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IGES気候変動グループ出版物 > 月刊クライメート・エッジVol.10

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特別寄稿@
京都議定書第二約束期間に削減目標を 設定しないことの法的含意

名古屋大学大学院
環境学研究科教授(国際法)
高村ゆかり
1. はじめに

最近の次期国際枠組み交渉の大きな争点の一つは、次期枠組みの最終的な合意が、どのような法形式となるのか?議定書なのか、COP決定なのか、京都議定書改正か、新たな議定書か?である。この法形式の問題は、今年11-12月に南アフリカ・ダーバンで開催されるダーバン会議(COP17)で附属書Bの改正案と関連する京都議定書の改正案が採択されなければ、2013年1月1日以降、京都議定書の下で国際的に拘束力のある先進国の削減目標がない「空白(gap)」が生じることから、COP17での最大の争点と言ってもよい。

周知の通り、日本政府の立場は、「全ての主要排出国が参加する公平かつ実効的な国際的枠組み」の構築であり、それは「新しい一つの包括的な法的文書」によって担保されるべきであり、京都議定書の「単純延長」はしないというものである。カンクン会議(COP16)最終日の2010年12月10日には坂場COP16担当大使名で「2013年以降京都議定書の下で義務を負う意図はない」とする書簡をUNFCCC事務局長宛に提出している(1)
本稿では、こうした文脈において、第二約束期間の削減義務を定める附属書Bの改正とそれに関連する京都議定書の改正(以下、まとめて「附属書Bの改正」とする。)の案文が合意され、採択されたが、現在京都議定書の締約国である国(例えば、日本)がその改正を批准しない場合、どのような影響があり得るのかを検討してみたい。なお、本稿では、どの法形式で次期枠組み合意がなされることが気候変動問題への対処に望ましいか、日本がいかなる立場をとるべきか、といった論点にはあえて立ち入らない。現行の京都議定書とその実施規則をふまえて、附属書Bの改正を批准せず第二約束期間に削減目標を約束しない場合の影響を検討するものである。

2. 日本が第二約束期間の削減目標を負わない場合の附属書Bの改正のありよう

(1)第二約束期間の削減目標を設定する附属書Bの改正の採択と発効の条件
京都議定書の下で附属書I国(先進国)の第二約束期間以降の削減目標の決定は附属書Bの改正による(3条9項)(2)。なお、3条9項では「附属書Bの改正による」とされているが、京都議定書3条など関連する議定書本体の規定の改正もまた必要であることは締約国の共通認識である。ただし、京都議定書の規定をどこまで改正するかは締約国の間で意見が異なる。議定書の改正は、コンセンサス方式によって合意に達するよう努力するが、コンセンサス方式で合意に達しない場合には「その採択が提案される会合に出席しかつ投票する締約国の4分の3以上の多数による議決で採択」される(20条3項)(3) 。そのように採択された改正案は、「この議定書の締約国の少なくとも4分の3の受諾書を寄託者が受領した日の後90日目の日に、当該改正を受諾した締約国について効力を生ずる」(20条4項)(4) 。他方、附属書Bの改正は、「前[20]条に規定する手続に従って採択され、効力を生ずる」(21条7項)とされ、前述の議定書の改正と同様に、「採択が提案される会合に出席しかつ投票する締約国の4分の3以上の多数による議決で採択」され、4分の3の締約国の批准がなされると、批准書寄託から90日目の日に効力を生ずることとなる。ただし、附属書Bの改正は、「関係締約国の書面による同意を得た場合にのみ採択される」(21条7項)(5) 。したがって、日本が、京都議定書の第二約束期間の削減目標を定める附属書Bの改正に賛成しないとしても、採択時の会合に出席しかつ投票する締約国の4分の3(2011年7月1日現在の締約国がすべて出席しかつ投票した場合147の締約国)が賛成すれば、附属書Bの改正案は採択され、締約国の4分の3がそれを批准すれば、批准した締約国についてその改正は効力を生ずる。

別の言い方をすると、日本が第二約束期間の削減目標を負うことを望まないのであれば、現行の議定書上、二重にセーフガードがかかっている。すなわち、附属書Bの改正については、日本が採択時に書面による同意を与えないことによって、そして、採択時に仮に同意を与えた場合でも、最終的にその改正を批准しないことによって、日本が自らの意思に反して議定書の下で削減目標を負うことはない。

