お知らせ

COP23およびCMA1-2に向けた提言を発表

2017年10月30日

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)は、1998 年以来、アジア太平洋地域における持続可能な開発の実現に向けた実践的な研究を行っている。中でも、気候変動分野に関しては、国際枠組みや低炭素社会づくりに向けた国際・国内動向の調査と研究を進め、それをベースにした政策や制度設計に関する提言を行ってきた。11月6日から17日に国連気候変動枠組条約第23回締約国会合(COP23)及びパリ協定第1回締約国会合の再開会合(CMA1-2)等が開催され、パリ協定を実施していく上での指針(いわゆる「パリ協定ルールブック」)策定についての国際交渉が行われる。パリ協定を実効性あるものとするためには、このルールブックの内容が非常に重要となることから、IGES の研究活動及び成果に基づく、パリ協定のルールブック策定に向けた政策提言を行う。また、COP23において主要なステークホールダーと連携したメッセージの発信も予定しており、それについても併せて紹介する。

1.パリ協定ルールブック策定に向けた提言

2015年12月のCOP21でパリ協定が採択され、翌年11月に発効したことを受け、気候変動交渉の焦点は同協定の「ルールブック」策定に移った。パリ協定は、産業革命前からの気温上昇を「2℃を十分に下回る」ように抑え、「1.5℃以下とする努力を追求する」という長期気温目標を設定しているが、現在、各国がパリ協定の下で提出している国別削減目標を合計しても、2℃目標実現には及ばない。そのため、パリ協定は、今後、各国の取り組みを継続的に更新・強化していくプロセスを組み込んでおり、そのプロセスを実施していく上で必要となる細則を、2018年のCOP24までに策定することを目指している。この意味において、このルールブックのあり方は、パリ協定の実効性を左右するものと言える。
ルールブックに含まれるものは、国別目標の内容、透明性枠組み、市場メカニズムの活用、アカウンティングのあり方、気候変動への適応に関する取り組み、支援のための資金の報告、世界全体の進捗状況の検討方法(グローバル・ストックテイク)等、多岐にわたる。ここでは特に、排出削減の取り組み強化の観点から、透明性枠組み、市場メカニズムの活用、グローバル・ストックテイクの手順についての提言を行う。

〔1〕透明性枠組み

パリ協定第13条に規定された透明性枠組みは、各国が温室効果ガスの排出量(インベントリー)や削減目標の進捗に関する情報を定期的に報告することによって、相互の信用・信頼を構築し、より意欲的、効果的な削減を促進する仕組みであると言える。ただし、パリ協定の透明性枠組みの大きな特徴としては、一つには排出削減のみならず適応、さらには資金、技術移転、能力構築といった広範な情報の報告が対象となっていること、また二つにはこれまで同様の制度で設けられていた途上国と先進国の取扱いの差が基本的に無いことがあげられる。こうしたことから透明性枠組みのルールブック作成について合意を引き出していくためには、排出削減のみならず適応など他の気候変動対策のための活動の報告を含め全体の「バランス」を取りつつ、また能力の異なる様々な国の状況を配慮した「実行可能」な内容としていくことが不可欠である。
日本は、長年、IGESに国別インベントリー作成に関するIPCCの技術支援ユニットをおき、各国共通のインベントリーの作成を国際的にリードしてきた。このことは、国際的にも高く評価されている。また、国立環境研究所とIGESは、特にアジア地域の途上国を対象にインベントリー作成のための能力構築や気候変動対策全般の情報共有の支援を行ってきた。日本は、こうした実績や経験をもとに、「バランス」と「実行可能性」を意識して、透明性に関する議論をリードしていくことが重要である。 また、IGESで途上国のインベントリーの作成能力の推移を可視化する分析を行った結果、一定の質を保ちつつ定期的に報告を行っていくためには、気候変動に限定しない様々な統計データの収集・管理能力や多様な分野の専門家が鍵となることがわかってきている*。そこでは、以下のような指摘を行っている。まず、長期的な視点から見ると、単に報告書の作成方法に関する能力構築ではなく、人の健康、大気汚染、森林保全といった様々な環境問題への対処能力の向上が必要である。また、支援を必要とする国々に適切な支援を行うためには、途上国の能力の状況を定期的に把握することが重要であり、そのためには、技術専門家による報告書の審査の過程を活用するのが有用である。こうした分析を活用することによって、途上国支援の具体像を示しながら、透明性枠組みのルールブック作成が促進されることを期待する。
なお、IGESでは、この透明性枠組みが実際の削減対策の促進に寄与するようにするための具体的なツールや方法を検討中であり、これらにより透明性枠組みのルールブック策定に有用な貢献ができればと考えている。
*Umemiya, C. et al. (2017) “National greenhouse gas inventory capacity: An assessment of Asian developing countries”. Environmental Science and Policy, 78: 66-73.

