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明日香壽川 (気候変動グループ ディレクター)

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マグナス・ベングソン (IGES持続可能な消費と生産グループ ディレクター)

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ピーター・キング(IGESバンコク事務所・主任アドバイザー)

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ラジェンドラ・パチャウリ(TERI所長)、ラビンダー・マリク(TERI日本事務所)

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片岡八束(IGES研究員)

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アンチャ・スリニヴァサン(IGES上席研究員)

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プジャ・ソーニー
(IGES研究員)

第3回 [2005年11月]
渡邉理絵(IGES研究員)

第2回 [2005年6月]
ムスタファ・カマル・ゲイ
(IGES研究員)

第1回 [2005年1月]
森島昭夫(IGES理事長)





E-alert Interviews 第11回 (February 2009)
研究者に求められる価値観と姿勢とは?

ピーター・キング
IGESバンコク事務所・主任アドバイザー

メルボルン大学、モナシュ大学大学院(環境科学修士)、マードック大学大学院(環境科学博士)修了。オーストラリア・ヴィクトリア州土壌保全局、ハワイ東西センターの環境・政策研究所リサーチフェロー等を経て環境コンサルタント会社を設立し、環境問題に関するコンサルタントとしてアジア太平洋地域で活動。1991年より環境専門家としてアジア開発銀行(ADB)に勤務。2005年より現職。現在、IGESバンコク事務所を率いるとともに、個人環境コンサルタントとしても活躍している。


環境分野での40年を越える経験
---- 長年環境問題に幅広く従事されてきましたが、これまでどのような分野に係わられてきたかを教えて下さい。

キング:

私が環境問題に大きな関心を持つようになったのは大学時代で、以来40年以上経ってもその情熱は全く変わっていません。1970年に大学を卒業後、最初に勤務したオーストラリア・ヴィクトリア州土壌保全局では、土壌侵食管理や流域管理、地力評価を担当しました。その後、ハワイ東西センターの環境・政策研究所等を経て、1982年には環境影響評価を専門に行う「テラファーマ環境コンサルタント」を立ち上げました。この会社は、その後オーストラリア最大の農業・天然資源管理コンサルタント企業ACIL Australiaと合併しましたが、私は6人の共同オーナーのひとりとして、また海外開発部長として、アジア太平洋地域における環境・天然資源・農業開発プロジェクトの戦略策定、マーケティング、プロジェクト設計及び監督を任されました。発展途上国のプロジェクトでは時に自ら現地を訪れ、専門家として様々なアドバイスを提供しました。

東ティモールでのフィールド調査
1991年からは環境専門家としてアジア開発銀行(ADB)に勤務しました。IGESの副所長である森秀行氏と出会ったのもこの頃です。インドネシアのサンゴ礁再生・管理や、中国・河南省西部の農業開発、土地劣化に関する中国と地球環境ファシリティ(GEF)のパートナーシップ、中国の水セクターにおける戦略オプション策定、中国・黄浦江流域における包括的有害化学物質輸送管理計画といったプロジェクトへの参加を通じて、融資業務分野での経験を積み、天然資源管理の専門家としてのキャリアを築きました。私が直接担当したADBの融資・技術支援プロジェクトは50件以上に上ります。その後、2001年にADB太平洋地域のマネージャーとなり、続いてディレクターを歴任し、2005年の退職前には、地域・持続的開発局の顧問として、「ADBアジア環境展望:アジア太平洋地域の環境パフォーマンスに対する企業責任」の作成に携わりました。


バンコク事務所からIGESの多様な活動を支える
---- 現在勤務されているIGESバンコク事務所における主な研究活動は何ですか?

国際機関との連携

キング:
UNEP「地球環境概況」(GEO-4)発行記念式にて
<2007年10月タイ・バンコク>
IGESバンコク事務所では様々な活動を行っていますが、ADBの環境事業センター(EOC)と共同で進めている拡大メコン準地域(GMS)コア環境プログラムが最も規模の大きいものです。このプログラムでは、IGESバンコク事務所が持続可能な開発計画と環境パフォーマンス評価の統合を支援しています。また、持続可能な開発分野の専門家から成る「アジア太平洋における持続可能な開発プランニングネットワーク(SDplanNet-Asia&Pacific)」の事務局としての役割も担っています。さらに、メコン河委員会(MRC)が取り組んでいる持続可能な水力発電開発の環境基準策定や、GEFが資金提供し国連開発計画(UNDP)も参加している国際海域:学習交換及び資源ネットワーク(IW:LEARN)が支援するコーラル・トライアングル・イニシアティブ(東南アジアからオーストラリアにまたがる世界有数のサンゴ礁海域保全)にも協力していますし、他にも国連環境計画(UNEP)の地球環境概況、アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)のアジア太平洋環境報告書等、様々な環境報告書の作成に係わっています。バンコクには多くの国連機関等が集まっているので、IGESバンコク事務所の活動を通して、IGESの存在や研究活動が広く知れ渡るようになりました。

---- 主任アドバイザーとして、IGESの研究活動全般にどのように係わっているのですか?

研究の質向上への貢献

キング:
IGES10周年記念シンポジウム 「地球温暖化に立ち向かうアジア太平洋の戦略」 特別セッションにて<2008年6月横浜>
IGESの研究成果をもとに発表する「IGES白書」をはじめとする各種出版物の作成、そして革新的・戦略的政策オプション研究(RISPO)、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)のプロジェクト、アジア太平洋環境開発フォーラム(APFED)といったIGESが係わる様々な研究活動を幅広く支援することも私の仕事です。具体的には、研究の方法論、問題定義、文献レビュー、研究の質管理、データソース、研究成果の普及等に関して、若い研究員たちに様々なアドバイスを行っています。また、研究の定義や外部資金源の特定、地域内外の機関に対するIGESの活動の広報といった支援を行っています。


環境研究に携わる研究者へ
---- これまでの経験から、研究者にはどのような価値観や姿勢が求められていると考えますか?

