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2012年6月アジアで始動する「水のガバナンス」

20年の時を経て、国連持続可能な開発会議(UNCSD)―リオ+20が今月開催されています。今月は、国際NGO、ETCグループのネス・ダノさんにお話をお聞きします。ダノさんは、2010年からETCグループの代表としてリオ+20の準備会合や交渉に参加し、NGOの立場から積極的に貢献してきました。またリオ+20成果文書への提言にも主導的に取り組んでいます。
ネス・ダノ
フィリピン南部・ダバオ市で活動するETCグループ(浸食・技術・集中に関する行動グループ (the Action Group on Erosion, Technology and Concentration)) プログラムマネージャー

発展途上国、特に東南アジアにおける農業、植物遺伝資源、農業生物多様性など様々な分野の詳細分析と研究発表を行なっている。ETCグループはオタワに本拠を置く国際NGOで、ノースカロライナ、メキシコシティー、ダバオ市、アディスアベバに支部を設けている。1987年にフィリピン大学で開発学の学士号、1994年に同大学院で地域開発学の修士号を取得。
関連リンク:
ETCグループ

2012年6月

リオ+20:
発展途上国と先進国の格差を埋めることはできるのか?

ETCグループ(浸食・技術・集中に関する行動グループ( the Action Group on Erosion, Technology and Concentration))
プログラムマネージャー
ネス・ダノ



背景:リオ+20をめぐる現状

ダノ:
ETCグループはこの2年間、リオ+20の準備プロセスや交渉・議論を注意深く見守ってきました。20年前の地球サミットとは異なり、リオ+20の準備プロセス期間は非常に短く、配分される経済的援助も大幅に少なくなったため、国・地方レベルから地域・国際プロセスへのインプットもはるかに限定されています。特に顕著であるのが市民社会の関与が非常に弱くなった点です。これは、非国家主体の参加を支援するサポートがほとんど得られないことが主な原因です。1992年の地球サミットと比べて、リオ+20における政府の熱意や市民社会の参加が深刻なほど欠けているのが現状です。

その理由として挙げられるのは、現在、経済や財政、燃料、食料、気候など様々な分野で世界が危機に直面していることです。これらの危機は、持続可能な開発の実現可能性において深刻な脅威となっており、本来であれば、リオ+20に切迫感をもたらすべきです。前回の地球サミットで、生物多様性、気候、砂漠化、持続可能な開発、貿易に関する多国間協定が締結されてから20年が経ちました。しかし国際社会は、持続可能な開発へのさらなるコミットメントや交渉を進める意欲を失ってしまったようで、その夢は以前にも増して一層遠のいています。1992年以後、約束されてきたことの大半が達成されておらず、地球環境はかつてなく劣悪な状態で、持てる国と持たざる国との格差も埋めがたいほど大きくなっています。ドナー国は、過去最悪とも言えるほど経済的・財政的に不安定な状態に陥っており、現時点では、政治的に拘束力のある文書に合意して発展途上国へのさらなる財政的・技術的支援を約束することは、ドナー国の最優先事項ではなくなってきています。

この2年間、リオ+20プロセスを追ってきましたが、そのスピードは極めて遅く、どのような政治的文書が採択されるのか多くの人が疑問を抱いています。しかし、今何が問題になっているのかを詳しく調べ、国連の様々な機関で長年議論されて、最終的にリオ+20の成果文書案に盛り込まれることになった様々な対立している問題を考えると、その理由や背景がわかります。一方で、「新たな」そして同じく意見が対立している問題もあります。それは「グリーン経済」、「持続可能な開発のための制度的枠組み」ですが、これらは過去数十年、様々な国の間で亀裂を生んできた問題であり、全く新しいとは言えません。これらの問題をめぐる議論の核心は、持続可能な開発において密接に関連し合う環境・経済・社会の3つの側面を、地域・国家・国際レベルでどのように具体化させるかということにあります。

ETCグループは、他の多国間プロセスも監視し、影響を与えようと努めてきました。それらの多くでは、テクノロジー、地域社会や生物多様性、環境に及ぼすテクノロジーの潜在的かつ実際に及ぼす影響について議論され、様々なことが決められています。また政府間のプロセスやフォーラムでは、生物多様性、気候変動、その他新たなテクノロジーに関する環境協定に注目してきました。ETCグループ(前身はRural Advancement Foundation International 国際農村発展基金:RAFI)は、過去30年以上、国連食糧農業機関(FAO)やその他関連のフォーラムで行われてきた植物遺伝資源、農業生物多様性、食料安全保障、そして農業に関する議論や交渉を注意深く見守ってきました。最近は、合成生物学、ナノテクノロジー、ジオ・エンジニアリング(海洋肥沃化などの地球工学)に関する多国間レベルでの取り組みにも目を光らせています。