〔2〕市場メカニズムの活用

世界全体の排出削減に向けて、クレジット制度を含む市場メカニズムを活用した低炭素技術の普及への期待は高く、パリ協定第6条において新たなクレジット制度やクレジットのアカウンティングルール作りが議論されているところである。日本はパリ協定の採択に先んじて二国間クレジット制度(JCM)を開発・実施してきており、そのパートナー国は世界の17カ国まで広がり、排出削減プロジェクトは100件を超えるまで成果をあげてきている。ここに至るまでに、パートナー国との協働を通じて、排出削減量の計算手法を含む環境十全性の確保、持続可能な開発の促進、クレジット発生や移転の確実な記録のための登録簿の構築、パートナー国の能力構築、プロジェクト実施による技術移転等、まさにパリ協定第6条のルールブック作成において論点となっていることについて、先行的に取組み、現実として動かしてきた経験を有している。したがって、こうしたJCMに基づく具体の経験を踏まえて、パリ協定のルールブックが現実の取組みを促進できるような内容となるよう積極的な提案を行っていくべきである。
また、パリ協定第6条において重要な論点となっているダブルカウント防止については、一般論ではなく、具体的なオプションを示して、その防止策を議論し合意していくべきである。この点を踏まえ、今後の締約国間での議論に寄与するため、IGESでは、すでにパリ協定第6条の下でのアカウンティングのガイダンスに関する提案**を公表している。その中で、ダブルカウント防止のためには、クレジットの移転国がその分を実排出量に上乗せするアカウンティング手法を基本として、単年の排出削減目標を有している国が、複数年にわたって移転・獲得したクレジットをどう計上するのかについて、様々なケースを想定して具体的なオプションを提示している。

** Proposal for Guidance on robust accounting under Article 6 of the Paris Agreement,

〔3〕グローバル・ストックテイク

グローバル・ストックテイクは、パリ協定の目的・長期目標に向けた全体としての進捗状況を評価するために、協定の実施状況を検討するプロセスであり、2023年以降、5年に一回実施される。そして、その成果は、各国が取り組みを更新・強化する際の情報となる。そのため、グローバル・ストックテイクの実施手順(全体構成、実施スケジュール、成果物)については、最新の科学的知見を反映していること、そして、各国の取り組み強化につながることの2点を念頭に制度設計を行う必要がある。IGESでは、すでにグローバル・ストックテイクの実施手順案についてUNFCCC事務局に提案***を提出している。以下にその概要を紹介する。

全体構成:グローバル・ストックテイクは、技術的及び政治的な二つのプロセスから構成されるべきである。技術プロセスは、進捗状況に関する科学的、技術的な理解の向上を目的とするものであり、科学技術に通ずる専門家と政府交渉団との間の具体的な対話を促進し、技術報告書を作成する。政治プロセスの目的は、政治的な機運や関与を高め、締約国の行動の強化につなげることである。COPで個別議題を議論するためのコンタクト・グループは、技術プロセスへのガイダンスを与え、政治プロセスにおいてCOP全体会合への報告を行う。

実施スケジュール:プロセス全体の効率性への配慮は必要であるが、重要な情報が十分に検討される時間を確保することは、締約国の理解向上と共に参加者意識を高める上で重要である。また、IPCCの評価報告書の発表にあわせて、グローバル・ストックテイクの専門家ダイアログを開始することで、最新の科学的知見を反映することができる。2023年に予定されている第一回グローバル・ストックテイクは、IPCCの第6次評価報告書が発表される2021年にそのプロセスを開始するべきである。第二回以降のグローバル・ストックテイクについては、各サイクルが終了する少なくとも1年前にプロセスを開始することが望ましい。これは、IPCC評価報告書など重要な情報がいつ利用可能になるかにより、適切に変更することが重要。

成果物:成果物とは、各回の専門家対話の結果をとりまとめた技術報告書を統合する形で作成される最終技術報告書である。最終報告書は、各締約国のさらなる取り組み強化に資するために、全体としての実施の進捗状況の評価結果のみならず、個々の行動の優良事例なども含むべきである。この最終報告書をベースにハイレベル会合の政治宣言が作成される。また、最終報告書を勘案し、各国にさらなる取り組み強化を奨励するCMA決定もグローバル・ストックテイクの重要な成果となる。