(2)採択時に書面による同意を提出しないことの効果
附属書Bの改正について、採択時に書面による同意を提出しないとどうなるのか、具体的には、日本が書面による同意を提出しないと附属書Bの改正の採択はできなくなるのか。これについて、現行の京都議定書にも締約国会議が採択した実施規則にも明文の合意されたルールがあるわけではない。しかし、前述のように、議定書は、明文で「その採択が提案される会合に出席しかつ投票する締約国の4分の3以上の多数による議決で採択」との採択条件を定めていることから、ある国が書面による同意を提出しない場合附属書Bの改正そのものの採択ができなくなる=同意を与えない締約国に附属書Bの改正の採択について一種の拒否権を与えていると解釈するのは適切ではないだろう。他方で、採択時にあえて書面による同意を条件としていることから、関係締約国の同意なしにその数値目標が採択されてしまうと解釈するのも適当ではないだろう。

それでは、日本が書面による同意を与えない場合に採択される附属書Bの改正案はどのような形のものとなるだろうか。最終的には、附属書Bの改正案の採択に加わる締約国の決定によることになるが、想定されるのは、附属書Bに日本の国名は記すが削減目標値を記載しない(空欄)形か、附属書Bに日本の国名も削減目標値も記載しない形である。京都議定書作業部会(AWG-KP)の最新の2011年6月17日付け修正議長案(6)では、第二約束期間の数値目標と並んで、第一約束期間の数値目標も記載される形式の複数のオプションがあり、これらのオプションが改正の基礎となれば、国名は記載するが数値目標は記載しない前者の形となる可能性が高い。また、日本が将来京都議定書の下で数値目標を書き込む可能性への期待が高ければ前者の形がやはり支持を集めるかもしれない(7)

なお、仮定の議論だが、附属書Bの改正案には同意を与えず、第二約束期間に数値目標を負わないが、それ以外の議定書の規定の改正は批准するというのは可能だろうか。議定書21条1項は、「この議定書の附属書は、この議定書の不可分の一部を成すもの」としており、原則としてそうした選択的な批准は想定されていないと考えられる。ただし、締約国がそのような形の批准をよしとして合意をすれば別である。また、同じく仮定の議論だが、日本の数値目標を記載しない形での附属書Bの改正を日本が批准するのは可能か。これもまた数値目標を負わない国が附属書Bの改正の締約国となることができるかについて締約国がいかに合意するかによるだろう。

3. 附属書Bの改正を批准せず、第二約束期間の数値目標を約束しない場合に何が起こりうるか

(1)附属書Bの改正を批准しない場合の京都議定書の運用
附属書Bの改正と関連する議定書改正が採択され、発効したが、日本がこれらを批准しない場合、これらの改正を批准した締約国はその改正の下での権利義務を負い、他方で批准しない国については前述の「空白」と類似の問題が生じることになる (8)

まず、日本が附属書Bの改正を批准せず、京都議定書の下で2013年以降法的拘束力ある削減目標を負わないとしても、京都議定書が、日本について自動的に運用を停止または効力を失うわけではない。実際のところ、京都議定書の規定を見ても、議定書の下での削減目標に依拠した規定ばかりではない。例えば、京都議定書2条2項は、附属書I国が国際航空・国際海運からの温室効果ガスの排出を削減・抑制する義務を定めているが、これは京都議定書3条1項が定めている削減目標とは独立した義務であり、仮に2013年以降削減目標がなくてもその義務がなくなるわけではない。気候変動枠組条約の下での義務の継続的履行を定めた京都議定書10条、11条も同様である(9)