キング:
健全な懐疑心 - 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書が「人為起源の温室効果ガスの増加を温暖化の原因とほぼ断定」したことに対して、異議を唱える約650人の著名な科学者が、米国上院に意見書を提出しました。彼らは「背教の科学者」として敬遠されるのではなく、むしろ称賛されるべきでしょう。科学は、その時代の学説・通説に疑問を抱くことによって進歩します。人間の活動が気候変動に及ぼす影響は、当初考えられていたほど大きくない可能性もあり、そうであれば政策上これは極めて大きな意味を持ちます。気候変動の主な原因が自然現象(太陽の黒点活動、地球の自然な温度サイクル、大気中水蒸気の増加)等にあるのなら、一部政策の方向性を「ノー・リグレット・オプション(気候変動対策としての効果を除いても経済的に意味のある政策)」に切り替える必要があるからです。
つまり私が言いたいことは、性急な判断をせず、あらゆる見解に耳を傾けることができる資質こそが優れた研究者の証であるということです。IGESの研究者にも、何事にも先入観を持たず、これまで継承されてきた知見や一般的な認識に対する検証を怠らない姿勢が求められています。また、「集団思考」の危うさに常に注意を払い、たとえ少数派の意見であっても、自分が信じる立場を貫くことが大切です。

独創的発想 - 博士論文を執筆していた当時、私は自分のことを物理科学分野に属するオーソドックスな環境科学者であると考えていました。しかし、指導教官から、ケーススタディ、パターンマッチング、テキスト解析といった社会科学的手法を取り入れる必要があると指摘され、自分自身に対する認識が根底から揺さぶられてしまいました。その結果、それまで親しんできた科学誌・科学書のみならず幅広い分野の書物も読まなければならなくなりましたが、おかげで全く新しい知識の世界を発見することができました。
環境関連の知識は、様々な分野の事柄と関係しているため、ある一部分を取り出して意味のある分析につなげることが非常に困難です。環境政策のシンクタンクであるIGESは、現実世界で起こっている問題に対する革新的な解決策の提示を目指しており、既成概念にとらわれない独創性も求められています。独創性を刺激する最も良い方法は、自分の専門とは全くかけ離れた分野の書物を読むことであり、例えば経済学者は量子物理学や弦理論、物理学者は貧困分析や社会的公正に関する著書を読むべきです。もし過去に戻れるのであれば、消費者行動の変化について役立つ助言ができるように、集団心理と行動変化との関係を学びたいですね。そうすれば、狭い視野ではなく幅広い見識に基づいた政策提言を意思決定者に提供できるようになるでしょう。

楽観主義 - IGESが取り組んでいる世界・地域の環境問題に日々向き合っていると、その規模の大きさに圧倒され、悲観的・皮肉的な思考に陥りやすくなります。私自身、いっそのこともっと収入の良い仕事に転職してしまおうと考えたこともありました。しかし、学生運動に始まり、公職、政治運動、国際機関、民間企業そして研究機関に身を置き、40年以上に渡って様々な環境問題に取り組む中で、次第に「情熱を保ち続ける」術を身に付けるようになっていました。環境問題に対する私の熱意は、学生活動家としてオーストラリアのリトル・デザート保全活動をしていた頃と全く変わっていません。私の双子の娘は「お父さんはひとつずつ報告書を書いて地球を救おうとしている」と冗談めかして言うことがありますが、確かにその通りかもしれません。「報告書をひとつずつ」というアプローチが次第に人々の意識を変え、その結果、持続可能な未来のビジョンに一歩ずつ近付いているのも事実です。諦めるのはまだ早い!

持続可能な未来に向けて
---- 最後に、今後どのような研究に取り組んでいきたいですか?追究していきたいテーマはありますか?

キング:
今はまだ、その1つ1つは巨大なジグソーパズルのピースに過ぎませんが、持続可能な未来の片鱗が見え始めたと思います。私が目指しているのは、どうすればそれらのピースを正しい場所にはめ込むことができるのか、その方法をなるべく早く見つけることです。
ナノテクノロジーを脱物質化にどう活用すればよいのか?遺伝子組み換え生物と食の安全保障をどう両立させればよいのか?物質科学の発明をどう利用すればソーラーパネルの効率化が図れるのか?二酸化炭素の隔離・変換技術をどのように用いれば石油に代わるエネルギーを供給できるのか?どうすれば地球のあらゆる種が十分なスペースと適切な生息地を確保できるのか?活気にあふれ、住みやすい都市をつくるにはどうすればよいのか?あらゆる技術の進歩を持続可能性の実現に向けるにはどのような政策が必要なのか?基本的ニーズが満たされている状態で、人々が浪費をやめて生活の質(平和や平穏)に価値を見出すようにするにはどうすればよいのか?社会のために行動するように個々人を教育することは可能なのか?後戻りできない状況に陥るまであとどれだけ時間が残されているのか?地球が恐ろしい場所と化してしまう日までのタイムリミットをどうやって知ることができるのか?悲観論者と非難されることなく政治家や政策決定者に変化を促すにはどうすればよいのか?・・・これらの答えが見つかる日が近付いていると思うとワクワクしますが、同時にもう時間が残っていないのではないかという不安も感じています。

---- ありがとうございました。


インタビュアー:北村恵以子 (情報発信・アウトリーチプログラム)


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