SDGs Updates

企業報告書から見るSDGs活用の現状と課題~SDGコンパスを主軸に

2016年11月21日

forest 2015年の持続可能な開発目標(SDGs)の採択から約1年が経過し、また、今年3月には、国連グローバル・コンパクト(UNGC)等による「SDGコンパス:SDGsの企業行動指針-SDGsを企業はどう活用するか-」(日本語版)が、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)/IGESの共同翻訳を通じて発表された。こうした背景の下で、特に国内外のUNGC/GCNJ加盟企業を中心としてSDGsへの取り組みが加速されており、企業によってはSDGsの経営への統合を図っている動きも見られている。しかし、企業のこうした取り組みは、社内でどのような議論やプロセスを経て、どの程度まで進んできているのだろうか。海外では既にUNGCや持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)を中心に、企業の取り組み事例を示すポータルサイトの運営など、事例の共有が始まっている。日本でもSDGsをいち早く取り入れたことを発表した一部企業による先進事例の共有も始まっているが、未だ少数にとどまっている。

そこで、今般、各企業のCSR/サステナビリティ報告書も出揃ったところ、IGESは、これらの報告書をもとに現状の整理を試みた。その際、特に、今年は去年に比べてどの程度SDGsへの言及が増えたか、また、SDGコンパスの提唱する5つのステップ(以下、参照)がどこまで実施されているか、といった点に問題意識を置いた。

  1. SDGコンパスにおける5つのステップ(ポイント)
  2. 【ステップ1】
  3. 企業がSDGs を利用することでいかなる効果が期待できるかを理解する(例えば、市場の規模、従業員の質、資源の確保、規範意識の向上等)。
  4. 【ステップ2】
  5. 各企業が自社のバリューチェーン全体を考慮しつつ、17のSDGs全体の中で優先課題を決定する。
  6. 【ステップ3】
  7. 計測可能で期限付きの持続可能な目標を、アウトサイド・インのアプローチから設定する。
  8. 【ステップ4】
  9. 持続可能な目標について事業部門を含めた組織内全体への定着を図る。
  10. 【ステップ5】
  11. SDGsに関する進捗状況を定期的に報告しコミュニケーションを深める。
SDGsへの言及は顕著に増加、但し、CSR報告書に概ね留まる

WBCSDの最新報告書によれば、加盟企業のCSR報告書(統合報告書含む)において163社中54社がSDGsに言及していると発表した (*1)。では、日本企業は現在どの程度SDGsに関心を示しているのだろうか。日本企業の時価総額上位100社のCSR報告書(統合報告書含む)におけるSDGsの言及状況に関する最新調査 (*2) によると、100社中38社がSDGsに言及していることが明らかになった。これは、日本企業のSDGsに対する関心度はWBCSD加盟企業と同程度の水準に達していると見られるものの、未だ十分と言える状況ではない。

では、SDGs策定年である2015年から1年が経ち、どの程度SDGsへの言及は増加したのだろうか。そこで、SDGsに先進的に取り組んでいるとしばしば紹介されている国内企業数社の年次報告者及びCSR/サステナビリティレポート(以下、まとめて「報告書」)でSDGsのキーワード検索を試みたところ、2015年報告書でのSDGsへの言及は圧倒的に少なかった(ほぼゼロに近い)が、2016年報告書ではその記述が顕著に増加していることがわかった。特に、CSR/サステナビリティレポートにおけるSDGsへの言及回数の増加は著しく、30回以上言及されている企業もあった。一方で、同年次報告書においては、言及の回数は増えているものの、主に冒頭挨拶およびCSR紹介の箇所での言及に留まっている。

限りはあるも、多岐にわたるSDGsへの取り組みの形

それでは、SDGsへの言及が多かった企業は、17にも亘る広範な目標をどのように自社の活動に結び付けていこうとしているのか、いくつか先進的な事例を見てみよう。たとえば、企業A(保険)は、SDGコンパスの5つのステップに基づき、SDGsを用いたバリューチェーンのマッピングやマテリアリティ分析、さらにKPIの設定を実施している (*3)。企業B(商社)は、既存事業をSDGsと照らし合わせることで、効果的にSDGsに関連したレポーティングを実施している。また、SDGsの計17目標の中から、関連グループ毎の重要課題やそれに対応したSDGsを選択・設定している (*3)。

