お知らせ

米国のパリ協定脱退表明に関するIGESコメントを発表
~世界の脱炭素化は止まらない~

2017年6月2日
1. 世界的な脱炭素化のドライビングフォースは変わらない

現在の国際的な脱炭素化の流れのドライビングフォース(原動力)は、①気候変動に関連する科学的知見の明確化、②気候変動による深刻な気象災害等の顕著化、そして③価格競争力を持つ再生エネルギーの大規模な普及、等である。今回のトランプ大統領のパリ協定脱退表明は、これら3つのドライビングフォースに影響を与える訳ではなく、つまりは世界的な大きな潮流としての脱炭素化は引き続き進展すると考えられる。

2. 世界の9割の排出量はパリ協定によってカバーされる

2014年の世界のCO2排出量(エネルギー起源)324億tに占める米国の割合は16%となっている。しかしトランプ大統領によるパリ協定脱退表明の後、カリフォルニア、ニューヨーク及びワシントン州の知事が連名で、パリ協定を遵守し積極的な取組を維持する州連合(合衆国気候連合:United States Climate Alliance)の設立を宣言した。また気温上昇を2℃以下に抑えるための準国家政府(州や県)による世界イニシアティブである「2℃以下連合(Under 2 Coalition)」には米国の10州(及び8都市)が参加しており、これらの州は全米人口の28%、CO2排出量の16%を占めている。これらの州の排出量と、パリ協定に署名したすべての国のCO2排出量を加えると、世界の排出量の9割近く(87%)となる。つまり、トランプ大統領のパリ協定脱退表明によっても、世界の排出量の9割近くを占める国、地域がパリ協定の目標に沿った取組を継続することになる。

3. 米国の企業、投資家の脱炭素化への行動は変わらない

米国の企業は、脱炭素化への動きを継続する見込みである。トランプ大統領のパリ協定脱退表明後、時価総額世界トップのアップルを始めとして、グーグル、ウォルマート、カーギル、ゼネラル・エレクトリック(GE)、ゼネラルモーターズ(GM)などの大手企業は、「米国のパリ協定離脱宣言は、自社の取り組みに全く影響しない」という趣旨の声明を次々に発表している。また、米国最大の年金基金であるカルパース(CalPERSE)も「パリ協定は、金融的な観点から合理性を持つ」とし、「長期投資における受託者として引き続きパリ協定を支持していく」との声明を発表している。

こうした声明の背景には、企業、投資家の気候変動への危機感、気候変動に関連するビジネスリスクへの対応に加え、再生可能エネルギー等のビジネス機会の拡大は経済合理性に沿っているという共通認識が広がっているためであり、米国企業や投資家は、引き続き脱炭素に向けた行動を継続する見通しである。

4. 世界における石炭利用の減少傾向が変わることもない

世界の石炭利用量は減少傾向にある。2013年の79.7億t(生産量ベース)をピークに2015年には77.1億t(暫定値)と、2年間で3.3%減少している。米国においては2011年の9.8億tから2015年には8.1億tとなっており、パリ協定の採択以前に既に減少している(2016年は6.6億tと2011年から33%減少)。雇用の面でも、2016年の石炭関連産業(石炭火力発電含む)の雇用は16万人であるが、再生可能エネルギー関連の雇用は、太陽光発電関連産業が37万人、風力発電関連産業が10万人であり、太陽光、風力関連産業だけで石炭関連産業をすでに大きく上回っている。

また中国における石炭消費量は2013年の36.1億tをピークに3年連続で減少している(2016年は2013年比で11%減少)。2016年から2017年にかけては、中国中央政府は、13次5ヵ年計画の石炭消費量削減目標の達成の観点から、116の石炭火力発電所の建設を中止させており、事業規模はあわせて1.2億kW、投資額は5000億元(10兆円前後)以上と見込まれている。インドにおいては石炭の利用はまだ増大傾向(2015年は8.4億tで2013年比14%増)であるが、既に石炭火力よりも価格競争力を持つ再生可能エネルギープロジェクトが現れており、採算性の面から、2017年5月だけで合計1370万kWの石炭火力発電所の建設計画が中止となっている。

このようにトランプ大統領の脱退表明で言及された中国やインドにおいても石炭利用が減少又は増大傾向の鈍化が見込まれており、米国のパリ協定離脱によってこの傾向が転換することはないと考えられる。

補論 パリ協定の脱退について

トランプ大統領のパリ協定脱退表明においては「パリ協定を離脱する」としているが、米国はパリ協定をすでに受諾(批准)していることから、2020年11月まで正式に脱退することはできない。さらに「米国にとって公平であるということを条件にパリ協定に再加入する」としているが、米国のために国連においてパリ協定そのものを再交渉することはあり得ない。ただし、現在、2018年の11月までを目指してパリ協定の実施に関する詳細ルールの交渉が行われており、その結果によっては、トランプ政権が「米国にとって公平なものとなった」としてパリ協定に戻る可能性はゼロとは言えない。さらに、仮にそれが2018年11月であれば、米国はパリ協定脱退の正式通知すらできていないため、国際法上は、結局、脱退も再加入もせずにパリ協定にとどまった、ということになる。今回の脱退表明において、親条約である気候変動枠組条約からの脱退を選択しなかったことによるインプリケーションがあることについて留意が必要である。

※参考

    ● パリ協定における脱退等に関する規定

    • 第二十一条
    • 1 この協定は、五十五以上の条約の締約国であって、世界全体の温室効果ガスの総排出量のうち推計で少なくとも五十五パーセントを占める温室効果ガスを排出するものが、批准書、受諾書、承認書又は加入書を寄託した日の後三十日目の日に効力を生ずる。
      【米国は2016年9月3日にパリ協定を受諾。パリ協定は2016年11月4日に発効していることから、米国に対して2016年11月4日に効力が発生している。】
    • 第二十八条
    • 1 締約国は、この協定が自国について効力を生じた日から三年を経過した後いつでも、寄託者に対して書面による脱退の通告を行うことにより、この協定から脱退することができる。
    • 2 1に規定する脱退は、寄託者が脱退の通告を受領した日から一年を経過した日又はそれよりも遅い日であって脱退の通告において指定されている日に効力を生ずる。
    • 【米国は2019年11月4日以降、脱退の通告を行うことができ、仮に同日に脱退通告したとすると、2020年11月4日に正式に脱退することになる。なお米国の次期大統領選挙は2020年11月3日を予定。】

    ● トランプ大統領のスピーチにおけるパリ協定からの脱退に関する抜粋

    • the United States will withdraw from the Paris Climate Accord but begin negotiations to reenter either the Paris Accord or a really entirely new transaction on terms that are fair to the United States, its businesses, its workers, its people, its taxpayers
      (米国はパリ協定から脱退し、米国、そのビジネス、その労働者、その人民、その納税者にとって公平であるということを条件に、パリ協定に再加入、又は全く新たな協定のための交渉を始める)
    • I’m willing to immediately work with Democratic leaders to either negotiate our way back into Paris, under the terms that are fair to the United States and its workers, or to negotiate a new deal that protects our country and its taxpayers
      (米国及びその労働者にとって公平であるということを条件にパリ協定に戻る交渉、又は自国とその納税者を保護する新たな協定の交渉、のいずれかについて民主党のリーダー達と即座に取り組んでいきたい)

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