2015年ネパール大震災で既存の水及び災害管理に関する変革の必要性が明らかに

2015年6月

ネパールは、2015年4月25日にマグニチュード7.8、5月12日にマグニチュード7.3という2回の大震災に見舞われ、死者8,700人以上、重傷者22,000人以上、倒壊建物79万棟の被害を受けたが、その影響のほとんどは首都カトマンズを含む大きな被害が出た14地区及び西部・中央地域に集中した。


(写真: Deepak Adhikari)

この大震災によって、水関連施設が破壊され、水供給、排水、水力発電及び灌漑といった水のサービスが中断を余儀なくされた。さらに、震災による未知の地質学的な危険性が起こり、それが原因で、今後短中期的な水問題が発生する可能性も高い。目に見えるほどの地盤の亀裂や広範囲な地滑りが起こったことからも明らかなように、震災により、比較的新しく脆弱で構造的に活発な山の地盤が緩くなり、影響を受けた地域の将来的な地盤変動に対する脆弱性がより高くなった。直近の水危機に対応するだけでなく、継続的な地盤変動により起こりうる将来的な大きな問題に備えるために、ネパールの水管理のあり方に関する構造的な見直しが急務である。この変革は、水資源のみに着目するだけではなく、災害リスク削減(DRR)やレジリエンスの構築をより広範囲に促進するために、様々な異なる政策分野を関連付ける必要がある。

その中でも、至急着目すべき3つの問題は、①水と衛生に関するサービス(WASH)の中断、②ヒマラヤにおいて高まる氷河湖決壊洪水のリスク、③地滑り及び洪水の頻度の増加である。


水と衛生に関するサービスへのアクセス は、災害後の救助、救出及び復興の期間、被災者を健康に保つために必須である。水資源の汚染は、衛生状況の悪化とあいまって、下痢、コレラ及び腸チフツのような水系感染症を引き起こす可能性が高い。2010年にハイチで起こった震災ではコレラが発生し、8,900人の命が失われ、73万人が罹患したと報告されている。この二次災害に対応するためだけに莫大な予算が回され、国家計画2012-2022の実施に必要な予算は21億ドルと見積もられている。ハイチのような規模の事態がネパールでは発生していないものの、被災地へのアクセスが困難で初期段階の問題特定が難しいこと、将来的に起こりうるモンスーン及び過去の水感染症予防に関する記録が十分に整理されていないことなどが原因となり、突然急激に発生する危険性も無視できない。2009年には、中西部のJajarkot地区でコレラが発生し、3万が罹患し、そのうち500名が死亡している。

給水及び衛生施設の深刻な被害もまた報告されている。通信状況が悪く、被害の程度は未だ不明であるが、既に13万本以上の飲料水ボトルが配布されている事実は、被災地で安全な飲料水の配給が喫緊に必要であることを示している。さらに、気づかないうちに、地震により水文地質が影響を受け、天然の湧水が涸れ、他の地域で湧水が発生する可能性もある。中断されてしまった水と衛生に関するサービス(WASH)を再開させるためには、時間がかかる。とりわけ地方では、震災前も安全な飲料水と衛生設備が不十分であったため、復旧には時間が必要である。間違いなく現時点で必要なことは、震災後の効果的なWASH戦略の整備である。この戦略には、少なくとも、感染症の発生を初期段階に確認できる監視システム及び医療従事者の派遣、WASHツールキット、薬品やワクチンの提供といった感染症予防及び対策の支援を含む必要がある。

氷河湖決壊洪水のリスク(GLOF)もまた震災後の主要な社会的関心事である。気候変動の影響で氷河の後退が進行しているヒマラヤ地域では、地震により洪水が引き起こされる可能性が非常に高く、エベレスト山に近いImjaやTsho Rolphaといった氷河湖で、蓄積された溶解水が危険を引き起こす危険性が高い。国際総合山岳開発センター(ICIMOD)の専門家グループが震災後すぐに行った評価では、喫緊に起こりうる氷河湖決壊洪水のリスクはないが、氷河湖決壊洪水の可能性は否定できないとしている。今回のように迅速な評価を行う能力は、リスクに備えるために、特に震災後速やかに行うことが必須である。将来計画のためには、氷河湖決壊洪水のリスクは気候変動との関連性だけでなく、地震のようなその他の要因との関連においても評価することが必要である。

landslides

広範囲な地滑りは、以前には見られなかった今回の地震のひとつの特徴である(モンスーン地域で共通的に起こる大雨による土砂崩れとは対照的に)。国際的な科学者のチームにより1,000箇所近い地滑り地点が地図上にプロットされている。これらの地滑りは人工施設を破壊し、人命を奪っただけでなく、融雪水が流れ込む主要な河川であるMyagdi地区のKaligandaki 川を5月23日に堰き止めてしまった。15時間の間に、堰き止められた川は高さ200mで1キロ以上にわたる潜在的に危険なダム湖になってしまった。幸運にも、ダム湖の水は自然に放出されたので、鉄砲水となり下流の地域に壊滅的なダメージを与えることはなかった。もし、地滑りが雨季に発生したとすれば、河川の水位は通常よりも高く、状況はさらに悪化していた可能性もあり、制御不能であったと考えられる。