他方で、京都議定書3条1項の削減目標とそれに直接に関係する規定は改正を批准しない国に対して適用できなくなるだろう。例えば、附属書I国国内の森林等吸収源に関する規則を定めた京都議定書3条3項、3条4項はいずれも3条1項の削減目標を達成するための方法を定めた規定である。また、議定書3条7項は、3条1項の削減目標を設定する方法を定めた規定で、2013年以降新たな削減目標が設定されない状況ではそのまま適用することはできない。さらに、このように適用できなくなる規定に伴って、それと関連する範囲で、規則の適用の範囲が制限されるものがありうる。例えば、京都議定書18条の下で設置された遵守手続は、特に期限は付されていないため、2013年以降法的拘束力のある削減目標がないからといって自動的に運用できなくなるものではない。しかし、第二約束期間の削減目標がなければ、その不遵守の問題については取り扱うことができなくなる。他方で、第一約束期間の削減目標の遵守については、第二約束期間の削減目標を約束しない国にも適用される。ただし、遵守手続は、第二約束期間にも締約国が引き続き削減目標を負うことを前提に作られており、第一約束期間の削減目標の不遵守に対する措置のうち、例えば、次の約束期間における未達成分の追加的削減という措置は第二約束期間の削減目標がないと適用できない。

(2)附属書Bの改正を批准しない国の京都メカニズムの利用
おそらく最も関心がもたれるのは、附属書Bの改正を批准しない国が、京都メカニズムを引き続き利用できるのかという問題だろう。現行の京都議定書とその実施規則では、国が京都メカニズムの参加資格を失えば、当該国が認可した法主体もまた京都メカニズムへの参加資格を失うとされており(10) 、第二約束期間の削減目標を持たない国は京都メカニズムを利用できないとなれば生じる経済的影響も小さくない。また、コペンハーゲン合意の下で日本が提出した、条件付きの2020年25%削減目標達成に、国外での排出削減貢献分を利用できるのかにも関わりうる問題でもある。京都メカニズムに関する現行の京都議定書およびその実施規則には、附属書Bの改正を批准しない京都議定書の締約国が京都メカニズムを利用し続けることができるかを明示に定めた規定はない。共同実施を定める京都議定書6条は、その1項で「第3条の規定に基づく約束を履行するため」締約国は共同実施事業から発行される排出枠を移転または取得できるとしている。排出量取引を定める17条は、「第3条の規定に基づく約束を履行するため」、附属書I国は排出量取引に参加することができるとしている。また、クリーン開発メカニズム(CDM)は、非附属書I国が「持続可能な開発を達成し及び条約の究極的な目的に貢献することを支援すること」と附属書I国が「第3条の規定に基づく排出の抑制及び削減に関する数量化された約束の遵守を達成することを支援することを目的とする」(12条2項)。

京都メカニズムの目的となっている「3条の規定に基づく約束」の履行がない中で京都メカニズムを利用できるか。この点は、附属書Bおよび関連する議定書の改正が採択されず、あるいは採択されたが2012年10月3日までに十分な数の国から批准書が寄託されない場合に生じる「空白」に伴う法的問題と類似の解釈上の問題が生じる。第一のありうる解釈は、共同実施も排出量取引も、その目的は、「第3条の規定に基づく約束を履行するため」であるから、「第3条の規定に基づく約束」がなければ京都メカニズムを利用することはできない、という解釈である。それに対して、「第3条の規定に基づく約束」がない場合、締約国は共同実施事業から発行される排出枠を移転または取得することはできないが、共同実施事業を実施することを妨げるものではないとする解釈もありうる (11)。同様に、排出量取引の場合、附属書B国は排出枠を移転または取得(12) (登録簿間の取引=国を超える取引)はできなくなるが、例えば、同じ登録簿内(同じ国の口座保有者間)で移転または取得することまでも妨げないという解釈も可能である 。(13)

CDMに関しては、そもそも、附属書I国による削減目標の達成支援だけではなく、非附属書I国が「持続可能な開発を達成し及び条約の究極的な目的に貢献することを支援すること」もその目的としており、2つの目的のうちの数値目標の達成の支援という目的がない場合どうなるのかも解釈は分かれる。2つの目的が並列して書かれているので双方の目的が満たされることが必要であるという解釈をとれば、京都議定書3条の下で数値目標を設定しない締約国には、CDMは利用できず、新たなCDM事業の登録もできず、排出枠も発行されないということとなろう。他方で、目的のうちのいずれかが達成されるのであればよいという解釈をとれば、附属書Bおよび議定書の改正を批准せず、第二約束期間に数値目標を負わなくてもCDMを引き続き利用できることとなる(14)