バンダアチェ, スマトラ, インドネシア(2005年2月12日)
このような中、リオ+20に対しては現実的な目標を設定し、人間や地球にとって深刻な脅威となる新たなテクノロジーの問題に焦点を当てています。さらに、多国間レベルでの技術評価メカニズムの設置、新たなテクノロジーの潜在的影響を評価するコミュニティ・政府・国際機関の能力の向上、海洋肥沃化のモラトリアム(猶予期間)の強化と再確認、ジオ・エンジニアリングの世界的禁止といった具体的な対策も求めています。

ETCグループは、このような具体的な視点を通してリオ+20に関与し、同プロセスで提起される様々な課題に取り組んでいます。



グリーン経済に関する議論の障害

---現在進められているグリーン経済に関する議論にはどのような問題があり、どう解決することができますか?

ダノ:
グリーン経済というコンセプトには、はっきりとした定義がなく、それが何を意味するかは人それぞれです。リオ+20の交渉で進められているグリーン経済に関する議論でも、それが根本的な問題となっています。統一された定義がなく、概念が定められていない状況では、グリーン経済に関する目標達成やそのプロセスについて合意を形成するのが難しいのも当然と言えます。

明確な定義がないことが論争を生む原因となっています。それは、このグリーン経済の概念の導入の裏に何らかの思惑があるのではないかとの不信や疑念があるからです。国際的な開発の道筋を形成するために、概念やアプローチをトップダウンで導入しようとすれば、そのような反応が出ることが予想されます。特に発展途上国の政府は、開発の新たな処方箋をドナー国や国際機関から押し付けられるのではと懸念しています。グリーン経済に関して、新たな国際基準や貿易障壁が設けられ、国際市場へのアクセスが一層妨げられたり、減り続けている経済的資源を一層搾り取られて、さらなる貧困へと追いやられるのではないかと、多くの発展途上国は警戒心をあらわにしています。途上国がこの数十年間で経験してきたことを考えると、そのような疑念や懸念は全く根拠がないとは言えません。なぜなら融資や開発支援のための条件を付けられたり、環境や社会的正当化という名目で、新たな国際基準(グローバル・スタンダード)や貿易ルールが作られてきたのですから。

グリーン経済の概念について特に懸念されているのは、それが開発の新たなパラダイム(規範)を示しているという主張です。リオ+20に関する国連総会決議には、リオ+20のテーマの1つとして、持続可能な開発と貧困根絶の文脈においてグリーン経済が議論されると定められており、これは留意すべき重要な点です。グリーン経済は、それ自体が目的ではなく、これら2つの目標を達成するための手段なのです。富の分配が極めて不平等な世界で、先進国の一握りの企業が世界経済を支配している中、どうやって持続可能な開発を実現できるのでしょうか? グリーン経済の推進者でさえ、持続可能な開発と貧困根絶の中核となる公正さをどう達成するのかについて明らかにはしていません。また、グリーン経済をめぐるもう1つの批判は、自然の金融化についてです。これは、生態系や生物多様性を評価するスキームや、グリーン経済の下で推進される環境保全や気候変動対策を目的とした市場ベースのメカニズムが数多く存在することからも明らかです。これらのことは、グリーン経済が示しているとされる新たなパラダイム(規範)が、実はグリーンのラベルに隠された昔ながらの「グリード(貪欲な)経済」のパラダイムではないかとの批判につながっています。



発展途上国の声

---「グリーン経済」に関する最近の議論では、発展途上国からどのような声が上がっていますか?

ダノ:
実のところ、この2年間のリオ+20プロセスで、発展途上国からグリーン経済に関する意見が示されたことはほとんどありません。その理由は、グリーン経済という概念が、発展途上国の経験や現実から生まれたものではなく、主に先進国で形成されたものだからです。2000年代後半に起きた、財政、燃料、食料、気候をめぐる複合的かつ世界規模の危機は、グリーン経済の概念が発展した根拠と言えます。しかし、この概念のモデルとなったのは、それらの危機に対応するために先進国がとった国家政策でした。発展途上国にとっては、グリーン経済という概念に何の当事者意識も感じられず、一部の途上国は、そのような政策的処方箋を押し付けられることで、開発の余地がさらに狭められてしまうのではと懸念しています。