モンスーン期の急激な流出水は、既に不安定な山の斜面から、容易に土砂崩れや洪水を引き起こし、山頂の土壌を流出させてしまう。そのため、ネパールにモンスーンが到来する約1ヶ月の間に、災害リスク削減の準備と対応メカニズムを強化することが急務である。

今回のネパール大震災は、地震の危険性及び水資源計画、開発及び管理に対する新たな影響を露呈した。ネパールは既に国家水計画2005のような、洪水、地滑り、衛生と水へのアクセスに関する計画を有しているが、今回の地震により明らかになった新たな危険性に対処するには不十分である。今回と同様な地震が将来的に発生した場合に現実に起こりうる危険性については、国家計画プロセスに組み込む必要がある。

以下に、今回のネパール大震災に基づく、政府機関、開発パートナー及び地域コミュニティーに対する追加的な提言を示す。

1.水関連施設の修繕と改修するための緊急行動計画を優先させるべき:
ネパールの国民と経済は、農業と水力発電のために他の資源よりも水資源に大きく依存している。ネパール政府は、飲料水供給、衛生、排水施設、水力発電施設、灌漑施設及び洪水調整施設のような重要な施設を修繕し強化するために、資源を配分し、人的資源を活用する暫定的な緊急行動計画を作成すべきである。

2.現在進行しているもしくは将来的な水資源開発プロジェクトでは、地震により誘発される可能性がある地盤系の危険性による潜在的な影響を考慮するべき:
ネパールは、水力発電施設、ダムや灌漑用水路を含む水関連施設を開発する政策を現在推し進めている。水関連施設を建設するための基準を制定する際に、地震を潜在的な危険性のひとつとして考慮し、その基準を厳守することが必要不可欠である。このことは、高い投資を守るだけでなく、人命及び生活を保護することにつながる。

3.災害対応能力を強化することに対して政府機関に権限を与え、積極的に関与させるべき:
今回のネパール大震災で得た教訓は、将来起こりうる災害に対処する国の水資源計画を改善するために活用すべきである。水資源計画、管理及び利用に対して、災害へのレジリエンスを持つシステムを構築するために、政府機関は関連機関を積極的に関与させ、非政府系開発団体や地域コミュニティーに役割を与えるべきである。財政、技術、人的能力及び政府内の意思決定の役割を強化することが必要不可欠な第一歩である。


最後に、非常にまれであるが、大規模な破壊を引き起こす可能性のある複合的災害に対して備えることが重要である。今回の地震は幸いモンスーン期に起こらなかったが、もし起こっていれば被害はより広範囲なものであったに違いない。日本もまた、2011年の東日本大震災で、大規模地震、津波及び原子力発電施設のメルトダウンといった「3つの災害」に見舞われた。地震、モンスーンによる洪水及び氷河湖決壊洪水といった、ある災害が他の災害の影響を増幅してしまうような複合災害発生の最悪シナリオに対処する方法を、将来のネパールの災害リスク削減計画でも検討するべきであろう。

(本文章の作成に際して、下記のIGESメンバーから貴重な助言と支援を受けたことを感謝する。佐野大輔、 Mark ELDER、 Augustine KWAN、Henry SCHEYVENS、 Emma FUSHIMI)

出典:

  1. Nepal Earthquake 2015: Disaster Relief and Recovery Information Platform, Government of Nepal. http://apps.geoportal.icimod.org/ndrrip/
  2. Nepal Disaster Risk Reduction Portal Kathmandu, Nepal
  3. Nepal Earthquake 2015: ICIMOD, http://www.icimod.org/nepalearthquake2015
  4. Nepal after the recent earthquakes: reconstruction and vaccine-preventable enteric diseases http://blogs.plos.org/speakingofmedicine/2015/05/21/nepal-after-the-recent-earthquakes-reconstruction-and-vaccine-preventable-enteric-diseases/
  5. UNOCHA: Haiti Cholera Figures, April 2015 updates http://www.humanitarianresponse.info/en/system/files/documents/files/hti_cholera_figures_apr_2015_eng.pdf
  6. NASA Earth Observatory. http://earthobservatory.nasa.gov/IOTD/view.php?id=85977

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