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進み出すパリ協定の国際交渉:透明性枠組みの役割とは?

2016年11月28日

マラケシュ気候変動会議(COP22)で、透明性枠組みについての議論が始まった。透明性枠組みとは、各国が5年毎に定める国別目標の進捗状況を把握することによって、世界全体で掲げる2度または1.5度目標への到達具合を測る枠組みのことである。透明性を確保することによって、もしも世界全体の到達状況がおもわしくなければ、各国に対して、次の国別目標をより野心的に引き上げなさいよ、と促す根拠となる。このため、透明性枠組みは、パリ協定の野心引き上げメカニズムの一つの柱として重要な役割を担っている(*1)。

透明性枠組みに関するCOP22の結論からいうと、主には、今後どう議論を進めるべきかという作業計画について話し合われたのであって、中身の話はまだまだこれからである(*2)。他方、COP22の前に各国が提出した意見書からは、様々な考え方が見られて興味深い。特に途上国の“柔軟性”を伴った参加について、である。パリ協定では、全ての締約国が国別目標を掲げ、実行していくように、透明性枠組みについても全ての国が参加し実施することが求められている。しかしながら、現状、途上国の能力のレベルには違いがあるため、全ての国による参加は、柔軟性を持って行われる。最近、我々のチームで行った分析(*3)では、各国がある一定の質を保ち、かつ定期的に温室効果ガス排出量に関する国の報告を行っていくためには、気候変動に限定しない様々な統計データの収集・管理能力や多様な分野の科学者の存在など、その国の経済・開発にも直結したより根本的な政策実施能力が鍵となることが分かってきている。

さて、各国の意見書(*4)のエッセンスである。米国など一部の先進国は、温室効果ガス排出量の計算手法を分けることで柔軟性を既に保てているのではないかと指摘しているのに対して、中国・インドなどは、先進国と途上国は報告の頻度や中身などでより明確な違いを設けるべきと主張している。これらは、パリ協定以前の測定・報告・検証体制の延長を想像させる。一方、例えばロシアなどは、柔軟性の適用には一定の期限を設け、やがては多くの途上国も足並みを揃えて枠組みを実施できるよう促すことを提案している。また、カリブ海の小国、セントルシアは、排出量の小さな国には、国毎ではなく、地域でまとめて報告をするといった代替手段が用意されても良いと提案している。これらは、新たな柔軟性の活用と言える。

パリ協定における透明性枠組みの役割を踏まえ考察する。まず、パリ協定以前の実施体制を継続させることは、その当時は途上国が削減目標を持っていなかったのであるから、今後しばらくは移行期間中ということで一時的には良いとしても、中長期的には各国の国別目標の進捗を把握するという点で不十分になってくる。また、セントルシアの言うように、主要な排出国に焦点を当て、それらの国だけが正確な報告を心がけて行けば良いのではという世界は、温室効果ガス排出量に関する世界状況を把握するという点では確かに事足りるようにも一見見えるが、実際のところ、今後排出量が伸びる可能性がある途上国の存在を無視していては、長期的には困ったこととなる。また、上述の様に、透明性枠組みの実施能力と国の根本的な経済・開発政策の実施能力には深い関わりがある。したがって、現在は比較的排出規模が小さくとも、今から透明性枠組みの実施に向けて準備し、同時に経済・開発にも関わる政策実施能力を向上させることはその国にとっても有益と考えられる。パリ協定の透明性枠組みの狙いは、各国の野心引き上げにある。当然ながら、野心を引き上げると同時に、その目標を政策を通じて実行する能力も引き上げなければならない。このような視点からも今後の交渉の進捗に注目したい。

  • Kentaro TAMURA, Masahiro SUZUKI and Madoka YOSHINO. (2016) Empowering the Ratchet-up Mechanism under the Paris Agreement. Roles of Linkage between Five-year Cycle of NDCs and Long-term Strategies, Transparency Framework and Global Stocktake / IGES Publication Code WP1605.
    https://pub.iges.or.jp/pub/WP1605
  • Agenda item 5 – Modalities, procedures and guidelines for the transparency framework for action and support referred to in Article 13 of the Paris Agreement. Informal Note by the Co-Facilitators.
    http://unfccc.int/files/meetings/marrakech_nov_2016/in-session/application/pdf/apa_item_5_informal_note_v2.pdf
  • Chisa UMEMIYA, Molly WHITE (Greenhouse Gas Management Institute), Aryanie AMELLINA and Noriko SHIMIZU. (2016) Greenhouse gas emissions inventory capacity: An assessment of Asian developing countries.
    https://pub.iges.or.jp/pub/GHG-Inventory-Capacity
  • Submissions on APA items. (c) Item 5, “Modalities, procedures and guidelines for the transparency framework for action and support referred to in Article 13 of the Paris Agreement”
    http://www4.unfccc.int/Submissions/SitePages/sessions.aspx
    各国の意見書には本稿で紹介する以外の意見も含まれており、本稿ではその一部を筆者の見解を基に紹介している。実際の意見書は原文を参照されたい。

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