IGES研究員にききました
    第2回 2014年7月
  • ムスタファ モイヌッディン

    ムスタファ モイヌッディン

    地球環境戦略研究機関(IGES) タスクマネージャー(緑の投資・雇用); 貿易開発エコノミスト
    アジア開発銀行(ADB)研究所及び世界知的所有権機関(WIPO)日本事務所勤務を経て現職。研究分野はエネルギー貿易と市場統合、持続可能な経済開発とグリーン経済への移行、地域協力と統合、国際貿易等。現在は、アジアにおけるエネルギー貿易、国際資金フローの決定要因、水・エネルギー・食糧連関、日本の長期エネルギーシナリオに関する研究活動を行っている。

    Muneyuki Nakata

    倉持 壮

    地球環境戦略研究機関(IGES) タスクマネージャー(エネルギーモデル分析); 研究員
    2011年からIGESに勤務し、現在は中長期CO2緩和オプションの技術・経済評価から途上国に対する日本の気候資金の分析まで、国内及び国際的エネルギー政策や気候政策に関する幅広い研究活動を行っている。

「日本版2050パスウェイ・カルキュレーター
(通称:2050低炭素ナビ)」とは?

日本は2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を1990年比で80パーセント削減することを目標に掲げています。野心的な目標ですが、2011年に起きた福島第一原発事故以後、原子力を中心とした今後数十年間の日本のエネルギーの安定的供給について懸念が膨らんだため、これを達成する道筋はさらに混迷化しました。結果、日本はいま岐路に立っています。日本が取るべき選択は、エネルギー需要の削減に注力するべきか、エネルギー供給の低炭素化に努めるべきか、いかにして発電するか、どのような技術を活用するか、など多岐に渡ります。 2014年7月にIGESが開催する「第6回持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2014)」でのウェブツール版の公開を控え、低炭素社会への長期的な転換を検討するための分析ツール 「2050低炭素ナビ」の開発に携わっているムスタファ・モイヌッディン研究員/貿易開発エコノミストと倉持壮研究員にききました。

---「2050低炭素ナビ」について教えてください。


  • 低炭素ナビ ウェブツール

英国エネルギー・気候変動省(DECC:Department of Energy and Climate Change)は2010年に、英国版2050パスウェイ・カルキュレーター(2050カルキュレーター)と呼ばれる画期的な分析ツールを開発しました。これはエクセルを用いた政策決定補助ツールで、ユーザーが温暖化対策の道筋を立て、その技術・経済的影響を科学的に信頼性のあるデータを元に検証できます。本ツールは発表時より非常に好評で、現在、2050カルキュレーターは政策決定者のみならず、有識者間の議論や市民向けの啓発活動にも活用されています。中国、ベルギー・ワロン地域、インド等では、英国に続き、政府や研究機関が独自のカルキュレーターを開発し、このたび日本でも、IGESと国立環境研究所が日本版2050パスウェイ・カルキュレーター(通称:2050低炭素ナビ)を開発しました。日本版の開発段階では、英国DECCや在京英国大使館から多大な技術・調整支援を受けました。

---「2050低炭素ナビ」の画期的なところを教えてください。

2050低炭素ナビは、政策決定者の他、エネルギー供給者や消費者(一般の人々を含む)が、日本がエネルギーや温暖化対策に関してどのような選択をすべきかを理解する一助となります。本ツールをきっかけに、将来のエネルギー構造に係る課題や利点、また気候変動への対応についての議論を活性化するのが狙いです。本ツールによって、ユーザーが温暖化対策とエネルギー安全保障のために独自の道筋を立てることができます。2050低炭素ナビは今後数十年の間にエネルギー構造がどう転換していくのか、そしてGHG排出量、エネルギー安全保障、電源構成、エネルギー技術開発がどのように推移し、経済的にどう影響するかといった根本的な疑問に答える助けになることができます。2050低炭素ナビは、専門家を対象に開発された他のエネルギー分析ツールとは異なり、関心があれば誰でも操作が可能であり、同時に科学的確証 とデータに透明性が高い点で画期的と言えます。


---日本版を開発するにあたって苦労した点はなんですか?

2050低炭素ナビは2050年という長期の見通しを行うツールなので、当然ながら不確実な点が多く伴うことが想定されます。本ツールの開発段階では、この不確実な点を踏まえて将来の道筋を立てる必要があることを念頭に置きました。2050低炭素ナビは、エネルギー需給の各部門 を網羅しています。苦労した点は、異なるシナリオ下における想定条件を明確に、簡潔に、理解し易く示しながら、ツールが正しく作動するようにし、また、科学的な妥当性を確保するところでした。この部分は非常に時間のかかる作業で、話し合いを重ね、使用データ、想定条件、計算方法の信頼性を確保し、ようやく関係者の了承を得て、公開するに至りました。


---「2050低炭素ナビ」は、今後身近なところで、どのようなことに活用されますか?

低炭素社会を実現するには、方向性と行動の明確化だけでは不十分で、市民の皆さんの参加が不可欠です。自信を持って行動を起こし、長期的な計画を立て、創造性をもって、徐々にでも自分たちの取り組みを見直していくには、包括的なアプローチが必要です。このためには、今行う決断が将来どのように影響するかを理解する必要があります。2050低炭素ナビは、日本が選択することとなるエネルギー・ミックスや温暖化対策について、様々な関係者が認識を深め、議論を行う場として役立てられます。さらに、一般の人々が広くアクセスし、意見をフィードバックすることもできます。「2050低炭素ナビ」は、一般の人々が、現在の日本が置かれている状況をより理解するためだけでなく、交渉や政策策定の過程において、政策決定者に見識を示すことにも活用できる、使いやすい啓発的、対話のためのツールなのです。


---ありがとうございました。



ページの先頭へ戻る