Climate Updates

国際エネルギー機関が、エネルギー起源CO2の排出量増加が停止したと
発表 ― COP21への追い風となるか?

2015年4月24日

2015年3月、国際エネルギー機関(IEA)は、2014年の世界におけるエネルギー起源のCO2排出量が前年と同量の323億トンに留まり、排出量増加が停止したと発表した。IEAによると、中国の再生可能エネルギー促進などによる石炭燃焼の減少や、経済開発協力機構(OECD)諸国におけるエネルギー効率の改善及び再生可能エネルギー促進を含む持続可能な成長政策による効果が、この主な要因である(*1)。IEAは、OECD加盟国のうち29ヵ国により運営されているエネルギーに関する世界的機関であり、定期的に世界のエネルギー統計や、中・長期のエネルギー市場の展望等を発行・配信している。

IEAによれば、CO2排出量の停滞・減少が過去40年に3度(1980年代初頭、1992年、2009年)見られたが、これらはそれぞれ、オイルショック、ソビエト連邦崩壊、世界金融危機といった経済の低迷によるエネルギー需要減少に伴うものであった。ところが、今回のCO2排出量増加の停止については2014年には世界全体で3%の経済成長が見られたことから、世界全体として初めてCO2排出と経済成長が分離(デカップリング)されたことを示唆している、と指摘している。ただし、今回の発表はあくまで速報であり、下記の二つの事項に留意が必要である。第一に、確定値は今年6月の特別報告書において発表される予定である。第二に、セメント製造等の産業プロセスで発生する排出など、非エネルギー由来のCO2排出量が計算に含まれておらず、中国ではセメント製造による排出量が増加しているとの指摘が存在することである(*2)。しかし、CO2排出量全体の8割強(*3)を占めるエネルギー起源のCO2排出量の増加が停止したというニュースは、確定値の配信時点で若干の数値修正が為される可能性を考慮しても、注目に値するだろう。

IPCC第5次評価報告書は、気候変動の深刻な被害を回避するべく気温上昇を2℃未満に抑制する「2℃目標」の達成には、将来的には温室効果ガス(GHG)排出量をゼロに近づける、あるいはマイナスにする必要があることを示すとともに、先進国が2050年にGHG排出量を80%以上削減する必要があることを示す多くの研究を整理している(*4)。こうした排出経路を実現するためには、ますます意欲的な地球温暖化対策が求められる。日本においてはこれまで、炭素排出に価格を付けることでCO2排出削減を目指す、炭素税や排出量取引制度(ETS)等を導入することの是非を巡って継続的な議論が行われてきた。その際、経済への悪影響や国際競争力低下に対する懸念から、導入に反対する声が根強くあった。IEAの今回の発表は、炭素税やETSの導入を含む地球温暖化対策を実施する国が増える中で、世界全体として経済成長が可能であることを示しており、世界経済が低炭素化に向けた転換点にある可能性を示唆するとともに、更なる排出量削減に向けた政策への後押しとなることが期待される。

今年12月にパリで開催される国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に向け、4月22日時点で既に7ヵ国・地域(スイス、EU、ノルウェー、メキシコ、アメリカ、ロシア、ガボン)が、「自主的に決定する約束草案(INDC)」を公表した。対して日本は、CO2排出量に大きな影響を与えるエネルギーミックスに関する方針が固まらない状況にあり、INDCの早期公表を見送っている。IEAチーフエコノミストのファティ・ビロル氏(IEA次期事務局長)は、「2℃未満の気温上昇に留めるには、パリにて国際社会がより積極的な気候変動政策に向けた枠組みを採択する必要がある。そうでなければ、今回の排出量増加の停止は、憂慮すべき趨勢の中の一時的な気休めになるだけだ」と警告している(*5)。気候変動問題に関しては、膨大なデータと科学的見地に基づき、GHG排出量と気候変動の関連性、およびその危険性に対する理解が進んでいる。また、経済活動への悪影響を最小限に抑える、あるいは好影響を促進させる政策設計に関する知見も集まりつつある。一度放出されたCO2は、数十年から数千年という長期間にわたり大気中に滞留するため(*6)、今後のCO2排出量が今日のレベルで高止まりするのか、もしくは大幅な減少に転じるのかによって累積排出量は大きく変わると考えられる。2℃目標達成へ向けては、累積CO2排出量を許容量(カーボン・バジェット)以下に抑える必要があることから、「今回の朗報を今後の削減努力を怠る言い訳にしてはならない」というIEAマリア・ファンデルフーフェン事務局長のコメントは非常に的を射ている。

日本は、昨年12月にリマで開催されたCOP20において、先進国の2050年80%削減目標を支持すると表明した。しかし本サイトの前回記事において、日本政府が検討中と報道された削減目標は「不十分」であり、石炭火力への追加投資などの個々の政策も含め80%削減目標と整合性がとれていないとして批判されていることを紹介した。日本には今一度、2050年、2100年という長期目標に基づいた、持続可能な発展に資するエネルギー・地球温暖化政策の構築が求められている。2011年の福島第一原子力発電所事故以来、日本のエネルギー政策、気候変動政策の動向は海外から多くの注目を浴びている。日本は、先の京都議定書の採択・発効において国際的なリーダーシップを発揮した。COP21での新たな国際枠組みにおいても、日本が改めて、他国の積極的な目標設定を先導できるに足る、環境分野での国際社会でのリーダーに相応しい姿勢を示していくことを期待したい。

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