COP17最終日、休憩中にEUとインドが交渉
COP17最終日、休憩中にEUとインドが交渉
Photo by K.Tamura (IGES)
リオ+20の交渉におけるグリーン経済の議論の中で、発展途上国が明確に求めているのは、途上国が、多国間レベルでの圧力に屈する形で、トップダウン式に提示された開発の道筋に関する「ロードマップ」や「目標」にただ従うのではなく、それぞれの国が自らの意思で決める権利を尊重するということです。現時点で、グリーン経済に関して発展途上国が認めているのは、それが持続可能な開発を達成する1つの方法だということぐらいです。つまり持続可能な開発を実現するロードマップは、1つではないということです。また途上国は、貧困根絶と持続可能な開発を支援する目的で1992年の地球サミット時に先進国が採択した約束を果たすよう強く求めています。



リオ+20の成果

---リオ+20サミットではどのような成果を期待していますか?

ダノ:
最低限期待していること、そしてそのために現在取り組んでいるのは、まず1992年の地球サミットで採択された原則を強く再確認することで、これは持続可能な開発の実現に不可欠な要素です。そして20年前に国際社会が合意した政治的コミットメントを果たすための、明確で集団的な決意が表明されることも期待しています。一例としては、「共通だが差異ある責任(CBDR)」の実施で、これには、先進国がコミットメントを果たし、発展途上国に資金と技術の支援を行って、貧困根絶のカギとなる持続可能な開発の達成をサポートすることが含まれます。

現在、一部の先進国の間で、主要なリオ原則―CBDR、汚染者負担の原則、予防原則―を脅かす組織的な動きがあり、私たちは危機感を募らせています。気候変動の交渉でも、生物多様性の交渉でも、そのような傾向が見られています。リオ+20では、これらの原則を損ねるだけでなく、歴史のゴミ箱に捨ててしまおうというあからさまな行為も見受けられます。発展途上国が交渉の中でこれらの原則を成果文書案に盛り込もうとするたびに、一部の先進国が一貫して削除しようと働きかけるのです。他の多国間フォーラムでもこれらの原則を損ねようとする動きがあることを考えると、1992年の地球サミットで採択された原則のどの項目に対しても具体的な言及がなく、ただ曖昧な形で保証するだけでは全く安心できません。

私自身は、成果文書案から感じられるほどの楽観視はしておらず、グリーン経済に関して何らかの意義ある合意が得られるとは見ていません。リオで行われる交渉の最終段階で、グリーン経済のコンセプトやその動機、目的に関する根本的なギャップが埋まるとは思えません。このテーマに関して最大限期待できるのは、グリーン経済のような特定のアプローチだけでなく、各国の能力と実情を尊重した持続可能な開発の達成方法について全体的な合意が成立することです。

可能性として高いのは、持続可能な開発目標(SDGs)の採択に関して何らかの合意が得られることですが、リオ+20で詳細が示されることはないでしょう。恐らく、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成期間や、新たに国際的に合意された目標と既存の目標との兼ね合いを考慮しながら、一定期間内でこれらの目標に合意するプロセスが決定されると思います。国連の専門家グループが定義し、各国首脳が政治的に採択したMDGsとは異なり、SDGsは、国と非国家主体が透明なプロセスで策定したという政治的メリットがあるため、リオ+20のハイライトとして発表されるでしょう。しかし、野心的でも全く新しいというわけでもありません。2002年のヨハネスブルグ・サミットで政治的文章のテーマ別目標が採択されていますが、それらの大半は達成されていないどころか、実際忘れられてしまっている状況です。

ETCグループとして注目し、現実的な達成目標を掲げている問題に関して、リオ+20で採択される最終的な成果文書の中に、テクノロジー関連の合意について以下の内容が盛り込まれることを期待します。

  1. 新たなテクノロジーが環境や人間の健康、生活、文化に及ぼす潜在的影響を評価する、コミュニティ・国家・地域および国際機関の能力の向上。
  2. 2008年の生物多様性会議で採択され、2010年に加盟国が確認した海洋肥沃化のモラトリアム(猶予期間)の再確認。
  3. ジオ・エンジニアリングの禁止を求める政治的宣言。

――ありがとうございました。このインタビューのご意見や質問は、neth@etcgroup.org まで英語でどうぞ。 尚、ダノさんは、6月24日までリオ+20に出席しています。





「Monthly Asian Focus: 持続可能なアジアへの視点」について

IGESでは、1998年の設立以来、アジア太平洋地域における環境問題や環境政策の動向をとりまとめた「アジアの環境重大ニュース」を毎年末に発表してきました。2011年からは、“持続可能なアジア”をキーワードに、ダイナミックに動きつつあるアジアの環境動向を、第一線で活躍する専門家の視点・考察とともにタイムリーにお届けしています。

 
   
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