*** IGES Submission to the UNFCCC on the global stocktake for COP23
2.COP23における各ステークホールダーとの連携・情報発信等

(1)都市によるイニシアティブ

  • 温室効果ガスの排出削減を行う上で、各国の都市が先進的な取り組みを実践していくことは、極めて重要である。これを踏まえ、IGESでは、これまで約10年に亘り実施してきた「アジア低炭素都市の連携」に関する成果報告を、サイドイベントとして予定している。具体的には、スマラン市やプノンペン都での低炭素シナリオの開発や富山市とスマラン市の都市連携の進展などを報告する。また、併せて、「日中韓脱炭素都市研究プロジェクト」の立上げも予定している。
  • これらの機会を通じ、AIMモデルを適用した低炭素都市計画策定から、JCM等による現場での支援、東京都が導入した建築物GHG排出量報告書制度などの排出削減を確かにする仕組みの移転が重要であるというメッセージを国際的に発信し、環境省が掲げる環境インフラ展開に貢献しうる一つの具体的な姿を提示する。
*Semarang Buppeda et al.(2017)“Low Carbon Society Scenario toward 2030”(HPで公開予定)

(2)大気汚染と気候変動

  • PM2.5 などによる大気汚染は、多くの健康被害を起こし、事態は途上国でますます深刻となっている。特にアジアにおいては、中国やインドなどで緊急の対応が求められている。これらを踏まえ、今年12月ナイロビで開催予定のUNEA 3においては、「Pollution Free Planet」を主要テーマに議論が行われる予定である。
  • これに先立ち、IGESはCOP23において「アジアの大気汚染と気候変動統合政策」と題したサイドイベントを開催し、アジアにおける 大気汚染と気候変動の統合的対策の重要性を指摘する。アジアにおいてこの二つの深刻な環境問題を同時に解決することが可能であることをふまえ、世界の研究者や国際機関は、各国政府に対しこの統合アプローチに基づき、問題の改善に取り組むよう呼びかけてきた。すでにこれに応える政策を実施し始めた国もあるものの、政策決定者には更に取りうる多くの選択肢がある。このセッションでは、アジアの政策決定において大気汚染と気候変動の統合に何が必要であるかを議論する。本セッションを通した主な指摘・提言は以下のとおりである。
    • ① 各政府機関、援助機関、及び専門家が、セクターを越えて課題に取り組むためのコーディネーションの重要性
    • ② 対策を講ずるにあたり、日常生活の中で、調理用ストーブ使用など大気汚染を引き起こし、またその被害に苦しむ地方のコミュニティの参加の重要性
    • ③ 各国の削減目標(NDCs)に含まれる大気汚染と気候変動を統合した政策の重要性
    • ④ 従来の汚染源に加え、施肥、化学溶剤など、近年明らかとなった新たな大気汚染源への対策の必要性
*Zusman et al.(2017). “Recognizing and Rewarding Urban Co-benefits”Urbanization and Climate Co-benefits. pp.221-234
*Elder and Zusman.(2016) “Strengthening the Linkages Between Air Pollution and the Sustainable Development Goals” IGES Policy Brief.

(3)NDCとSDGs のシナジー

  • パリ協定に基づいて温暖化対策を推進し、低炭素、脱炭素社会への移行を確実なものとするには、長期的な目標と短・中期の具体的な政策目標とのリンクが重要である。多くの国では2025年あるいは2030年を対象としてNDCを掲げその実行に向けて活動を開始している。また、2050年の長期目標を掲げている国においては目標の実現を検討する複数のシナリオが開発されている。
  • 国連では、2015年に「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択された。気候変動対策はSDGsの重要な項目の一つであり、他のSDGsとも密接に関係しているため、SDGsの目標達成のための行動は気候変動対策に大きく寄与する。
  • その為には、NDCとSDGsの相乗効果を最大化し、トレードオフを最小化することは重要であり、その観点から、IGESでは、NDCの分野別の対策とSDGsとの関連を調べ、協働・相乗効果や対立点などを整理した。そのベースとして、NDC達成のための具体的な気候変動対策を分野別に取り上げ、それらの対策が達成される見込みを分類整理した。さらに、これまで実施されてきた気候変動対策に関するグッド・プラクティスを収集整理した*。
  • これらの結果は、低炭素社会国際研究ネットワーク(LCS-RNet)に参加する欧州および日本の 研究機関が開催する「NDCとSDGsとのリンケージ - シナジーとトレードオフ(Linkage between NDC and SDGs – synergies and trade-offs)」と題するサイドイベントで発表し、国際 的な発信を行う予定である。これらが、昨年の伊勢志摩サミットで合資した、2020年に十分先立った長期温室効果ガス低排出発展戦略の策定に、寄与することを期待・要望する。

*COP23に向けた調査成果冊子「Climate Actions and Interactions with SDGs」(2017)
なお、本冊子は、今年度環境省事業「国際低炭素社会推進研究調査等委託業務」の一環として作成したもの。

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