このように京都議定書とその実施規則の解釈が一義的でないとすれば、最終的にどのような解釈をとるかは締約国の合意による。

(3)京都メカニズムへの参加条件
附属書Bの改正を批准しない国が京都メカニズムを利用できるかは、京都メカニズムへの参加条件に関する改正実施規則の規定がどのように定められるかによるだろう。現行の規則では、附属書I国が京都メカニズムに参加できる(15) 条件は、@京都議定書の締約国であること、A3条7項及び8項に基づいて割当量が計算され、記録されること、B5条1項(国内制度の設置)とそれに基づいて決定された指針の条件にしたがって排出量・吸収量を推計する国内制度を設置すること、C7条4項(排出枠の勘定)とそれに基づいて決定される指針にしたがって国家登録簿を設置すること、D5条2項(調整)、7条1項(年次情報の提出)とそれに基づいて決定される指針にしたがって最新の目録を毎年提出すること、E7条1項とそれに基づいて決定されるにしたがって割当量に関する補足的情報を提出し、7条4項とそれに基づいて決定される指針にしたがって排出枠を勘定すること、とされている。

上記の参加条件で言及されている5条1項、5条2項、7条1項、7条4項のうち、7条1項を除くと、京都議定書3条の言及はない。7条1項は、附属書I国が「自国の年次目録に、第3条の規定の遵守を確保するために必要な補足的な情報…を含める」としており、提出すべき情報によっては、3条の下で削減目標を設定していないことで7条1項の下での情報提出ができなくなる可能性はある。現行の規則で7条1項の下で提出が求められている情報は、@目録に関する情報、AERUs、CERs、AAUs、RMUsに関する情報、B5条1項の国内制度の変更に関する情報、C国家登録簿の変更に関する情報、D3条14項にしたがった悪影響の最小化に関する情報で、これらの情報提出は、改正を批准しなかったからと行って履行ができなくなるわけではないように思われる。

他方で、上記の京都メカニズムへの参加条件のうち、改正を批准せず、第二約束期間の数値目標が設定されないと割当量を設定し得ないので、A3条7項及び8項に基づいて割当量が計算され、記録されること、E7条1項とそれに基づいて決定されるにしたがって割当量に関する補足的情報を提出し、7条4項とそれに基づいて決定される指針にしたがって排出枠を勘定することはできない。それゆえ、改正を批准しない国が、京都メカニズムを利用し続けるためには、改正を批准しない国でも京都メカニズムを利用することができるという締約国の合意を基礎に、実施規則において京都メカニズムの参加条件が適切に設定され、合意される必要がある。

(4)排出枠の観点から見た影響
附属書Bと関連する京都議定書の改正を批准しないことの影響を排出枠の観点から見てみよう。

まず、排出枠の発行については、そもそも削減目標が設定されないので、批准しない国に対して第二約束期間に新規の割当量単位(AAU)の発行はない。森林等吸収源活動については、削減目標を持たない国に3条4項活動(森林管理など)からの排出枠の発行を認めるか否かという問題とは別に、現行の3条4項活動に関する規則は第一約束期間限定の規則なので(16) 、3条4項活動から排出枠が発行されるためには第一約束期間終了後に適用されるルールに合意することが必要である。共同実施やCDMから第二約束期間の削減目標を持たない国に排出枠が発行されるかは、前述のように共同実施やCDMの参加条件いかんだが、加えて、共同実施活動から発行される排出枠(ERU)は、AAU、RMUが発行される範囲でのみ発行可能である。それゆえ、現行の規則によれば、第二約束期間の目標を設定しない国において、共同実施活動を行ってもERUの発行は難しくなるだろう。また、植林・再植林CDM事業に関する規則は第一約束期間限定の規則なので(17) 、この事業から排出枠が発行されるためには第一約束期間終了後に適用されるルールの合意が必要である。共同実施やCDMについては、第一約束期間末までに事業活動として承認され開始された事業で、第一約束期間を超える排出枠発行期間(18) を設定している事業があり、第二約束期間の削減目標を持たない国は京都メカニズムに参加できないことになる場合、第一約束期間にすでに承認され開始されている事業からの排出枠の発行がどう取り扱われるべきかも合意される必要がある。

