ高等研究センター(BCAS)の合弁組織で、発展途上国における気候変動と開発における専門的なトレーニングを行う。

アジア太平洋気候変動適応フォーラム2011
(2011年10月27-28日タイ・バンコク)
asian forum

2011年10月

COP17にむけて
- 共通だが差異ある責任-


サリームル・ハック
国際環境開発研究所
気候変動グループ、シニアフェロー

京都議定書後のシナリオ

---気候変動の専門家の間では、京都議定書後のシナリオが話題になっています。ハック氏にとって次のCOP17(南アフリカ・ダーバン)では、どのような目標に優先順位を置きますか?

ハック:
まず、COP17では、京都議定書の付属書B国(*1)に挙がっている先進諸国が、2013年以降の第2約束期間において、温室効果ガス排出量の数量的削減を約束することを期待します。しかしアメリカの国内政治の現状を考えると、たとえオバマ政権が、合意実施に踏み切ろうとしても米国議会がまず承認しないと考えられるため期待はできません。そのため別のシナリオとして、「中国、インド、ブラジルや南アフリカが、2015年頃に長期的協力行動(Long term Cooperative Action:以下LCA)トラックでの交渉を終了した後、現在の付属書B国が法的拘束力のある合意に参加するための『マンデート(権限)』あるいは『ロードマップ(道筋)』を規定した第2約束期間に合意する」といったものが考えられます。


気候変動と適応

--- 温室効果ガスの排出削減対策のひとつとして「適応策(Adaptation)」が注目されていますが、「適応策」からどのような効果が期待できるのでしょうか。

ハック:
COP16の大きな突破口のひとつが「カンクン適応枠組み」の設立に関する合意でした。COP17では「適応委員会」の創設やマンデート(権限)の設定、COP16で合意された国別適応計画(National Adaptation Plans "NAPs")の実施詳細、委員会やNAPsへの資金捻出等、カンクン適応枠組みの運営上の詳細を協議します。

温室効果ガス削減

--- 2050年までに温室効果ガス排出量を80%削減するため、ご自身が日頃心がけていらっしゃることがありますか。

ハック:
個人的にも、また私の所属するIIEDでもカーボンフットプリント を減らす努力を行っています。私たちがカーボンフットプリント(*2)を最も減らせる方法は飛行機の利用を減らすことなので、仕事でも私用でもなるべく控えるようにしています。


COP17に向けてのメッセージ

--- アジア太平洋地域での気候変動問題への取り組みに対し、メッセージをお願いします。

ハック:
アジア太平洋地域は地理的に最大の地域ですが、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)において、地域ブロックとしてのまとまった交渉を行っていません。また、この地域には、日本のような先進国から中国やインドといった主要途上国、そして気候変動に脆弱な小島嶼国や後発開発途上国も含まれています。多くのアジア太平洋諸国では重要な気候変動緩和策や適応策を国内的に実施しています。その気になれば自国の対策を他の国に示すことによって、より積極的な対策を促すこともできます。

昨年のCOP16では適応策、森林減少・劣化による排出削減(REDD)、技術移転、財源確保(3年間で300億ドルのファスト・スタート・ファイナンスや2020年から毎年1,000億ドルのグリーンファンドなど)の分野で、部分的にせよかなりの成果が出たと私は考えています。COP17では各分野における決定事項を確固たるものにし運用面を検討する必要があります。それによって各国で速やかな行動をとれるようになるのです。

京都議定書トラック(*3)での先進国、またLCAトラック(*4)での主要途上国とアメリカによる緩和対策の目標値はしかしながら出ていません。けれども国内の対策を「途上国における適切な緩和行動」(NAMAs)を通じて進めるという点で、アメリカとその他の国が合意できたのは進展といえます。COP17での課題は、これらのアクションを法的拘束力のある合意にまとめることです。その際、その合意が、京都議定書の一部だとしても、新たな議定書を制定するとしても、或いはふたつの議定書を組み合わせることになっても構わないと思っています。このような合意が達成できれば気候変動枠組条約の構造は存続し、前進し続けることができます。一方で、COP16での合意が部分的であったことによる問題は、世界規模で努力しても気温の上昇が合意目標値の摂氏2℃を上回る4℃近くになってしまうことです。しかしその結果、より大きな努力を求める運動が将来的に起きる可能性があります。

最後に、気候変動枠組条約の原則の「共通だが差異ある責任」のうち「差異」よりも「共通」の部分にすべての国が目を向けるべき時代が到来したと私は感じています。私たちがこれを達成できなければ、数十年先には、世界中の人々が人為的な気候変動がもたらす悲惨な影響と直面しなければならなくなるでしょう。


--- ありがとうございました。


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*1:付属書B:京都議定書の付属書の一つ。締約国およびその排出削減数値目標のリストを掲げる。ここに掲げられている国を付属書B国という場合もある。付属書B国は、京都議定書の付属書Bに記載された排出削減を数量的に約束している国。
*2:カーボンフットプリント:個人や団体、企業などが生活・活動していく上で排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの出所を調べて把握すること。炭素の足跡。
*3:京都議定書トラック:京都議定書のもとでの付属書I国(先進国)の更なる約束に関する作業部会
*4:LCAトラック: 長期的協力行動に関する作業部会





「Monthly Asian Focus: 持続可能なアジアへの視点」について

IGESでは、1998年の設立以来、アジア太平洋地域における環境問題や環境政策の動向をとりまとめた「アジアの環境重大ニュース」を毎年末に発表してきました。2011年からは、“持続可能なアジア”をキーワードに、ダイナミックに動きつつあるアジアの環境動向を、第一線で活躍する専門家の視点・考察とともにタイムリーにお届けします。
 

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