SDGコンパスに照らし合わせてみると、ステップ1については、実施途上ないしは実施済みである企業が多いが、ステップ2以降については、各社の取り入れ状況に差異が見られた。報告書を見る限り、ステップ2「優先課題を決定する」を実施している企業は多数あるが、例えば、社内でどのような議論を行った結果なのか(バリューチェーンのマッピング等)については、明らかでない場合が多い。ステップ3以降については、ステップ2で選定した優先課題でSDGsに付随する169のターゲットを参考にしてKPIを設定した例がごく少数見られるものの (*3)、それ以外については明示的な記載はなかった。また、ステップ4でパートナーシップに取り組んでいることを明記している企業も少数見られたが、SDGsをきっかけに新たなパートナー事業に取り組むというよりは、むしろ既存事業で取り組み中であるものへの言及が多く見られた。即ち、既存目標や既存事業をSDGsの枠組みに当てはめて優先課題や指標を同定していることが多いのではないかとの印象を得た。

「先進企業」を後押しする多様なステークホルダーとの連携

では、各社報告書におけるSDGsへの言及には大きな差が見られたものの、SDGsへの取り組みを積極的に取り入れている企業に共通する点は何か。その要因の一つとして、国際機関・NGO/NPOネットワークなどの多様なステークホルダーとの連携が大きいと考えられないだろうか。例えば、UNDP(国連開発計画)のBusiness Call to Actionプロジェクトに参加している企業、UNGCやWBCSDに参加している企業などは、2016年の年次報告書やCSRレポートにおいて、SDGsへの言及を大幅に増加させている。こうしたビジネス以外のステークホルダーやあらゆるステークホルダーを繋ぐようなネットワークに参画することで、各社単独ではなく、より広範かつ多様な意見や視点を取り入れることが可能となり、SDGsへの取り組みが後押しされているものと考えられる。

次のステップへ、CSR報告書の枠を超えたレポーティング、既存目標と事業のスケールアップが鍵

今日では、国家予算をしのぐ時価総額の企業も数多く出てきており、それらの世界における影響力もますます大きくなってきている。これらの企業が優良企業であるためには、世界が直面する課題を無視して業務を続けていくことは得策ではないであろう。日本の企業も例外ではなく、世界を市場として考えるのであれば、SDGsに掲げられる世界の課題の解決に貢献していくことは、企業のブランドイメージを向上させるだけでなく、今後のビジネス機会の同定にもつながる。

その意味で、日本企業の中でも、トップマネージメントがSDGsに言及することが増えてきたのも自然な流れであると言える。多くの日本企業においてSDGsの自社方針や重要課題への導入が始まっているが、上述のSDGコンパスの活用状況を考慮に入れながら、各社が社内でどのような過程を経て現状に至っているのかについて、今後もヒアリング等を通してよく理解していきたい。因みに、一例として、企業C(化学)によれば、SDGsに対する社内での取り組みの柱としては、①経営トップの理解、②SDGsの自社なりの意義、③社員の巻き込み、の3点を考えているとのことであった。

また、各社の既存目標や事業とSDGsを照らし合わせて取り組むことがまずは第一歩であるが、その先、2030年、SDGsの達成に向けて自社の取り組みをどうスケールアップすれば、より効果的に貢献できるのかを見据えていくことが重要となる。例えば、欧米の企業では、SDGコンパスで提唱されている「アウトサイド・イン(世界的な課題解決の視点に立って何が必要かについて外部から検討し、それに基づいて目標を設定することにより、現状の達成度と求められる達成度のギャップを埋めていく)」アプローチが有用として「科学に基づくターゲット(Science-Based Targets)」を導入 (*4) する企業も増えている。

最後に、外部へのアピールという点で、SDGsに本気で取り組んでいる日本企業であっても、CSR報告書のみでの言及に留まっているのではせっかくの大事な機会を逃しているといえる。特に欧米の投資家などもESG投資等の観点からSDGsへの取り組みに注目している中、「CSR」の枠を超えたレポーティングも日本企業の本気度を示す良い機会であるかもしれない。本コメンタリーがSDGsに関わる各社の更なる取り組みに少しでも参考となれば幸いである。

  • 脚注

Go to top of page