• 筆者
  • 西岡 秀三

    IGES 研究顧問

Climate Updates

トランプ旋風は科学も吹き飛ばすだろうか

2016年11月11日

日本パビリオンの鉄道模型

インドパビリオンは20メートルほどの壁面を豪華にLEDパネルで埋め尽くし、インドの美しい風景や原子力プラントを何基も並べた未来図を次から次に写し出す。その隣にある日本パビリオンは、インドの大きさにはかなわないが、新エネ都市模型の周りに真っ赤なLRT(軽量快速電車)と並行して新幹線が走り続ける都市・電車ジオラマが大人気で、これを背景に自撮りする人で混雑している。両国パビリオン間に置かれたいくつかのテーブルは、日印友好の場となり、いつの間にか旧友のシュクラIPCC 第3作業部会共同議長の一人専用机となって、低炭素社会仲間が論議をするたまり場となってきた。

トランプ旋風の今朝、早起き同士でシュクラ教授と気候政策やIPCC活動への影響が話題となる。

影響は少なからずあるだろう。新大統領は選挙戦の間に、「気候変動はでっちあげ」に始まり「気候変動関連国際機関へのカネを引き上げる」とか「異説を唱える人たちへのIPCCの学者の冷たい仕打ちは我慢がならない」など様々に発言している。当面の国内行政体制入れ替えから始まる諸決定の遅れによって、世界の気候政策へのブレーキは避けられないだろう。

米国パビリオン

しかし科学の世界はどうだろうか。アメリカは気候変動に関する科学観測などで間違いなく世界をリードしている。COPにおける米国パビリオンは毎年最新科学の結果を精密映像装置で示し他を圧倒している。重力衛星を使った計測でいかに南極やグリーンランドの氷が急速に減っているかを、NASAの科学者が来て正確ながらもわかりやすく説明する。次から次に温暖化が進んでいる証拠を見れば誰でも温暖化の科学が示す危機を疑わないだろう。新大統領は、選挙戦での言動はともかく、自国の科学の示すところには、ノーとは言えないのではないか。

科学面からの検証は確実に進むだろう。しかしその評価の仕事をしているIPCCへの風あたりはどうなるだろうか。科学を取り扱う第一作業部会は淡々とデータを出せばよいが、対応策を考える第三作業部会の仕事はより慎重にしなければならない。エネルギーの選択や産業転換策への評価には一層の科学的検証を重ねる必要が出てくる。IPCCでのより一層の科学的integrity(規範)の堅持が要求される。共同議長は大変だ。

IPCC第5次報告書(AR5)で示されたように、人為的気候影響が世界のあちこちで始まっている。自然の反応と科学によるその観測という自然と科学の力は政治的に否定できるものではない。トランプ旋風で気候変動の事実は否定できなく、基本的に世界政策が変わることはない。しかし、旋風によっておこされる数年間の政策の遅れとそれによる温室効果ガス排出増は、ゼロエミッション世界への転換にあと30年程度しか残されていない状況下では、人類にとっての大ピンチになるだろう。科学的知見は揺らぐことはない。政策が揺らぐとき社会を支える科学コミュニテイの使命がますます重要になる。

中央:筆者とシュクラ教授

こんな話が、マラケシュでの朝の会話である。

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