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企業による気候変動に関する情報開示は持続可能な開発目標(SDGs)の達成に寄与するか? ~「気候関連の財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)による提言報告書」のインパクトについて~

2016年12月19日

1. はじめに

2016年12月14日、「気候関連の財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)による提言報告書(TCFDのウェブサイトへリンク)」が発表された。同時に60日間のパブリックコンサルテーション期間が設けられている。その後、TCFDによる最終報告書は主要国の金融当局等から構成される金融安定理事会(FSB)に提出され、最終的にG20においてどのように対応するかについて検討が行われる予定である。

この報告書が出された意味は大きい。それは金融当局が気候変動を重要なリスクとして認識しトップダウンで検討を進めていることもあり、投資家や金融関連機関への強いメッセージとなりうるからである。そして、このような情報開示は投資家や金融関連機関が気候変動リスクを回避するとともに、気候変動対策の投資機会に注力する方向に行動を変化させていく契機となりうる。これがひいては投融資等を受ける企業の経営戦略等にも大きな影響を及ぼしうる。

以下では、この企業の気候関連財務情報開示にかかる背景、概要を踏まえ、これがSDGsへの資金動員につながっていく可能性について若干の考察を行った。尚、TCFDによる提言報告書の概要は別添に掲載した。

2. TCFDによる提言の背景

2008年のリーマンショックを受け、G20参加国の中銀、財務官庁、金融規制当局によるFSBが設置され、国際金融システムのモニタリング等が行われることになった。

2011年、当時カナダの中銀総裁であったマーク・カーニー氏がFSB委員長に選出された(2013年同氏がイングランド銀行総裁に転じた際もFSB委員長にとどまった)。マーク・カーニー総裁率いるイングランド銀行は、先のサブプライム危機において銀行や投資家が資産を過大評価したことが原因であったことを踏まえ、現在の銀行や投資家は今後座礁資産化しかねない石炭等の化石燃料関連資産を過大評価しているのではないか、そして将来金融危機を招く可能性があるのではないかと懸念した 。(*1)。

カーニー氏は、気候変動が財務に与えるリスクとして、「移行リスク(炭素排出規制強化、技術開発、需給変化等)」「物理リスク(災害等による資産損失・減価等)」「賠償リスク(気候変動を理由とした賠償請求等)」を挙げている。

このような背景のもと、突然の金融危機を招かないようにリスク管理を行うためには気候関連の財務情報開示が不可欠であることから、2015年12月にパリで開催されたCOP21期間中にFSBのもとにTCFDが設置された。TCFDのメンバーは、機関投資家、アセットマネージャー、証券取引関係者、監査法人等から32人の金融業界関係者によって構成されている。

3. 企業の気候関連財務情報開示はSDGs投資拡大につながっていくのか?

その理由について簡潔に2点述べたい。第1点は、本提言報告書の内容に気候関連リスクとあわせ「機会」に関する情報開示も求めていること。第2点は、情報開示では現在の気候関連リスクがどうかということにとどまらず、むしろ、将来の想定される状況を踏まえてそれがビジネスの戦略や財務計画等にどのような影響を及ぼしうるかという「シナリオ分析」についての情報開示に力点が置かれていること、である。

(1)「機会」に関する情報開示

第1点目の「機会」には「低炭素」や「レジリエンス(強靭性)」等に向けてのビジネスチャンスが含まれる。投資家や金融関連機関がこの部分の関心を持てばそこに資金が流れる可能性がある。本報告書の中でいくつかの事例が記載されている。例えば、「資源の効率性」という項目では、より効率的な輸送システム、節水システム、ビル建築システムなどが挙げられている。その潜在的財務的インパクトとして生産性の向上、運営管理費の低減、労働環境の改善にともなう財務的ベネフィットなどに触れている。

「レジリエンス」という項目では、事業を行う場所が気象災害によって影響を受けうると想定した場合、より 被害を最小化するという観点から、代替となる再生可能エネルギーや省エネの対策、生産資源の代替化、資産の付保化が挙げられている。その潜在的財務インパクトとしてレジリエンス導入による市場の評価向上、サプライチェーンの信頼性の向上にともなうコスト低減、レジリエンスに関連する新たな製品やサービスによる収入増などに触れている。

このような「低炭素」「レジリエンス」に関連する投資が増加することは、すなわち、SDGs実施の資金動員にもなると見ることができる。もちろん、「機会」に関する情報開示が進められることで自動的にこれに投資家等が注目し投資が増えるという流れができるわけではないであろう。情報開示が進めば「機会」に関する情報の量と質が高まり、投資家等の注目度がより高まる ことは想定可能であるが、そこから実際の投資判断に至るには何らかの動機付けや仕組みが必要となろう。更に検討を行いたいと考える部分である。

(2)経営戦略とのリンケージ

第2点目の「シナリオ分析」については、報告書の中で章を別立てにして記載されており、その重要性が強調されている。同分析では、気候変動に関連する様々な状況を想定し、将来のビジネス戦略、バリューチェーン、資本投下、R&D予算配分、財務計画等への影響がどういうものかを明確にし、その情報開示が求められている。

その際にどのようなシナリオを描くかという点も重要である。例えば、生産型企業の場合、企業内でカーボン・プライスが導入される、他社で革新的な高効率技術の導入がされる、あるいは生産拠点が異常洪水で操業停止する、異常渇水で生産が低下するといった状況など である。また、それがどのタイミングで発生するかなど前提条件もあわせて情報開示が求められる。

このような分析は、まさに経営そのものに関わるといえる。シナリオ分析によって当該企業は気候変動のリスクと機会が経営のなかにどのように現れてくるのかを可視化できるとともに、経営陣にその情報がインプットされることで、経営層が気候変動、ひいては持続可能な開発に対してより意識を高める契機となりうる。

現在でも、企業においては例えばCSR報告書などで温暖化対策、環境対策、社会貢献等に関するかなりの情報が開示されている。しかし、これらの情報がどのように企業財務とリンクしているかを理解することは外部のものには難しい面がある。また、多くの場合、当該企業が現在取り組んでいることが中心となっており、将来のビジョンや経営戦略のなかで語られているケースは限られているといわれる。

このような状況において、シナリオ分析を踏まえた気候関連財務情報を開示することは、将来の企業戦略のなかに気候変動、ひいては持続可能な開発の側面を取り込み、経営層のコミットメントを高める方向に変化させる可能性がある。

  • 脚注

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