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2013年から2014年にかけて、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から第5次評価報告書が発表されます。前回の第4次評価報告書(2007年)から約7年ぶりの、気候変動に関する最新の科学的知見の発表です。今月は、IGES内に置かれているIPCCインベントリータスクフォース(TFI)技術支援ユニット(TSU)のヘッドである田辺清人研究員に、IPCCとその役割がどのようなものかについて伺います。

IPCCインベントリータスクフォース(TFI)と技術支援ユニット(TSU)
IPCCインベントリータスクフォース(TFI)は、国際的に合意された温室効果ガス排出量・吸収量の算定方法を開発しその普及を行うIPCCの一部門です。TFIは、温室効果ガスの排出量及び吸収量の算定・報告手法に関する2つの方法論報告書を、2013年10月に発表しました。

TFIの技術支援ユニット(TSU)は、日本政府の支援により1999年にIGES内に設置されました。TFIの活動全般をサポートし、温室効果ガスの排出量及び吸収量の算出・報告手法に関する国際ガイドラインを策定・発行するほか、同ガイドラインのユーザーをサポートするための各種ツール(計算用ソフトウェアや関連データベース)の作成・発行、気候変動対策に関する国際ワークショップ等における温室効果ガス排出・吸収量算定方法の解説、世界中のインベントリー作成者その他からの質問への回答等を行っています。


---IPCCとはどのような機関で、どのようなところがユニークなのでしょうか?

田辺:
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立され、人間が引き起こす気候変動のリスク、その影響、及び適応と緩和の方策の選択肢に関する科学的・技術的・社会経済学的な情報を評価しています。国際機関ですが多くの専属職員を抱えているわけではなく、その活動は世界中の数千人の科学者の自発的な貢献によって支えられています。

気候変動に関わる問題は様々な分野に及び、その評価を行うために必要な専門性も多岐にわたります。そのため、作業部会(Working Group)を設けてそれぞれの分野に必要な専門家のネットワークを形成し、気候変動問題のあらゆる側面をカバーできるようにしています。第1作業部会(WG1)は自然科学的根拠、第2作業部会(WG2)は気候変動の影響、適応方策と脆弱性評価、第3作業部会(WG3)は緩和方策について担当しています。


IPCCの構造(組織図)[出所:IPCCウェブサイト]

さらに、IPCCはもう一つ、国際的に合意された温室効果ガス排出量・吸収量の算定方法を開発しその普及を行うため、国別温室効果ガスインベントリーに関するタスクフォース(Task Force on National Greenhouse Gas Inventories)を設けています。IPCC全体の事務局(在ジュネーブ)のほかに、各作業部会とタスクフォースはそれぞれに事務局機能(技術支援ユニット=TSU)を持っています。このうち、TFIのTSUは、日本政府の支援によりIGESに1999年に設置され、現在に至るまで精力的に活動を続けています。

IPCCのユニークな点として特筆すべきは、政策検討のために科学者が協力して助言を行う仕組みを、史上初めて世界規模で実現したことです。また、多岐にわたる専門性を必要とする気候変動問題を包括的・効率的に評価するため、分野ごとに専門家のネットワークを形成してそれぞれにTSUを設置し、分散型のガバナンスを行っている点も、ユニークと言えるでしょう。

--- IPCCの報告書は、気候変動問題に関する国際交渉にどのような役割を果たすのでしょうか?

田辺:
IPCCの報告書にはいくつかの種類があります。
「評価報告書(Assessment Report)」は、気候変動問題全般にわたって最新の科学的知見をまとめたもので、先に説明した3つの作業部会により数年おきに作成されます。1990年に発表された第1次評価報告書は、気候変動に関する国際連合枠組条約(国連気候変動枠組条約)の成立に寄与しました。また、1995年に発表された第2次評価報告書は、京都議定書の合意に影響を与えました。IPCC評価報告書は、気候変動をめぐる国際交渉、とりわけ国連気候変動枠組条約下において、政策上の議論に科学的な根拠を与えるという大きな役割を果たしてきたのです。最新の第5次評価報告書(*1)は、今まさに作成・発表されつつあり、国連気候変動枠組条約における2020年以降の長期的な国際枠組みの議論に不可欠なものと期待されています。

気候変動に関わる特定の問題を扱う「特別報告書(Special Report)」は、多くの場合、国際交渉の中で生まれる科学的な疑問に答えるために作成されます。最近では、「再生エネルギー源と気候変動緩和に関する特別報告書」(2011年)や「気候変動への適応促進に向けた極端現象及び災害のリスク管理に関する特別報告書」(2011年)が作成されています。

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国別温室効果ガスインベントリーに関する2006年IPCCガイドライン

TFIが作成する「方法論報告書(Methodology Report)」も、国際交渉や気候変動対策の進展に重要な役割を果たしてきました。代表的な方法論報告書である「国別温室効果ガスインベントリーに関するIPCCガイドライン(*2)」は、各国が温室効果ガス排出量・吸収量を自ら算定して報告するための共通の方法論を示すものであり、国連気候変動枠組条約や京都議定書における測定・報告・検証(MRV: Measurement, Reporting and Verification)の基盤となっています。また、TFIは、国際交渉の中で生じる特定のニーズに応えるための方法論に関する報告書も作成します。例えば、昨年秋には、大きな温室効果ガス排出源として注目を集めている湿地(特に泥炭地)に関わる方法論報告書(*3)や、京都議定書第2約束期間における土地利用や森林関連の排出量・吸収量の算定・報告方法に関する報告書(*4)を、条約や議定書の締約国の要請に応じて作成し、発表しています。

photo湿地に関するTFI方法論報告書の執筆者達(一部)。同報告書が承認されたIPCC第37回総会(2013年10月、グルジア・バツミにて)


---ありがとうございました。

  1. *1: 第5次評価報告書のうち、第1作業部会による自然科学的側面に関する報告書は、2013年9月に承認され公表されました。第2作業部会による報告書は2014年3月、第3作業部会による報告書は4月、統合報告書は10月に発表される予定です。
  2. *2: 最新版は、2006年に公表されました。 http://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/2006gl/index.html
  3. *3: 「国別温室効果ガスインベントリーに関する2006年IPCCガイドラインの2013年追補:湿地」報告書
    http://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/home/wetlands.html
  4. *4: 「京都議定書の実施のための2013年改訂版補足方法論と良好指針」報告書
    http://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/home/2013KPSupplementaryGuidance_inv.html
「Monthly Asian Focus: 持続可能なアジアへの視点」について

IGESでは、1998年の設立以来、アジア太平洋地域における環境問題や環境政策の動向をとりまとめた「アジアの環境重大ニュース」を毎年末に発表してきました。2011年からは、"持続可能なアジア"をキーワードに、ダイナミックに動きつつあるアジアの環境動向を、第一線で活躍する専門家の視点・考察とともにタイムリーにお届けしています。

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