排出枠の移転・獲得については、国内登録簿の中での移転・獲得は(日本が登録簿のシステムを維持する限り)影響はない。排出枠の国際的な(一国の登録簿を超える)移転・獲得ができるか否かは、締約国が、京都メカニズムを継続し、国際取引ログを含むシステムを継続するかにより、そして、第二約束期間の削減目標を持たない国もまたこうした制度を引き続き利用できるかによる。なお、国際的な移転・獲得を可能とするシステムを継続する場合にも、約束期間リザーブ、植林・再植林CDMのCERに関するルールは、第一約束期間限定の規則なので、第一約束期間終了後に適用する一定のルールの合意が必要である。

削減目標達成のための排出枠の利用について、第二約束期間の削減目標を持たない国も、京都議定書第一約束期間の国の目標達成に排出枠を利用できることには影響がない。予定では2015年半ば頃まで設定される追加期間終了までは排出枠を償却して目標達成に利用することができる。ただし、第二約束期間の削減目標を持たない国が京都メカニズムの利用できなくなるとすると、前述のように、国をまたがる排出枠の移転・獲得ができないので、第一約束期間の目標達成に不足分が生じた場合、2013年以降の追加期間において海外から排出枠を獲得して不足分を埋めて目標を達成することが難しくなる。自国の登録簿に既に保有している排出枠は償却が可能である。
目標達成などに利用しない余剰排出枠は、現行の京都議定書とその実施規則では、次期約束期間以降にバンキング(carry-over)できる。その規則を修正する新たな合意がない限り影響はない。ただし、第二約束期間の目標がないのでバンキングをしても意味がないと考える排出枠保有者がバンキング分の排出枠を早期に市場に放出し、排出枠価格への影響はあり得るだろう。

4. 結びにかえて

以上見てきたように、附属書Bの改正を批准せず、第二約束期間の削減目標を設定しない国が、京都メカニズムをはじめとする京都議定書の制度をどの程度利用し続けられるかは、議定書やその実施規則には明文で定められておらず、締約国の合意による。特に、京都メカニズムを引き続き利用できるようにするには、先に指摘したような現行の京都議定書とその実施規則、とりわけ京都メカニズムの参加条件の改正に合意することが必要である。 これまでのところ、附属書Bおよび関連する京都議定書の改正案が採択されないか、採択されたが十分な国の批准を得られず発効しない場合に生じる「空白」において、京都メカニズムが継続しないと主張する締約国はない。他方で、いくつかの途上国は、京都議定書の第二約束期間に数値目標を約束しない国には京都議定書の締約国である利益=京都メカニズムは利用させないとも主張している。2013年以降の京都メカニズムの参加要件の規則案の形成に日本も参加ができるが、第二約束期間の約束を負わないという国がそのルール形成に決定的な影響を及ぼしうるかは不透明である。他方で、改正を批准しない国に京都メカニズムの利用を認めないというルールを選択した結果、多数の先進国が京都メカニズムを利用できなくなるとすると、途上国でのCDM事業の規模やCDMの排出枠の一部を収入源としている適応基金の資金と活動にも影響がある。

附属書Bの改正そのものがダーバン会議で採択できなければ、第二約束期間の削減目標設定を同意しない国だけではなくすべての国にとって京都メカニズムをはじめとする京都議定書が構築してきた制度の運営に支障が生じうる。もちろん、例えば、京都メカニズムが引き続き利用できるかということがいかなる次期枠組みの構築が望ましいかを決定づけるものではない。しかし、京都メカニズムをはじめ、これまで構築し、活用してきた制度が利用できなくなることの影響は小さくない。京都議定書の下で第二約束期間の削減目標が設定できないことの影響とそれへの対処方法を十分に考慮して、次期枠組み交渉に臨むことが必要だろう。

*本稿は、環境省地球環境研究総合推進費「気候変動の国際枠組み交渉に対する主要国の政策決定に関する研究」(研究代表者:亀山康子)、文科省科学研究費補助金特定領域研究「持続可能な発展の重層的ガバナンス」(研究代表者:植田和弘)、同基盤研究(B)「地球温暖化の費用負担論」(研究代表者:高村ゆかり)の研究成果の一部で
ある。


