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第15回 [2010年11月]
明日香壽川 (気候変動グループ ディレクター)

第14回 [2010年8月]
マグナス・ベングソン (IGES持続可能な消費と生産グループ ディレクター)

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小林正典 (IGESプログラム・マネージメント・オフィス コーディネーター)

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ラジェンドラ・パチャウリ(TERI所長)、ラビンダー・マリク(TERI日本事務所)

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平石尹彦(IGES理事・上級コンサルタント)

第7回 [2007年7月]
浜中裕徳(IGES理事長)

第6回 [2007年3月]
片岡八束(IGES研究員)

第5回 [2006年7月]
アンチャ・スリニヴァサン(IGES上席研究員)

第4回 [2006年3月]
プジャ・ソーニー
(IGES研究員)

第3回 [2005年11月]
渡邉理絵(IGES研究員)

第2回 [2005年6月]
ムスタファ・カマル・ゲイ
(IGES研究員)

第1回 [2005年1月]
森島昭夫(IGES理事長)





E-alert Interviews 第8回 (February 2008)
環境と開発の両立を目指して

平石尹彦
IGES理事・上級コンサルタント

東京大学工学部卒業。東京大学大学院修士課程修了。環境庁にて有害化学物質、水質汚濁等、様々な分野の公害対策に従事。ケニア大使館、経済協力開発機構(OECD)を経て、国連環境計画(UNEP)事務局にて環境アセスメント・情報局長等を歴任。1999年より気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に参画。現在はIPCC国別温室効果ガスインベントリータスクフォース共同議長を務め、日本人で唯一のビューロー委員として活躍している。

*IGES内には、1999年よりIPCC国別温室効果ガスインベントリープログラム(NGGIP)の技術支援ユニット(TSU)が設置されています。TSUは、各国が温室効果ガスの排出・吸収量目録(インベントリー)を作成する際に指針となるガイドラインを策定・発行するなど、NGGIPの実質的な運営を担っています。


ノーベル平和賞授賞式に出席
----IPCCがアル・ゴア前米国副大統領とともにノーベル平和賞を受賞し、平石さんも専門家代表のひとりとして授賞式に出席されました。

平石:

今回の受賞は、これまでIPCCに協力してきた何千人もの専門家たちの20年の努力が表彰されたわけですから、その代表として今回の授賞式へ参加できたことは、大変光栄なことです。


----今回授賞式に参加したIPCC専門家代表では、平石さんが唯一の日本人でしたね。

平石:

ノーベル平和賞授賞式に出席したIPCC代表
ノーベル平和賞の授賞式には、慣例で関係者を50人呼べることになっています。今回はIPCCとゴア氏と、それぞれ25名ずつ関係者を呼びましたが、IPCCの代表については、各ワーキンググループとインベントリータスクフォースの共同議長と副議長のほかは、パチャウリ議長が報告書の統括執筆責任者の中からくじ引きで決めたらしいですよ。

たまたま今回の授賞式にIPCCから参加した日本人は私だけでしたが、実際には多くの日本人専門家がIPCCの活動に貢献しています。

---- 授賞式の様子をお聞かせ下さい。

平石:
授賞式は、大きな壁画と一万本の花で飾られたオスロ市庁舎ホールで行われました。ノルウェー国王をはじめ王室の方々も参加され、100年の伝統を感じさせる素晴らしい式典でした。IPCCからは、パチャウリIPCC議長をはじめ25名の専門家代表が参列しました。公式な授賞式のあと、IPCCのチームのメンバーが一人ずつ賞状とメダルを持って写真を撮ったのですが、メダルは意外に軽かったですね(笑)。また、パチャウリ議長とゴア氏の演説は、どちらも非常に率直で力強いものでした。

授賞式の後に行われた晩餐会では、パチャウリ議長と冗談を言い合ったり、ゴア氏と話ができたり、非常に和気あいあいとした雰囲気でした。また、授賞式の翌日には、ノーベル平和賞コンサート等いくつかの行事が開催されましたが、なかでも子供たちのコンサートには大変感動しました。

メダルと賞状を持つ平石氏

ノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア氏と


「偶然」環境問題の道へ
----平石さんが環境問題に係わるようになったきっかけ、そしてこれまでのお仕事について伺いたいと思います。

平石:
私の人生は「偶然」の連続で、環境問題に係わるようになったのもまた「偶然」なのです(笑)。大学では化学を専攻したのですが、労働衛生問題に関心があったので、大学院修了後に労働省に入省しました。当時、日本では公害が大きな問題となっていて、1970年に公害対策本部が内閣に設立されたのですが、労働省から「偶然」私が出向することになったのです。その後、環境庁(当時)に移り、様々な分野の公害対策に係わるようになりました。「偶然」ケニア大使館と経済協力開発機関(OECD)にそれぞれ数年間出向した後は、有害化学物質対策調整官や水質規制課長などいたしました。