1 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/kiko/pdfs/cop16_let1012.pdf(2011年7月4日参照)
2 3条9項第一文は以下のように定める。「附属書Iに掲げる締約国のその後の期間に係る約束については、第21条7の規定に従って採択される附属書Bの改正において決定する。」
3 20条3項は以下のように定める。「締約国は、この議定書の改正案につき、コンセンサス方式により合意に達するようあらゆる努力を払う。コンセンサスのためのあらゆる努力にもかかわらず合意に達しない場合には、改正案は、最後の解決手段として、その採択が提案される会合に出席しかつ投票する締約国の4分の3以上の多数による議決で採択する。」
4 20条4項は以下のように定める。「…3の規定に従って採択された改正は、この議定書の締約国の少なくとも4分の3の受諾書を寄託者が受領した日の後90日目の日に、当該改正を受諾した締約国について効力を生ずる。」
5 21条7項は以下のように定める。「この議定書の附属書A及び附属書Bの改正は、前条に規定する手続に従って採択され、効力を生ずる。ただし、附属書Bの改正は、関係締約国の書面による同意を得た場合にのみ採択される。」
6 Revised proposal by the Chair to facilitate negotiations, 17 June 2011, FCCC/KP/AWG/2011/CRP.1, p. 5-11.
7 第一約束期間の数値目標を定める現行の京都議定書の附属書Bの採択には、米国も参加し、現行の附属書Bには米国の国名と数値目標も記載されている。2011年6月17日付けの議長修正案の附属書B案は、米国の国名も第一約束期間の数値目標も記載されている。いくつかの締約国が米国の国名を記載することを求めた結果だが、米国は、自国が締約国ではない京都議定書の下での作業部会の交渉であるとして、少なくとも公式にはこれについて異議を唱えてはいない。
8 こうした「空白」が生じた場合いかなる問題が生じうるかについては、Legal considerations relating to a possible gap between the first and subsequent commitment periods, Note by the secretariat, FCCC/KP/AWG/2010/10, 20 July 2010および拙稿「京都議定書の第一約束期間と第二約束期間の間の制度の空白への対処方策に関する法的検討」『環境経済・政策学会2010年大会報告要旨集』29-30頁(2010年). http://wwwsoc.nii.ac.jp/seeps/meeting/2010/abst0827.pdf
9 前掲註8 Legal considerations, p. 11, para. 38.
10 実際には、京都メカニズムに参加する法主体が引き続き京都メカニズムを利用し続けたいと真に考えるのであれば、第二約束期間の削減目標を京都議定書の下で約束している締約国から認可を受ければよい。ただし、締約国がどの法主体に認可を与えるのかは、各国の国内法政策の問題であり、そのような認可が必ず得られるとは限らない。
11 前掲註8 Legal considerations, p. 12, paras. 42-45.
12 議定書17条の「排出量取引に参加する」について、京都議定書の第一回締約国会合(モントリオール会議)で採択されたCOP決定は、以下のように定めている。”Subject to the provisions of paragraph 3 below, a Party included in Annex I with a commitment inscribed in Annex B is eligible to transfer and/or acquire ERUs, CERs, AAUs, or RMUs issued in accordance with the relevant provisions, if it is in compliance with the following eligibility requirements:...”. Decision 11/CMP.1 Modalities, rules and guidelines for emissions trading under Article 17 of the Kyoto Protocol, ANNEX Modalities, rules and guidelines for emissions trading under Article 17 of the Kyoto Protocol, FCCC/KP/CMP/2005/8/Add.2, p. 18, para. 3.
13 前掲註8 Legal considerations, p. 13, paras. 50-51.
14 前掲註8 Legal considerations, p. 13, paras. 47-49.
15 共同実施と排出量取引については、排出枠を移転または取得することができることをいい、CDMについては、CDMの排出枠を3条の約束の達成に利用することをいう。
16 Decision 16/CMP.1
17 Decision 5/CMP. 1、Decision 6/CMP. 1
18 排出削減CDM事業は、@最大7年で2回まで更新可またはA最大10年、のいずれかを選択する。Decision 3/CMP.1。吸収源CDM事業については、@最大20年で2回更新可またはA最大30年、のいずれかを選択する。Decision 5/CMP.1

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