そして、地球環境問題が大きく注目されるようになり、1989年に環境庁とUNEP共催で「地球環境保全に関する東京会議」が開催されました。この会議担当として、ケニア・ナイロビにあるUNEPに出向したのですが、1年の約束がなぜか9年にまでなりました(笑)。UNEPでは、環境教育や環境法、関係機関との渉外・調整担当、そして職員組合の委員長まで、実に色々な分野の仕事をしました。最後は環境アセスメント・情報局長を務めて、1998年に辞職しました。

"Do You Need Me Here?"
---- その間に環境庁を退官し、UNEPの職員になられていたのですよね。

平石:
環境庁から「そろそろ戻る時期です」という通達があったときに、当時のUNEP事務局長に相談に行きました。そこで私から、政府から戻るように言ってきたが、「Do you need me here?」と質問したところ、この質問に事務局長は「That’s a very simple and easy question. We need you here!」と答えたわけです。とても単純な会話でしたが、それで私は環境庁を退官しました。

その後、1998年にUNEPを退職し、帰国することになったのですが、その頃「偶然」にIPCCのインベントリーを日本(IGES)に持ってくる話が進んでいて、共同議長にと声を掛けて戴いたわけです。そのとき私が帰ってくることになっていなかったら、別の人が共同議長になっていたのでしょう。まさに「偶然」の連続です(笑)。でも周りの方々のおかげで、これまで、継続的にやりがいのある仕事に取り組んでこられたと思っていますし、これまでの自分に後悔はしていないですね。


「環境と開発」について考える

---- ケニア大使館そしてUNEPと、ケニアには合計12年間いらっしゃったのですね。


平石:
そうですね。「途上国問題」、そして「環境と開発」について考えるときに、ケニアでの経験が私にとって大きな意味をもっています。私自身、小さい頃に父親が経営する会社が倒産して貧しい思いを経験しているので、貧しさがどういうものであるのか身に染みています。しかし、途上国、特にケニアは本当に貧しい。生きるか死ぬかという人が周囲に沢山いるのです。本やテレビを通してではなく、実際に途上国で過ごすことでいろいろなことを感じました。

私は環境に携わってきましたが、一方で、貧しさから抜け出す開発の重要性も認識しています。自然環境の保護だけを考える前に、やはり「人」を重要視してしまう。途上国がひどい状態にあることを知っているだけに、このままにしておくことは人道的ではないと思えるのです。だからこそ、環境へ悪影響を及ぼさない開発に向けて努力することが大事だと考えています。

現在、中国の急激な経済成長による環境悪化が問題になっていますが、開発自体が悪いのではなく、むやみに開発を進めるやり方が問題なのだと思います。公害問題も一層深刻になるわけですし、温室効果ガスの排出量を減らせなければ地球全体に迷惑がかかってきます。つまり、環境に優しい方法で開発を進めるということが、非常に重要なのです。日本はその技術を沢山もっているはずです。


---- 今後取り組んでいきたい環境問題は何でしょうか?

平石:
どの環境問題においても共通するのですが、貧しく劣悪な状態に置かれている人々の状況を改善しながら開発を進めるということが大きな課題だと思います。非常にチャレンジングではあるけれど、「環境的に健全な開発」に取り組んでいきたいですね。

コベネフィットの重要性
「環境と開発」について考えるときに、危惧しているのが「セクトラリズム」(縦割り)の傾向です。つまり、気候変動をやっている人は気候変動の話しかしない。気候変動への適応問題についても、これは気候変動の分野の新しい問題だから新たにまとまった資金が必要だといった縦割りの話になることが多いですね。しかし、今までに各国が行ってきた開発計画の中には、水害対策や干ばつ対策等、適応問題と切ってもきれない関係にあるものが沢山あるのです。本来は、これまである対策に足りない部分を埋めていきましょうといった議論をするべきなのです。

最近、環境と開発の「コベネフィット(副次的便益)」が注目されてきていますが、これは、環境問題への解決策が、他分野へも好ましい影響を与えることで、例えば温室効果ガス削減への取組みが、大気汚染の改善に繋がることもあるわけです。環境保全のための活動が、開発を長期的により効率的なものにするために寄与できることもあるでしょう。このような議論がさらに進めば、縦割りの壁を越えて問題全体を見渡すことができると思います。

---- 最後に、IGESへの期待をお聞かせ下さい。

平石:
IGESのプログラムマネージメントオフィス(Programme Management Office: PMO)が主に担当している、環境省への政策面の支援事業について、今後も一生懸命行う必要があると思います。これは政策立案に密接に関係する支援であり、IGESでないとできない部分だと思います。勿論、国際的な研究機関として、環境戦略についての一層高い水準の研究をするという本来の仕事があり、大いに期待しています。両方を成功させることはなかなか難しいでしょうが、IGESには志高く頑張って挑戦を続けてほしいと思っています。

---- どうもありがとうございました。




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